↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
185/422

175 写真到着

 善は急げということで、担任の一瀬(いちのせ)早苗(さなえ)先生に「奉活のカタログ見せてください」と言いに行ったら、ものすごく変な顔をされた。

 普通は散々催促されてから、嫌々来るらしい。


 脇目も振らずに特区外の分厚いカタログを見ていたら、担任はさらに顔を歪めた。

「東京と神奈川以外は少ないですね」


「そりゃ……もしかして宗谷くん、いま見ているの栃木県のページなのだけど」

 声が震えている。


「……あー、ないか」

 鬼怒川の『上月(のぼりづき)旅館』はカタログに載っていなかった。


「ちなみに聞くけど……何をしているのかな?」

「なにって、温泉を探してるんですけど」


「温泉?」

 担任は首を傾げている。温泉だけじゃ、通じないだろうか。


「奉活で温泉に行きたいんですよ。ちょうど関谷さんの親戚が温泉旅館を経営しているらしいので、そこにしようかと思ったんですけど、載ってないんですよね」


 タウンページと同じで、これの登録は無料だったはずだ。

 載っていないということは、申請していないのだろう。


「ここに名前がない場合、奉活先に指定できないですよね?」

「管理番号がないから無理ね」


「そうですか。ちなみにここに載せるには、何が必要なんです?」


「この学校もやっているけど、申請書類の提出で、簡単な審査があるわ。一度だけ現場を訪れて施設を確認するの。トイレが二箇所ない場合、結構大変だって聞いたことがあるわ」


 女性用トイレしかない場合、一つを男性が使う日だけ貸し切りにするらしい。

 奉活の日にトイレを男女共用にするのは不可。


 男性が用を足している間に誰かが来たら大変なことになる。

 そういうこともあって、一度現場を見て審査する必要があるようだ。


 ただし審査は一度すればそれでよく、施設の変更などがあった場合、変更届を提出する。

 視察の必要が生じる場合は、再度チェックが入る仕様になっているようだ。


「そうなんですね。他には?」


「税金をちゃんと納めているかを確認されるわね。ペーパーカンパニーみたいに名前だけで、実態がないと困るでしょう?」

「それは重要ですね」


「あと、奉活担当責任者を決めて、年に一回、講習会参加が義務づけられているわ」

 参加費は2500円とそれほど高くない。だが、地方だと東京に出てくるだけ大変だという。


「なんか登録するだけで大変そうですね」

「男性を呼ぶのだし、それくらい普通ではないかしら」


 そんなものだろうか。なんにせよ、カタログに載っていないのなら、仕方がない。

 とりあえず奉活先の決定は保留にして、教室に戻った。


 関谷さんがチラチラ見てきたので、「残念だけど、載ってなかったよ」と教えるとまた「はうわぁ」と崩れ落ちていった。

 やっぱり、足腰に難があるんじゃなかろうか。




 家に帰ると荷物が届いていた。中身はアルバムだ。

「この前の写真か」

 姉と中央駅に行ったとき、写真館で撮影したやつだ。コスプレ写真ともいう。


「へえ……なかなかよく撮れているな」


 ページをめくると、まず目に飛び込んできたのが真っ赤なドレス。姉が着ていたものだ。

 明治時代を思わせる鹿鳴館の建物が背景となっている。


 背景はスクリーンの映像だったはずだが、こうして写真でみると、まったく違和感がない。

 この世界の技術はすごいものだ。


 俺は隣で、将軍服姿。正直、姉の派手さには負ける。

 しかも姉は、まるで花が咲くような笑顔を浮かべている。


 この笑顔。よほどドレスの写真がお気に召したようだ。

 他のページには城をバックに殿様とお姫様の写真があった。


 人気の時代劇ドラマがあるらしく、それを模した衣装だとか。

 時代劇の撮影っぽい雰囲気が出ているが、衣装はそれなりに金のかかったものなのだろう。ちゃちなイメージはあまりない。


 ペアの写真と個人の写真がうまく散りばめられていて、一冊のアルバムにうまくまとめられている。

「たしかページ数によって値段が違うんだったよな」


 現代風の写真もあった。シャツに薄手のジャケットを羽織った俺が、クールに流し目を決めている。

 姉はお嬢様然としたワンピース姿。現実とはありえない写真だからこそ、いいのかもしれない。


 撮影代とアルバム代はすべて姉が出したので、いくらかかったのか知らない。

 だが、このアルバム……三冊も必要か?


「まったく同じものが三冊……閲覧、保存、布教用? まさかな」

 どこかで聞いたことのある台詞が頭をよぎった。


 というわけで夕方、姉が学校から帰ってきたので、聞いてみた。

「私とタケくん。それから、萌ちゃんたち用よ」


「なるほど」

 それぞれ一冊と、萌ちゃんと咲ちゃんたち家族に渡すわけか。


 自分の写真を渡すなんてどんなナルシストだよと思ったが、実際に渡してみると、ものすごく喜ばれたので、これはこれで有りなのかもしれない。


 これはもしかしたら、萌ちゃんたちを連れて、写真館に行ってもいいかもしれない。


 ちなみに母はうらやましそうにみていたが、毎日顔を合わせている息子の写真をもらって嬉しいのか?


「ねえ、タケちゃん。もしかして芸能界に入ろうとか、思ってる?」

 母にそんなことを聞かれた。


 なるほど、これまでの活動を見ていたら、そう考えるのも不思議ではないかもしれない。


「いや、そのつもりはないよ。自分の好きにできそうもないし。実はそれほど興味がないんだよね」

 バラエティ番組に出て愛嬌を振りまくのはどこか違う気がする。


 かといって、俳優になって演技するのもどうなのか。

 ありのままの自分が出せればいいが、そんな仕事ばかりではない。


 自分の時間も減るだろうし、正直、芸能界に魅力を感じないのだ。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 旅館が載ってないのなら「私が載せましょう」」と言って突撃してほしいw
[良い点] 悲報:関谷さん家は対象外 [気になる点] 男性が行けるような温泉旅館は少なそう 有ってもそれだけ高い所なんだろうなぁ警備的に…
[一言] こうまで積極的に活動してるとそっちの業界に興味あるのでは?って思われても仕方ないですよね
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。