098 やっぱりおかしい
「ちょっと、アナタたち!」
キツイ口調で詰め寄ってきたのは、三十代くらいの女性が三人。
いやな雰囲気だ。
「何ですか? 話があるなら、俺が聞きますけど?」
三人の女性は、俺ではなく菊家さんや遠野さんたちに詰め寄っている。
「こんなところに男性を連れ込んで、あなたたちはどういうつもりなの!?」
こんなところとは失礼なもの言いだな。
他のテーブルにいた女性たちもムッとしている。
そもそも彼女たちも、「こんなところ」へ入って来たんだが、それを棚上げしている。
俺の席からだと、レストランの入口は丸見えだ。
彼女たちが入って来たのも当然、分かっていた。
空いている席を探そうとして俺に目を留め、三人で少し話したあと、まっすぐこっちに向かってきた。
菊家さんが俺を見る。俺は小さく頷いた。
「あなたたちは誰ですか?」
「んまぁ、口答えする気?」
「いきなり男性のいるテーブルにやってきて常識がございませんね。それでどちらさまですか? それとも名乗れないのでしょうか」
菊家さんが挑発的な返答をする。
中央駅で絡まれたあと、俺と一緒にいるとき、どう対処すればいいか徹底的に話し合ったのだ。
「こういうときはまず、ハッキリ言うんだよな。あたしらの邪魔をしないでください。あたしたちから離れてください。あたしたちに関わらないでください」
遠野さんがいま言ったことは正しい。
まず意思表示が重要。こちらが誤解しようもない言葉で伝えるのが大切だ。
「スマホのアプリはしっかりと入れてありますわ」
橋上さんが取り出したスマートフォンには、すでに通報ボタンがデカデカと表示されている。
それを押すだけで、中央府治安維持局に通報される。
GPSで場所が分かるので、すぐに職員が飛んでくるし、ここからの会話は自動で録音される。
そしてここはレストラン内。他の客もいるので、証言してくれる人はあとを絶たないだろう。
こぞって男性に不利な偽証をするとは思えない。
「あなたたちはだれで、何の目的で話しかけてきたのですか? このふたつに答えないならば、すぐに押します」
菊家さんの対応は完璧だ。中央駅でのアレが活きている。
他の客は、これから何がおこるのかと注目している。
「……くっ! わたしたちは党人会の人間よ。男性をこんなところへ連れてきたあなたたちは罪に問われるわ」
瞬間、菊家さんの眉根が寄った。
党人会……まったく嫌な記憶を思い起こさせる名前だ。
「ここは俺が自分で選んだ店ですよ。それと、『こんなところ』ではありません。とても美味しいレストランですね。気に入ったとだけ言っておきましょう」
カウンターの奥で店長だろうか。「よしっ!」とポーズをとっている。
ここまで形勢が不利になった党人会の三人だが、これからどう挽回するのだろうか。
菊家さんは一歩も引かない構えだし、遠野さんの親指はスマートフォンの画面にいまにも触れそうだ。
周囲の客はワクワクしながら成り行きを見守っている。
「……覚えておきなさいっ!」
菊家さんたちをキツく睨んでから、三人は逃げるように店を飛び出した。
ワァっと、拍手が店内に鳴り響く。
悪者を退治したヒーローを目の当たりにしたような扱いだ。
「また党人会ね」
「ああ、なんていうか、嫌な世の中になったな」
どうしてこう、外に出ると絡まれるのだろう。
対策を採っておいて良かったが、こんなことが頻繁にあるのなら、気軽に外を出歩けなくなる。
「ありがとうございます、ありがとうございます」
店長がやってきて、しきりに頭を下げる。
「いえ、ご迷惑をおかけしました」
「とんでもございません。あのような者たちなど、今度見かけたら、出入り禁止にさせます」
店長はかなり憤慨しているようだ。
「俺たちは以前も党人会に絡まれたことがあったので対処できましたが、男性をダシにして女性を非難してくるんですよ。ああいうのを見ると、腹が立ちます」
「そうでしたか……そういえば、お客様の中に同じような体験をした方がいらっしゃいました」
この店は常連でもっているらしく、店長と親しく話す客も多いらしい。
そしてやはり、男性と一緒にいたときに因縁をつけられた女性がいたという。
「党人会というのは、酷い組織ですなあ」
店長がしみじみと言うが、俺はそのところが不思議だったりする。
以前、俺は裕子に党人会について聞いたことがある。
政治に関心のなかった俺が突然、そんなことを聞き出したので、あとで何があったのかと心配された。
中央駅での一幕を話したところ、裕子は「少し、調べてみる」と言っていた。
裕子が調べると言ったのだ。通り一遍の調査ではないだろう。そう思っていた。
案の定というか、かなり詳細な調査をしたらしい。
結果からいうと、いまの党人会はおかしい。
もともと党人会は党人系議員の下部組織で、志を同じくするもの。
党人系議員と華族系議員の仲は悪い。
もう一度言おう。
党人系議員と華族系議員の仲は悪いのだ。
特区を提案し、実現に向けて動き出し、夢を現実のものとしたのは党人系の議員たちだ。
彼らは長い年月をかけて、特区をここまで大きくした。
華族系議員は、その足を引っ張る方向に動いていた歴史がある。
つまり党人系議員は特区肯定派で、華族系議員は否定派。
党人系議員の下部組織であった党人会の最近の行動は、どう考えても特区をメチャクチャにしようとしている。
「男性の権利を~~」などと言っているが、やっていることはその真逆。
俺が体験したのもそう。
中央駅では「男性を連れ回すな」と難癖をつけられ、いままた「男性をこんなところへ連れてくるな」と因縁をつけられた。
特区の理念からかけ離れた行動を党人会はしているのだ。
これはどう考えてもおかしい。
「とにかく、俺たちは気にしていませんから」
あとで裕子に今回の件も話しておこう。
党人会が敵に回るなら、どこかで対立は避けられないのかもしれない。
その後、食事を終えた俺たちは、駅で解散となった。
家まで送ると言われたが、それは丁寧に断った。
家に帰り着いてから、もちろん裕子に連絡した。




