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第1話 アロマティックハニーフラワーの蜜

片岡 渚は品川のオフィス街を、ウンザリしながら歩いていた。

今日は先輩から引き継いだ、営業先を2つもダメにしてしまった。

しかも2つともいつもはやらないような、自分のミスだ。

一つはプレゼン資料を忘れ、軽んじていると思われてしまい社長が大激怒。

もう一つはうっかり申込書を忘れてしまい、ライバル会社に丸ごと契約を取られてしまった。


「うぅ…死にたい…」

せっかくの優良顧客を逃してしまい、絶対に部長に怒られる。

帰りたくない…

むしろいっそこのまま一思いに…など考えていると…


「何ここ?喫茶店?変な文字だけど、なんか読めるわね。」

可愛らしい小人でも住んでいそうなカフェがあり、思わずふらふらと立ち寄る。

赤い屋根に白い壁には花模様が描かれている。

窓にはレースのカーテンがかかり、外には赤いキノコの形の椅子とテーブルが置いてある。

「いらっしゃいませ!」

店内には見事な金髪の可愛らしい女の子がいた。

良く見ると青と緑のオッドアイだ。

わー。

かわいい。

「こちらのお席にどうぞ!」

メニューです、と手渡されたメニューを見ると…


リモンのタルト…560ゴールド

ユスユスのパイ…420ゴールド

花リスの蜜がけパンケーキ…600ゴールド

サラリ鳥のソテーサンド…700ゴールド

夕焼けドリンク…500ゴールド

朝焼けドリンク…500ゴールド

本日のおすすめドリンク…500ゴールド

本日のおすすめランチセット…800ゴールド

本日のおすすめデザートセット…700ゴールド


「ゴールド?」

「お客様もしお持ちでなければ、何か代わりのものでかまいませんわ。」

「代わりのもの…?」

ふざけているわけでは無さそうなので、何か探す。

「ん?これとかいかがですか?」

取り出したのは、スワロフスキーがペンの上部にキラキラ詰まっているボールペンだ。

「一旦お預かりいたしますね!」

店主はボールペンを、何故か二又の黒猫に持っていく。

猫は尻尾で丸を作り、にゃーと鳴いた。

「はい、こちらのお品でしたら5000ゴールドまでご注文いただけます。食べきれないようでしたら、また次回お使いいただく事も可能です。」

「じゃあこのオススメドリンクをお願いします。」

「かしこまりました。少々お待ちくださいませ。」


得体の知れない店だけど、ドリンクなら大丈夫だろう。

「お待たせいたしました!アロマティックハニーフラワーの蜜です!」

目の前に大きな、ハイビスカスのような花が浮かんでいる。

中心にはストローがささっていて、花弁部分がコップのようになっている。

中には金色の飲み物と、キラキラ光金粉のようなものが入っている。

「かわいい…」

思わず見惚れていると、妖精がふわふわやってきて中の蜜を舐め始めた。

「妖精?」

「あ!ごめんなさい、お客様…花妖精はその蜜が好きなんです!」

アワアワと焦っているけど、羽がパンジーの形の妖精はかなりかわいい。

妖精とか花もそうだけど…

「あの、つかぬ事を聞きますが、このお店は日本でしょうか?」

「いえ、ここは聖ロベリア王国の都市アスターの町外れですわ。…日本の方からすると異世界ですね!」

明るくニコニコ言っているが、たしかに日本には妖精はいない。

「はい!またおいでくださる時には、このカードに念じてくださいね。残念ながら、資格のない方はお連れいただけませんので…」

「わかりました…たぶんまた一人で来ますね。」

この場所は私の秘密の隠れ家にしよう。

妖精が満足げに花に腰を下ろしたので、私も飲み始める。

「?!美味しい!!」

口中に金木犀のような香りが広がり、甘すぎず爽やかな飲み口だ。

ほんのりと酸味がありコクがあってとても美味しい…

思わずゴクゴク飲んでふと妖精を見ると…

手に持った紫色の雫型宝石をくれて、またふわふわ飛んでいなくなった。

「蜜のお礼ですね!お礼をくれるのは、とても珍しいのですが…幸運のお守りで、この国でも大切にされていますよ!」

よろしければどうぞ…と小さな皮袋をもらった。


お店を後にして、ふと振り返ると…

「やっぱりなくなってる…」

でも手元には皮袋とカードがあり、カードにはカフェこすも会員カード 残高4500ゴールドと書いてある。

よし!怒られに帰りますか!!


「片岡!!やっと帰ったのか!!」

やっぱり怒ってる!!

「何度も電話したんだが…」

部長の手にはメモが握られている。

「すみません!あの…私…」

「早く折り返し日程を伝えろ、契約には俺もついていくから…」

「?」

話が見えない…

もしかして今日のミスじゃない感じ?

メモを見ると、3社から大型契約をしたいから早めに来て欲しいという連絡だった。

どれも私が開拓中の新規で、こまめに挨拶しているところだった。

「決まれば、来月の給料少なくとも3000万円はいくからな!今日のミスは反省会するが、今はこの案件に集中するぞ!」

「はい!!」

もしかして…もしかして…あのお守りのおかげ?

なかなか出ない、大型契約に社内も湧き上がっている。

そして無事、3社とも契約となったのだったが、それはまた別の物語だ。


渚が帰った後のカフェで。

「じゃあメリル、換金しに行こう!」

日本という異世界とこのお店がつながって1か月、異世界の人達と交換した品々はエステルが直接お店に持っていき、換金している。

街の宝石店にくると、いつものように店主がやってきた。

最近は、最初の見下したような風は全くなく、へこへこへつらいながらやってくる。

「これはこれは!!クローバーフィールド公爵令嬢!ようこそいらっしゃいました。」

さっと案内されたテーブルには、お菓子が山盛り乗っている。

「本日のご用件は…?」

「これを買い取りお願いしたくて…」

先程のペンを取り出す。

「!!!!…これは…何と美しい意匠でしょうか…中身はガラスですが、ここまで型が揃っていて透き通っているとなると…かなりの魔法付与に耐えられる一品ですね。うーむ…大変申し訳ございませんが、今しばらくお時間をいただいても?」

奥でいつものように、値段を協議してくるのだろう。

しばらく待っていると、袋を乗せた従業員と共に現れた。

「お待たせいたしました。こちら、800万ゴールドでいかがでしょうか?」

800万?!

内心のびっくりを悟られないように、メリルに目を向ける。

メリルはうんうん頷いている。

「わかりました、ではその額で。」

「ありがとうございます!!また、ぜひ当店にお持ちください。…こちらはほんの気持ちです。」

後ろにいた従業員は、代金の金貨の袋と、キラキラのハート形のピンク色の宝石がはまったブローチを差し出した。

「ええ、また必ず。」

優雅に店を後にして…


「ちょっとメリル?800万ゴールドって何ですの?あなた数回は、飲食可能っていいましたわよね?」

「数回は可能だろう?」

「いいえ、数年は可能です!!…全く。あの方、次回からサービスしてもしたりませんわ。」

「あの子も妖精から祝福をもらった訳だし、きっと気にしているまいよ。」

まだぶつぶついうエステルと、二又猫の影が街並みにゆっくりと伸びているのだった。

休み中たくさん投稿して、皆さんの反応が良いもの優先で更新しようと思っています。

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