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魔女様の孤児院

あるところに魔女様がいました。

彼女は『時の魔女』と呼ばれていました。

悠久の時を生き、老いることがないからです。

自分にしかできないこととは何か、模索する魔女様の目に入ってきたものは……。

あるところに、一人の魔女様がいました。

若い女性の魔女様です。

彼女は人々から『時の魔女』と呼ばれていました。

何十年、何百年経っても、老いることのない魔女だったからです。




時の魔女である私に何かできることはあるだろうか。

私にしかできないことは。


森を歩き、町を歩き、魔女様は考えます。

すると魔女様はふと、とある家の前で足を止めました。

そこでは、お葬式が行われていました。

この家に住んでいた夫婦でしょうか、手をつないで寝かせられています。

永遠の眠りについた二人は、これから神の御許に行くのです。

魔女様もそっと祈りを捧げました。

立ち去ろうとしたそのとき、声が聞こえたのです。

子どもの声が。

魔女様は家の中に入り、声の主を探しました。

すると、一人の男の子が夫婦の横にいます。

夫婦の姿を見ないよう、目を背けているようでした。

魔女様は男の子に近づき、声をかけました。


「これから行くところはあるの?」

「……」


男の子は何も答えません。

どうしたものかと思っていると、神父が近づいてきました。


「時の魔女様、お祈りに来てくださったのですか?」

「はい、彼らの魂が無事神の御許へ導かれますよう。ところで神父様、こちらの子どものことをご存知ですか?」

「ええ。彼らの子どもですよ。まだ幼いのに……」

「この子はこれからどこか行く場所が?」

「うちの教会で預かる予定です。ここからは少し離れるのですが、親類もいないようですし」

「そう……。」


魔女様は男の子に目を向けた。

男の子は、涙を流していた。


「……神父様」

「はい」


「この子、私がこの地で預からせていただけませんか?」

「え?」

「父と母と共に過ごしたこの地から離れたくはないでしょう。ここで、私が責任を持って預かります。それならいいかしら?」


魔女様は男の子に問いました。


「……ぅん」


男の子は小さく頷きました。


「神父様、どうか」

「……わかりました。魔女様がそこまでおっしゃるならば、お任せいたしましょう。定期的に様子は見に参ります」

「はい、ありがとうございます」


こうして、魔女様と男の子は共に暮らし始めました。



魔女様は、時の魔女である自分にできることをようやく見つけることができました。

孤児院を作ろう。

この子のように親を亡くして悲しい思いをしている子がいるのならば、救済したい。

時の魔女である私ならば、彼らをずっと支えていける。

そう感じたのです。

魔女様は、住んでいた大きなお屋敷に『時の魔女孤児院』という札を掲げました。



魔女様の生活は一変しました。

以前は静かで寂しかった家の中は賑やかになりました。

それは良いのです。魔女様は賑やかなのが大好きですから。

ですが、子どもが集まりすぎたのです。

こんなにたくさん悲しみを抱えた子どもがいたのか。

魔女様は胸が痛くなりました。

それに魔女様は、今まで子育てをしたことがありません。

最後に子どもと触れ合ったのはいつだったろうか、そのくらいです。

これは早急に誰か経験のある人を雇わなければいけない。

魔女様はお屋敷で薬草や魔術書などを作り販売していたので、お金はたくさんありました。



魔女様が募集を出して集まったのは4人。

魔女様の知り合いの魔女達でした。

皆、子育て経験があるので、魔女様は安心しました。

彼女たちの指導の元、魔女様は子育てを一から学びました。

魔女様は改めて子育てというものの難しさ、大変さを知りました。







月日は流れ、あの男の子が孤児院から去っていく日が来ました。

魔女様は嬉しいやら寂しいやら、複雑な感情を抱いていました。


「魔女様」


男の子は立派に青年へと成長していました。


「あの時、僕を迎え入れてくれてありがとう。あなたは僕のもう一人の母です」


青年は、涙を流していました。

青年の目は、あの時の光を宿していなかった目ではありません。

これからの未来に向けての希望に満ちていました。


「私のところに来てくれてありがとう。ここはずっとあなたの家よ。いつでも帰っていらっしゃい」

「はい」


二人は抱きしめあい、共に涙を流しました。



青年が去っていく後姿を、魔女様は見えなくなるまで見送りました。


「魔女様ー!」


振り向くと、小さな女の子。

あのときの青年よりも小さな女の子。

今ここで過ごしている中で一番小さな子ども。


「中にはいろ?」


そうだ、いつまでも別れを悲しんでばかりではいけない。

私にはまだまだたくさんの子どもがいる。


「ええ。入りましょう」


魔女様は女の子と手をつないで、お屋敷の中に入りました。






あるところに、一人の魔女様がいました。

若い女性の魔女様です。

彼女は人々から『時の魔女』と呼ばれていました。

何十年、何百年経っても、老いることのない魔女だったからです。

永遠に老いることのない魔女様は、孤児院の院長として多くの子どもを見送ってきました。

悲しみを抱えた多くの子どもたちを救済し、希望ある未来へ送り届ける。

それは、『時の魔女』である彼女にしかできないことなのかもしれません。

ありがとうございました。

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