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転生令嬢は平凡なので悪役に向いていないようです ──前世を思い出した令嬢は幼馴染からの断罪を回避して「いつもの一杯」を所望する──  作者: 京泉
第四章 転生者の物語

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テラード・グリフィス

 カタカタ、カサカサ、ピコピコ、ヒューン、ガーガー、ブーン⋯⋯。

 「仕様書は行き渡った?」「サーバーは正常に動いてます」「軽食は足りるか?」「ビルの仮眠室とシャワールームの利用届け出してきました」「出前リストはカウンターにありますからねー」。


 色々な音が重なるザワザワとした雰囲気にキャラスティは目を開ける。

 そこには「いつもの中庭」ではなく「前世」のオフィスが広がっていた。

 

「よーし、始めるぞ。社員もバイトも全員準備はいいか?」

──あ、部長⋯⋯。


 懐かしい部長が太陽の光を背に受けて振り向くと騒めきがおさまり、ピリッとした空気が流れた。

 緊張と解放。不安と期待。様々な表情を見せながらも其々がカフェインたっぷりの栄養ドリンクと激クール目薬を手にモニター前に座ると男性は「いい顔だ」と満足気に頷いた。

 

「漸くここまで来たな。泣いても笑ってもこれが最後だ──デバッグ開始!」


 一斉にモニターが付く。ゲームマシンが起動し、サーバーが立ち上がってゆく。


 『恋愛ラプソディ〜恋の祝福〜』


 コールするキャラクターがランダムに変わる仕様のタイトルコール。その声と共にゲームタイトルが表示された。

 これから先、プレイとセーブを何度も繰り返す。デバッグ作業は単にゲームを遊ぶものではないのだ。ゲームを進め、バグを見つけては潰して行くもの。

 

「ははっ⋯⋯生まれ変わっても、この日の夢は何度も見るんだ。デバッグは何度やってもしんどいのに、楽しかった⋯⋯って」

「あ、ははは⋯⋯懐かしい⋯⋯ですねえ」


 「前世」の記憶に当たり前のように馴染んだキャラスティとテラードは互いに引き攣る頬で乾いた笑いを交わし、並んで「恋ラプ」の画面を眺める。

 視線を上げるとその先、サクラギとグンジがモニターに集中しているのが見えた。

 

 この頃の二人はまだ「先輩」と「後輩」。けれど並ぶ二人の姿はお似合いだ。

 ふと、サクラギの画面を覗き込んだグンジが驚いた表情をしたと思えば肩を震わせて押し笑いを始めた。


 仲の良さそうなその光景にキャラスティは苦笑いする。

 サクラギのデバッグ作業は攻略対象者とのフラグを折りまくり、正常に好感度が下がるかを調べる為にトコトン頓珍漢な選択をする担当だったのだ。


「俺の担当は、「ブラントとのエンドを迎えられるか」だったからほとんど先輩と同じ作業だったよね」

「少し面倒なんですよねブラントエンド。攻略対象者の「好感度」が少しでも上がるとルートに入っちゃうんですよね」

「そうそう。あらゆる性癖を詰め込んでいるから首を傾げるルートもハッピーエンドになってしまうんだよ」


 思えば強引な「ゲーム」だ。「攻略対象者」から向けられるものが「好意」であるならどんな結末でもハッピーエンドなのだから。


「好きだから攻略する。互いが「好き」である事が前提だからどんなエンドでもハッピーエンドが成立するのです」

「ははっ⋯⋯変わらないな「先輩」は」


 テラードは姿形が変わっても性格が変わってもキャラスティはやはり「サクラギ」だと懐かしむように笑った。


「テラード様、折角なので遊んでみたいです」

「俺達を攻略してくれるの? それは楽しみだ」

「⋯⋯攻略するのは「ゲーム」です」


 夢の世界で「ゲーム」を遊ぶ。不思議な気分が楽しくなったキャラスティはサクラギと同じく「好感度」が下がる選択をする。

 アレクスには貴族らしい答えを。シリルには素直に従い、ユルゲンには陽気とは反対の姿を見せて、テラードには甘える。少し可哀想ではあるがレトニスには塩対応。

 本来ならば「不正解」の選択。

 けれど、これはキャラスティが「ゲーム」に拘っていた時、彼らに取ってしまっていた態度。


──テラード様達を「ゲームキャラクター」だから攻略しないように⋯⋯なんて思っていたのよね。最低だったな、私。


「あれ?」


 不正解を選択していたキャラスティは「ある事」に気付き手を止めた。


「テラード様、何故不正解で「好感度」が上がっているんですか? バグですかね」


 記憶にあるゲームでは「好感度」が下がるはずだとキャラスティが首を傾げる。

 それに対してテラードは微笑んだ。


「バグじゃないよ。「ゲーム」はプログラミングされた記号に管理されているから本当なら「好感度」は落ちる。でも「キャラクター」ではない俺達には「感情」があるんだよ」


 そう言ってテラードは嬉しそうに笑う。

 ゲームキャラクター達の行動原理は全てプログラムされたもの。決められた行動パターンをなぞればクリアできるものだ。しかし自分達はゲームのキャラクターとしてではなく、生身の人間として生きている。

 だから「ゲーム」の仕様書通りに進むとは限らなく、定められたシナリオ通りの展開があってもそこに生きる者の意思があれば物語は変わるのだと。


「俺達は自分の考えでキャラ嬢への「好感度」を上げたんだよ」


『テラード様は攻略対象者よ! 攻略対象者は「ヒロイン」を、私を好きにならなくては「ゲーム」が成り立たないの! なんで悪役を好きになっているの!』


 また彼女の声が響いた。三回目ともなれば予想をしていたし、慣れるもの。キャラスティはテラードを守らなくてはと身を固くする。

 そんなキャラスティの肩を包みテラードは「大丈夫」だと囁いた。


「そんなの簡単な事さ。キャラ嬢は俺達を尊重してくれていた。相手を不快にさせない態度は人間関係で大切なものじゃないかな?」


『そんなの媚びてるだけ! 目を覚ましてテラード様! 貴方はありのままの私が好きなの! 「ゲーム」でそう言っていたじゃない!』


「ありのままを好きになる。それは素敵な事だよ。けれど、好かれる努力を怠って良いものではない。それを媚びると言うのは努力を馬鹿にする事だ」


『努力なんて必要ない! 私は「ヒロイン」! それだけで愛される! 努力しなければ愛されないなんて惨めな女のする事よ! 「ヒロイン」を返せ! 邪魔な悪役! 「あの時」のように邪魔者は死ね!』


「君は「ヒロイン」になれない。努力を馬鹿にしている君は自ら「恋ラプ」唯一のバッドエンドを選んだんだ! 俺⋯⋯グンジとサクラギが作った「ゲーム」の「ヒロイン」は努力する女の子だ!」


 罵倒に顔色を変えたテラードが叫ぶと同時にプツン⋯⋯とモニターの電源が落ち、燃え上がった仕様書が渦を巻いて声を追い払う。

 舞い上がった赤茶色のそれはまるでテラードの怒りを表しているかのようで、炎に照らされながら振り返ったテラードにキャラスティは身を強ばらせ、息を飲んだ。


「ねえ⋯⋯「あの時」ってなんの事? 君は⋯⋯「先輩」は⋯⋯知っているんじゃないか? ランゼの事を⋯⋯彼女が⋯⋯誰なのかを」


 震えながら縋るテラードにキャラスティは頷き、冷えたその両手を包んだ。


「ランゼは⋯⋯⋯⋯アイミちゃんです。マナちゃんの妹、アイミ」

「アイミ⋯⋯」


 テラードは言葉を詰まらせ驚きに目を見開いた。


「私はアイミからマナちゃんの「ブローチ」を取り戻す為にこの世界へ生まれ変わったのかも知れません。だって、グンジがマナちゃんの為に作った「ブローチ」だから。私にとっても大切なものだから」


 赤茶色の瞳からポタリと雫が落ちた。

 「前世」で行方知らずになってしまった「ブローチ」。それはアイミが奪っていた。そして、テラードは分かってしまったのだ。

 サクラギは「ブローチ」を奪ったアイミにその命をも奪われたのだと。


「⋯⋯サクラギ、先輩⋯⋯」


 テラードは強くキャラスティを抱きしめた。サクラギはもう居ないグンジも居ない。グンジはテラードでサクラギはキャラスティだ。今更どうしようもないのは理解しているのに。

 悔しくて辛くて感情が追いつかない。


「好きなんだ。この世界に生まれ変わっても、この姿になっても俺は先輩が好きなんだ⋯⋯」


 サクラギが居て幸せだった。サクラギが居なくなって悲しかった。サクラギに会いたくて苦しかった。

 グンジは分かっていたのだ。あのままでもサクラギの時間は残り僅かだったのだと。それでも少しでも長く同じ時間を過ごしたかったのに。


「なんで⋯⋯だよっなんであの子が「ヒロイン」なんだよ!」


 「前世」でサクラギの生きる時間を奪いマナを貶し、今またキャラスティを追い詰めるアイミに怒りが湧く。許せない。この手で消してやりたいとテラードは叫んだ。


 キャラスティは怒りに震えるテラードを宥めるように抱きしめ返す。

 サクラギはこんなにもグンジに愛されている。けれど、まだ伝えていない。サクラギもまたグンジを愛していた事を。


「私は⋯⋯テラード様に伝えたい事があるんです」


 「サクラギ」は誰も恨んではいない。命を縮める原因となったアイミを恨む気持ちは何処にも無い。

 孤独だったサクラギは「家族」が欲しかった。この世界に生まれ変わり、両親と祖父母、兄弟姉妹、幼馴染に友人⋯⋯沢山の幸せに囲まれている。

 テラードともこの世界で出会えたのだから幸せなのだと。


 キャラスティはそっと身体を離すとテラードに微笑んだ。


「テラード様、私は誰も恨んではいないよ。あの世界でも幸せを見つけられたんだ。グンジとマナちゃんと言う幸せを」

「先輩は、幸せ⋯⋯だった」

「幸せだった。私はグンジを愛していたよ」


 サクラギの口調での「愛していた」。それは過去形。テラードの胸がチクリと痛んだ。

 テラードは肩の力を抜くとくしゃりと髪をかき上げる。生まれ変わっても好きで愛しくて仕方がないサクラギへの想い。それがキャラスティに向かおうとしている。それは見せてはならない認めてはならないと必死に抑えてきた。

 この世界でキャラスティはレトニスが好きなのだからと。


「俺は、君に⋯⋯先輩を見ていると何度もそう、誤魔化して⋯⋯でも⋯⋯俺は⋯⋯だから、目覚めた時、気持ちを伝えさせて。振られても構わない。俺はキャラ嬢の幸せを願って、幸せを見守りたい」


 それはテラードの望み。

 切な気に微笑むテラードが光に溶け始めた。


「見守る幸せ。見守るのも⋯⋯愛だと俺は思う。気持ちを伝えてキャラ嬢の幸せを見守る。それが俺の望みだから」

「⋯⋯私は──」

「お願いだから今は何も応えないで。そうだな⋯⋯ビールを飲みながら、聞いて欲しいな」


 へらっと涙笑みで笑うテラード。

 キャラスティはやっと分かった。何故テラードの笑顔に懐かしさを覚えていたのか。それはグンジがサクラギに見せていた笑顔だったのだ。


「まあ、キャラ嬢が幸せに躓いたら遠慮はしないよ。前にも言ったけれど、キャラ嬢は結構モテるんだから」

「──モテっ!?」


 硬直したキャラスティの手の甲に口付けを落としてテラードは戯ける。

 その身体が完全に光に飲まれるとキャラスティの手の平に「種」が転がった。


「悲しませてゴメン⋯⋯グンジ」


 それはサクラギの言葉だったのか。

 キャラスティはぎゅっと種を握りその殻を砕いた。



 テラードの頬を一筋の涙が伝った。


「お兄さん⋯⋯?」


 その涙が落ち、テラードの額に浮かんでいた「種」が割れ、黒い霧を吹き出して消えて行く。


 頬に色味が戻ったテラードを見つめるカレンに切なさが広がった。何故なのか分からないけれど強い申し訳なさとほんの少しの温かさが胸に込み上げる。


 「そうだったんだ⋯⋯」


 これはマーナリアの感情。

 マーナリアはどこかの世界でテラードに恋をしていたのだろう。

 申し訳なさはサクラギに。温かさはテラードに。

 マーナリアには胸にしまい込んだ世界がある。


「ごめんなさい⋯⋯」


 何に対しての謝罪なのか。


 窓から差し込む月明かりの中で祈るカレンの頬に、一筋の涙が伝った。


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もし、感想欄に書くのは恥ずかしいけど「応援してるで」 と言ってくださる方がいらっしゃいましたらお気軽にどぞ
マシュマロ置いておきます_(:3 」∠) _

マシュマロは此方
──────────(=゜ω゜)──────────
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