表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
転生令嬢は平凡なので悪役に向いていないようです ──前世を思い出した令嬢は幼馴染からの断罪を回避して「いつもの一杯」を所望する──  作者: 京泉
第三章 「島」と「王都」の物語

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

70/108

リセットのない世界⋯王都

「いやぁあああっー!!」


 ランゼが自分の絶叫に驚き、目を見開くとふんわりとした桃色の天蓋が視界に入り、首だけを動かして見えたのはフリルの付いたベッドだった。

 はっはっと息が乱れ、額には脂汗が浮かび自慢の桃色の髪がペタリと張り付いている。

 身体を起こそうとするが小刻みに震える腕は身体を支えられずベッドに再び沈み込んだ。


「あ⋯⋯ああっ、ああああーっ!!」


 ランゼはガタガタと震えながらシーツを掻き集める。くしゃくしゃに集めたシーツを頭から被り身を守るかの様に身体を縮こませた。


「お嬢様! どうされました!?」

「来るな! あっちへ行け!」


 叫び声を聞いて飛び込んできた侍女にランゼは枕を投げ付け、ボフッと顔面に当てられた彼女は「⋯⋯失礼しました」と枕を抱えて扉を閉めた。


「くそっ! 何なのよ! 嫌な夢! 最低! 最悪!」


 ランゼは頭を掻きむしり悪態を吐く。

 夢の中で学園の何処かの庭でキャラスティを追い詰めていた。それも凄まじい憎悪を持って。


──邪魔だとは思っていた。


 夢で死を願うほどの憎悪。何故そんなに憎んでいるのか頭を抱えたランゼは必死に「何故」を探った。

 視線を忙しなく動かし、鏡台に置かれた「ブローチ」を見つけたランゼは「ヒュッ」と息を飲んだ。


──似ているからよ⋯⋯。


 攫わせる前、キャラスティと行動を共にしていた時期に感じた「既視感」。何故かキャラスティが「前世」でお姉ちゃんの隣に居た「お姉さん」に似ていると感じていたのだ。


 地味で大人しそうなのに何故か周りに人が多く、その誰もがキャラスティに「特別」な感情を向けていた。

 「お姉さん」も何処か諦めている様で人を寄せ付けない雰囲気を纏っていたのに彼氏とお姉ちゃん、周りの人達の中心で幸せそうに笑っていた。


 そのお姉さんは「ある事故」でランゼの前世だったアイミを庇ってくれた人だ。なのに、何故憎らしい感情があるのか。


──庇ってくれた? 違う。私から「ブローチ」を奪おうとして死んだのよ。階段から落ちて⋯⋯自業自得だよ。私の邪魔をしたんだ。


 アイミの邪魔をした「お姉さん」とキャラスティが重なり、憎しみが膨れ上がったランゼはこの世界で邪魔をするキャラスティを消さなければと憎悪を向けたのだ。

 キャラスティを追い詰めたランゼは言葉で痛めつけ、キャラスティの死を望んだ。その悪意は矢となり貫くはずだったのに攻略対象者達が現れ、あろうことかキャラスティを庇ったのだ。

 怒りに任せランゼがキャラスティに近付こうとした時、真っ黒な闇がランゼを飲み込んだ。


──漸く見つけた──

──お前こそ探していた我が聖女──

──我が身に相応しい──


 暗闇よりも暗い漆黒がランゼを捕らえ、聖女だと囁いた。漆黒は動けないランゼの中にズブズブと入り始めるとおぞましい気配と感触が全身に走った。ランゼが声を上げ、暴れ、抵抗してもお構いなしにどんどん入り込み、とうとう漆黒の全てがチュルンとランゼの中に収まってしまったのだ。

 その瞬間にランゼは恐怖に絶叫を上げ、その声で目覚めた。


「あっ、あ⋯⋯はっ! あああっ」


 怖い。ただの夢なのにこんなにも恐怖でどうにかなりそうだ。身体は震え涙が溢れる。


──こんなの、こんなのは「ゲーム」に無かった! 何なの一体。


 本当に無かったのか。ランゼは震えながら「前世」の記憶を掘り起こす。

 姉の隣に居たお姉さんから貰った「恋ラプ」はヒロインと攻略対象者達の恋愛を楽しむ「ゲーム」だった。だからこそランゼはこの世界で彼らと恋愛を楽しんでいる。

 邪魔者が居なくなってからは「ブローチ」の力で思い通りに「シナリオ」を進め、彼らの「好感度」は順調に上がっているはず。

 そう、それだけの「ゲーム」だ。


──本当に?──


「誰!?」


──恋するだけ?──


「うっさい! 黙れ!」


──恋の先は? 貴女のその先は?──


「知るかよっ! あいつらを落としたらそこでハッピーエンド! それで終わりだろ!」


──上手くいかなかったら?──


「だから何だ! リセットすれば良いだろ何度もリセットすれば良いんだよ! 攻略が上手くいかなかったらリセットするんだよ」


──愚かな事を。この世界でやり直しは無い。世界は続く。そして新しい物語が始まる──


「新しい、物語⋯⋯⋯⋯あ⋯⋯恋ラプ、続⋯⋯編⋯⋯やり直せない⋯⋯続きが⋯⋯ある」


 頭に響く声が導く答え。

 「ゲーム」はハッピーエンドで終わるだけ。けれどこの世界は終わらない。やり直しなど存在しない。

 そしてランゼは気付く。

 「恋ラプ続編」は冒険ものだった。

 新しいヒロインが旅をしながら新しい攻略対象者と恋をする。

 この続編は賛否両論だった。前作ヒロインの扱い。つまりランゼの扱いに。


 続編のランゼは新ヒロインの憧れであり、良き友人と言う設定だった。ランゼの登場は前作プレイ済層へのサプライズ。特別出演的なおまけだ。


 続編はゲームのスタート時、三つのルートを選ぶ。

 どれから始めても本筋に違いは無い。

 

 一つ目は前作データ引き継ぎルート。「恋ラプ」で攻略対象者と結ばれたデータがあればランゼの相手として攻略対象者を選べる。これで「ゲーム」を始めるとランゼが登場する場面で選んだ攻略対象者が隣に登場する。


 二つ目はランゼの相手が誰だか分からないルート。所謂ノーマルスタート。ランゼの登場シーンでは結ばれた相手は居るが誰だか分からない様になっている。


 問題は三つ目のルート。ランゼが前作で誰とも結ばれなかったと言う設定でスタートする。つまり、ランゼにとって攻略を失敗したルート。

 本筋は他の二つと同じだが最後が変わる。続編は冒険ものなのでラスボスが居た。そのラスボスの正体が愛し愛される事への憎しみから嫉妬と憎悪に狂ったランゼだったと明かされるものだった。

 前作ヒロインの悪役化。それがプレイヤー間で賛否が上がったのだ。どの層に需要が有るのか、前作ヒロインを貶めるのかと苦情が出ていたが、一部の層には受けていた。


「ふざけんなっ! 何だよ続編って⋯⋯じゃあ攻略対象者を誰も落とせなかったら⋯⋯」


 ゾクリとした寒気にランゼは肩を抱いた。

 大丈夫だ、順調に攻略している。「好感度」は上がっているはずだ。


「私にはブローチがあるのよ⋯⋯ブローチ?」


 「恋ラプ」の「ブローチ」は全ての攻略対象者を攻略した後に解放される「おまけ要素」だ。ある意味一人一人との付き合いを深める事が前提となっていると言えるが、何故忘れていたのか。思い出したのは「ブローチ」の特徴で重要な事だった。


 「ブローチ」の効果は着けている時のみ。外せば元の「好感度」に戻ってしまうし、「ブローチ」を身に着け、その効果を使用して「好感度」を操作している間は「本来の好感度上昇が絞られている」。

 全員の「好感度」を最高値にする為には「ゲーム」のエンディング手前のイベントまで外してはならない。


 ランゼは愕然とした。

 彼らの攻略には全て「ブローチ」を使って来たのだ。と言う事は──。


──好感度が、上がって⋯⋯ない。


 「ブローチ」の力を使わず起こした「イベント」はどれも失敗している。体の震えが激しくなる。



──嫌がらせ(紅茶)──

イベント発生:学園のパーティーで攻略中の対象者のライバル令嬢から「紅茶」を掛けられる。


 誰も嫌がらせをして来なかったパーティーではキャラスティ達が責められるよう自身のドレスに紅茶を溢し、自作自演をしたが失敗した。


──嫌がらせ(批難)──

イベント発生:中庭。「攻略対象者」との交流が進むと学園内で攻略中の対象者のライバル令嬢から行動を批難される。


 ライバルでは無いがモブ令嬢に責められた。それなのにアレクスはランゼを庇うどころかそのモブ令嬢に窘められる始末だった。


──嫌がらせ(突き落とし)──

イベント発生:学園内。攻略中対象者のライバル令嬢に階段から突き落とされる。


 キャラスティを消してからライバル令嬢達は何かとランゼに絡んで来た。おかげでランゼとライバル令嬢が対立している雰囲気を作れたのだが、ランゼは悪役とヒロインの対立をより印象付ける為にリリックへ近付き、階段から突き落とされようとしてもリリックは休み時間になると何処かへ姿を消していた。

 姿が見えないのなら都合が良いと自ら階段から落ち、リリックの名前を出した。

これは結構な出来事になったが「リリックが突き落とした」と言う空気は、アレクス自らの「リリックは無関係」宣言がされ、あろうことかセレイス公爵家がリリックの実家、スラー家の後ろ盾に付いたと噂が流れた為にあっという間に沈静化してしまった。



 「イベント」が失敗すれば「好感度」は上がらない。「ブローチ」の力で成功している「イベント」は「好感度上昇」は抑えられている。


「⋯⋯そんな⋯⋯そんなっ! ⋯⋯うっ⋯⋯え」


 強烈な吐き気が込み上げる。


「上げなきゃ⋯⋯急いで落とさなきゃ⋯⋯」


 漆黒が入り込んだのは「夢」だ。現実では無い。

 しかし、込み上げるのは憎悪は現実だ。

 幸せの邪魔をするお姉ちゃんが憎い。幸せの邪魔をしたお姉さんが憎い。幸せになるヒロインの邪魔をするキャラスティが憎い。幸せにしなくてはならないランゼに靡かない攻略対象者達が憎い。

 ランゼの心にドロドロとした漆黒が広がる。


「私はヒロインよ。この世界は私が主役なのよ!」


 「前世」では誰もが羨やむ場所の中心に居た。この世界でも中心に居るべきなのだ。



──漸く見つけた──

──お前こそ探していた我が聖女──

──我が身に相応しい──



 部屋の前が騒がしい。

 「開けろ!」と叫んでいるのは父親か。その喧騒に混じり「夢」の声が聞こえた気がした。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
──────────(・ω・)──────────
もし、感想欄に書くのは恥ずかしいけど「応援してるで」 と言ってくださる方がいらっしゃいましたらお気軽にどぞ
マシュマロ置いておきます_(:3 」∠) _

マシュマロは此方
──────────(=゜ω゜)──────────
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ