雨上がりの朝
この扉を開ければ少しの緊張を浮かべた彼女が迎えてくれる。
そう信じて踏み入れた部屋は静まり返り、やけに肌寒かった。
見廻しても求める姿は無く、数日前には柔らかく香っていたカモミールの代わりに焦げた匂いが鼻をつき一層不快な気分にさせられた。
少しでも彼女の匂いを取り戻したくてバルコニーへの窓を開ければプランターが転がり、ハーブの苗が踏みにじられている酷い有様にあの日の彼女がハーブを摘んでいる残像が重なる。
吐き気が込み上げ、心臓が押し潰される息苦しさに手を付いた指先がコツンと触れたのは一昨年の聖夜祭にお揃いだとプレゼントしたスノードーム。
外泊届けが飛ばされないようにとペーパーウェイト代わりに使っているのは彼女らしいと押さえられていた外泊届けに震える指を滑らせ、行き先の項目にトレイル邸だと記入されているのを何度もなぞった。
ふと、彼女の事だから隣の部屋で昨夜の事には気が付かず、うっかり寝入ってしまっているのではないか。そうに違いないと普段なら憚られる寝室を開けて二度目の失望に膝を付いた。
こんな事が起きるのなら、用意の間待っていれば良かった。こんなに苦しいのなら、離れなければ良かった。こんなに後悔するのなら⋯⋯どうすれば良かったのか。
昨日は笑っていた。楽しそうにはしゃいでいたのに。
これは夢だ。夢に違いない。
悪夢なら早く覚めてくれと拳を振り上げ床を殴り付けた。何度も何度も打ち付ける拳に痛みは広がるのに夢が覚める事はなかった。
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窓に撥ねる雨粒が幾重にも筋を繋げて流れ落ちる。
ポツポツとした雨の降り始めの頃にウィズリ家とラサーク家はトレイル邸へと到着した。
長旅だったにもかかわらず矍鑠としたエリザベートを応接室へとエスコートするレトニスの所作を一つ一つ指摘指導する様は「相変わらずお元気だ」と感心する。
「本降りになる前に着いてよかったですね」
「キャラスティとリリックはまだ来ていないのですか? こんな雨になる前に行動するのは当たり前ですよ」
「学園の授業がありますからね」
「だいたい、トレイル家がご厚意で下宿をさせてくれると言ったのにあの子は勝手に寮に入って、まったく。カミーラに似て頑固な子ね」
「決めた事を曲げないのはお義母様にそっくりですわ」
嫁と姑の和かな戦いを眺めながら「小言も相変わらずだよ」と零した大叔父はエリザベートに睨まれ肩を竦めた。
エリザベートが強い印象を相手に与えるのとは対照的に大叔父テリイ・ウィズリ伯爵からは穏やかでのんびりとした印象を受ける。
「母さんはあれでもキャラスティを可愛がっている」と苦笑するのはテリイにそっくりなジャスティン・ラサーク子爵。
「あなたっ」と夫人のカミーラに微笑まれながら余計な事を言うなと腕を抓られてテリイと同じように肩を竦めた。
ウィズリ家とラサーク家は女系が強いらしい。
微笑ましい一家がこうして並ぶとキャラスティはテリイとジャスティンの気質を受け継ぎ、本人は地味だと言うがきつめ美人のエリザベートとカミーラの容姿を受け継いでいるものだとしみじみと実感する。
「お待たせして申し訳ありませんが、キャラスティとリリックを迎えに行ってまいります」
二人を迎えに行く旨を両家に一言告げると、両親の間で大人しくしていたキャラスティの弟マーティンがぱっと表情を明るくさせてレトニスの袖口を摘んだ。
「僕も行きたいです」と見上げる上目遣いが可愛らしい。姉弟なだけあってマーティンは幼い頃のキャラスティによく似ている。
黒味が強い濃紫紺の髪と瞳は自分とキャラスティに子供が出来たらこんな感じだろうか。「お父様」と呼ぶ我が子の妄想にレトニスの目尻が下がった。
そんなレトニスの妄想に寒気を感じたのかマーティンは一瞬たじろいだが「一緒に行こう」と手を引けば「はいっ」と嬉しそうな笑顔を見せた。
「まあっ! トレイル家の次期当主である貴方が下の者を迎えに行くなど、あってはなりません。そもそもトレイル家に連なる者としてキャラスティは自覚が足りなすぎるのです。まったく。
ジャスティン、早く迎えに行きなさい。雨も降って暗くなって来ているのですから「わたくしの」可愛い孫達に何かあってからでは遅いのですよ」
「お義母様、正確にはリリックはマリアナ様の「孫」で、キャラスティは「私」の娘ですわ」
「細かいことはよろしいっ。カミーラも一緒に早く行きなさい! あの子達が待ってるわよっ」
エリザベートの言葉に慌ててレトニスは自分が行くと主張するがジャスティンも娘に一番に会うのだと譲らず、誰が迎えに行くかの押し問答の末、レトニスとジャスティンが迎えに行くことになると蚊帳の外だったテリイが「私だって一番に会いたいなあ」と零しエリザベートに扇で太腿を叩かれションボリと縮こまった。
そんなテリイに申し訳ないとは思うが、これからテリイとエリザベートのもう一人の息子アルバートが店を閉め次第来る事を考えればテリイには残ってもらう方が良い。親子の積もる話もあるだろう。
「早くお行きなさい」とエリザベートに急かされ苦笑しながらもレトニスは「しばらく賑やかになる」と嬉しく感じていた。
王都のトレイル邸ではレトニスが一人で生活をしている。執事のエガルや御者のスコア、自分の護衛の騎士団、使用人達が居ると言っても常に一人だ。
両親との関係が悪い訳ではないがレトニスが学園に入り、王都での生活が始まると煩わしい王都での付き合いをレトニスに任せて領地に拠点を移してしまった。
それこそ最初の一年は二ヶ月に一度一週間程度滞在する形で会いに来てくれていたが二年目からはどうしても出席しなくてはならない場合を除けば殆ど王都にやって来ないのだ。
だからキャラスティとリリックが学園に入ると決まった時は嬉しさのあまりレトニスは先走って二人の部屋を整えた。
トレイル邸で生活してもらえば三人で通える、家に帰っても寂しく無くなる、一人では無くなると楽しみにしていた。
なのに、結局寮に入られ、最近になってやっと理由を知ったが、学園に入ったキャラスティはレトニスを避け始め、リリックにも理由は分からないと首を振られ悶々とした日々を過ごす羽目になってしまった。
キャラスティには今でも微妙な距離を取られているがそれが「恐怖」からではなく自惚れでも「幼馴染」ではない自分を意識したものに変わって来ていると先日の様子で垣間見えたのだから浮かれるのは当然だ。
──望みはある。この機会を逃さなければ。
エリザベートの誤解からだとしてもウィズリ家とラサーク家が来たことは好機だ。
キャラスティがレトニスの監視が行き届かない所で問題を起こしていると思われているのだからエリザベートはキャラスティとリリックにトレイル邸へ入れと言うだろう。誤解を解きつつ、そう言わせなくてはならない。半ば無理矢理でもトレイル邸に入ってくれるなら御の字だ。
「レトニス様、お顔が⋯⋯」
余程ニヤけていたのか身長的に下から見上げることの出来るマーティンに「悪い顔をしてます」と怯えられてレトニスはわざとらしい咳払いの後、微笑んで見せた。
柔らかく微笑んだつもりだったがヒュッと息を飲んだマーティンは「な、何でもありません」と頬を染める。その仕草も流石の姉弟。小さいキャラスティが恥ずかしがっている様でレトニスはイケナイ気持ちになって来た。
緩みきった表情で頭を撫でて来るレトニスの妄想を再び寒気として察したマーティンは慌ててジャスティンの手を引き「お姉様がお待ちです」と先を急がせる。
──つれない所もキャラスティにそっくりだ。
「坊ちゃんはただ今来客中です!」
「失礼は承知の上です!どうか、トレイル様に会わせて下さいっ」
レトニスがマーティンに邪な妄想をしていることを隠し、表向きは紳士的にジャスティンと会話を交わしながら進む廊下に声が響いた。
ジャスティンとレトニスは顔を見合わせ耳をすませば訪問者とトレイル家の侍女が揉めているようだった。
レトニスには切迫した訴えの声に聞き覚えがある。学園付侍女、ユノの声だ。
ユノが雨の中やって来た事に胸が騒いだレトニスはエントランスへ急いだ。
「ユノさん!?」
「ああっ! トレイル様、キャラスティ様はこちらに、いらしておられますか!?」
雨に濡れたユノは青ざめ、震えながら寮で火事が起きた。燃えたのは裏の林と林に面していた応接室だけで寮生は無事だったが、キャラスティだけが忽然と姿を消した。もしかするとトレイル邸へ既に来ているのではないかと雨の中、馬を駆ってきたのだとやっとの体で言葉を紡ぐ。
「いらして、ないの⋯⋯です、か」
絶望の色を濃くして崩れ落ちるユノを支えながら目の前が真っ暗になった。
──キャラスティが居なくなった──
込み上げる恐怖に震えが起きる。
「ジャスティンさん、俺、先に行きます⋯⋯ユノさんをお願い、します」
「私も後から必ず行くから⋯⋯キャラスティを頼んだよ」
ジャスティンは穏やかに頷く。娘の身に何かが起きた。本当は自分が飛び出したかった。それでも平静を装ったのは話の内容からこのままマーティンを連れては行けない。ラサーク家の跡取りを安全なエリザベート達の元へ届けてからだとジャスティンは判断し、青ざめながらもマーティンとユノを連れ応接室へと引き返す。
エントランスを出たレトニスはユノが乗って来た馬に飛び乗り雨の中を学園の寮へと駆け出した。
トレイル邸を出た時には本降りだった雨もレトニスが寮へ着く頃には小雨になった。
寮の正面は普段と変わらない佇まいのまま辺りに焦げた臭いと消火活動の名残が散乱し、険しい表情で騎士団が出入りする様は女子寮に似つかわない物々しい雰囲気だった。
「おや? レトニス君。今日はキャラスティのご家族が君の──あっちょっと!」
フラフラと寮へ向かうレトニスを止めたのは現場検証に来ていたエミール・シラバートだ。エミールは無言で通り過ぎようとするレトニスの肩を掴む。
「この先はダメだよ。建物の損傷はそれ程大きくはないけれどまだ検証中だから。寮生は空いている寮へ避難しているよ⋯⋯どうかしたのかい?」
エミールはレインコートも傘もなくずぶ濡れのまま俯くレトニスの異様さに眉をひそめた。
キャラスティから聞いていたのは今日から家族が王都に来てトレイル邸に滞在する。キャラスティ自身も家族がいる間トレイル邸で過ごすと言う事だった。
エミールもウィズリ家とラサーク家の滞在中にトレイル邸を訪ねる予定だ。
そのトレイル家のホストであるレトニスが何故ここに来たのだろうか。
「⋯⋯居なくなった寮生がいると⋯⋯」
「ああ、もう聞いているのか。今確認中──」
「キャラが、彼女が居ないと、ユノさんがっ」
「まって! まさか、居なくなったのは⋯⋯キャラスティなのかい?」
エミールは現場検証に立ち会い、寮生の避難と確認は寮の執事と侍女達が行っている。
まだ報告が入っていなくても仕方がない。
「おかしな現場だと思っていた。火元は応接室なのだけれど、小規模な爆発が起きた形跡がある。火薬が使用された跡が確認された。裏の林には火薬を走らせた後もあってね。誰かが意図的に爆発を起こしたのは確かだよ。まさか⋯⋯その目的がキャラスティとは⋯⋯」
直ぐ様部下に寮生の確認とキャラスティの部屋を調べるよう指示してエミールは思考を巡らせる。
ハリアード王国重要人物の一人としてキャラスティの名前が上がる様になったがそれは王国発展の為の「知識」として。多少「先読み」が出来るようでもあるが。キャラスティに関してのそれらを知る者は国王陛下側近の内ごく少数で一般には「トレイル家の「特別」な切り札」との呼ばれが定着している。トレイル家を取り込みたい輩がトレイル家に敵視されるような事を起こすとは思えない。
それなら、キャラスティを恨む存在があるのか。
まだ付き合いは長くは無いが何処か達観しつつも年相応の無邪気さを持ち、やや卑屈な思考の普通の女性。良く言えば控え目。悪く言えば平凡だ。恨まれる要因が思い浮かばない。
ならば、嫉妬だ。子爵位の家ではあるがトレイル家の系列であり、四大侯爵家との付き合いや王族との関わりもあり、しかも彼らに好印象を持たれているとなれば嫉妬の対象になってもおかしくは無い。
一番考えられるのは嫉妬故の犯行か。
しかし、嫉妬に駆られたと言っても些かやり過ぎではないだろうか。
キャラスティが攫われたとなればレトニスは勿論の事、アレクス達も黙ってはいないだろう。余計に想いは彼らに届かなくなる。
──それでも有力なのは嫉妬の線か。
それにしても、何かが引っかかる。
先のアメリア・マルタとフレイ・タールとは明らかに違う攫い方。
火薬を用意し、被害の範囲を最小限に抑える天候をも読んだと思える周到さが有るのに女子寮爆破火災などとは「目立ちたがり」過ぎて雑にも感じた。
「至急国王陛下に報告に行くよ。ああ、聞き込みを指示してからだな。不審な者を見掛けなかったか、火薬の出所も追いかけなければ」
「俺に、俺にも何か出来ませんか!? こうしている間にもキャラが⋯⋯」
「レトニス君。落ち着いて。私だって、君と同じ気持ちだよ。無事に取り戻したい」
キャラスティに対して盲目的で直情的。勢いに任せた「子供」の考えが残るレトニスは危うい。
勢いに任せた行動は成功すれば賞賛されるが失敗した場合、最悪キャラスティの身が危険に晒される。
「同じ⋯⋯だったら何故そんなに冷静なんですか! 同じな訳ない⋯⋯キャラの事を何も知らない貴方が同じな訳──」
「同じだよ。冷静に見えるのは私が「大人」だからだ。君は感情のままに動き過ぎる。それが君自身とキャラスティや周りの人達を危険に晒す可能性がある事を君は学ばなければならない」
はっとしてレトニスは拳を握る。
トレイル邸を出る時、ジャスティンは父親として誰よりも自分がこの場へ急ぎたかったはずだ。それでも冷静に状況を判断してマーティンを気遣いレトニスを先に行かせた。
「⋯⋯君の気持ちは分かっているよ。だから、必ずキャラスティを取り戻そう。協力してくれるかい?」
「私からも宜しくお願いします」
いつの間にかジャスティンが到着してレトニスにタオルを手渡し、二人に頭を下げた。
一番不安に思い、この中の誰よりもキャラスティを案じているのはジャスティンだ。それでも努めて穏やかだった。
エミールは検証が終わり次第トレイル邸へ向かうと約束して現場へと戻って行った。
エミールと別れたレトニスとジャスティンは避難しているリリックの元へ向かった。
リリックはジャスティンを見ると大きな目をさらに大きくして抱き付き、不安を我慢していたのだろう、堰を切ったように嗚咽を上げて泣きじゃくった。何度も「おじ様ごめんなさい」と声をあげて。
その日の内にウィズリ家とラサーク家が揃うトレイル邸へエミールが訪れ、検証の途中経過報告とキャラスティの捜索が国王陛下直轄案件になったと知らされた。
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エミールもジャスティンも不安と絶望を抱えているのに「大人」として状況を判断し、動いている。
自分は頼って欲しいと願いながらも全くの無力で全てにおいて「子供」だった。
「やっぱりここに来たのね」
「リリー⋯⋯」
「あーっもう!」
「腫れてるじゃないの持ってきて良かった」と濡らしたタオルをレトニスの赤く腫れた手に巻き付けながらリリックは呆れたように呟く。
リリックも不安な一夜を過ごしたのだろう。うっすらと隈を作りながらも気丈に振る舞う。
「寝てないんじゃない? こういう時こそ、しっかり寝ないと。睡眠不足は判断を間違えさせるから」
「⋯⋯リリーだって寝てないんじゃないの?」
「私は良いの。レトはキャラを助けなきゃならないの。倒れてる場合じゃないのよ。私、前に言ったでしょ「守って」って」
今更その言葉が重くのしかかる。
守れなかった。
子供だったからだとは言い訳にもならない。
悔しさに俯くレトニスの頭をそっと撫でながらリリックはポケットから手帳を取り出し「レトが持っていて」とその腫れた手の平に置く。
それはキャラスティが持ち歩いていた藤の花が描かれた深緑の手帳だ。
「避難する時に持ち出したの。何か書いてあるかもって。面白かったわ。あの子ムードンに行った辺りから日記を付け始めてるのよ」
狭い欄に書き込まれた日々の出来事がこんなにも懐かしいなんて。とリリックが笑う。
「ただ、挟んであったメモは何が書いてあるか分からないの。見た事がない文字? なのよ」
文字だと認識はできてもレトニスとリリックには解読できないそれは「日本語」だ。
「⋯⋯そう、か⋯⋯」
平凡で平坦で平和なキャラスティの周りが騒がしくなったのはこの「日本語」が関わる「ゲーム」からだ。
キャラスティに何かが起きる時は「ゲーム」が関係していた。
その「ゲーム」の関係者がキャラスティを排除しようとしたのではないか。
それは誰か。テラードとレイヤー以外の「ゲーム」を知るもう一人の人物だ。
レトニスには「ゲーム」の関係者に心当たりが有る。
キャラスティを敵視し、不思議な力でレトニス達を振り回す「彼女」。
頭が整理されたレトニスは「自分が出来る事」に気付いた。
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キャラスティが再び目を覚ました時には柔らかな物の上に横たわらせられていた。
相変わらず目隠しと自由を奪われた状態だった。
「う、うん⋯⋯う」
「目が覚めちまったか。ん? なんだ? 水?」
喉の渇きを訴え呻きをあげると見張りらしき人物が近付いた気配がする。
──水が欲しい。お腹が空いた。
前回とは違って身の危険があると言ってもお腹は空くし喉だって乾く。
気を失う前の「特別な「玉」なんだからな」を信用するなら彼らは自分を手荒には扱わないだろう。
必死に猿轡を外して欲しいと呻くと溜息と共に口元が解放された。
「騒ぐんじゃねえぞ。まあ、騒いでも誰も気にしないがな。ここはそう言う所だ」
何となく匂いで気が付いていた。
幾重にも重なる香水と部屋に焚かれているお香の匂い。時折り聞こえるのは喘ぎ声。
ここは何処かの娼館の一室だ。
途端に娼館に売られるのかとキャラスティに恐怖が込み上げた。
「ああ!? 違う違うあんたはこんな所に売らねえよ。ほら、水が欲しかったんだろ。飲ましてやっから」
良い人だ。人攫いが良い人な訳がないが。
キャラスティがやっとあり付けた水を飲み干すと再び猿轡を噛まされた。
暫くしてあんなに寝たのにまた眠気がやって来きたキャラスティはベッドに倒れ込んだ。
──これは「夢」を見る眠気だ。
「をっ? なんだ。マジか⋯⋯また寝ちまった」
そのままキャラスティは深い「夢」へと落ちて行った。




