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転生令嬢は平凡なので悪役に向いていないようです ──前世を思い出した令嬢は幼馴染からの断罪を回避して「いつもの一杯」を所望する──  作者: 京泉
第二章 「悪役」と「ヒロイン」の物語

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シナリオから外れだした物語

「勢揃いですねえ」


 エミールの入室第一声にキャラスティは「本当に」と同意した。


 人数が人数なだけに応接室を借りようと提案したのだが彼らは頑なに「ここで良い」と移動を受け入れず、狭くはないが広くもない寮の個室に十一人も居るのだ。バルコニーへの窓を開ければ多少は息苦しさも緩和されるだろうと開け放ち、それなりの居心地にはなったが、密度が半端ない。


「それじゃ早速本題だ。時系列で話そうか。公になってしまっている事だし隠す必要はないからね。シリル君、ユルゲン君、もう一度聞かせてくれるかい?」


 エミールの問い掛けに「はい」と答える声は掠れている。来た時から神妙な顔つきで俯いていた二人がそのままポツリポツリと話し始めた。



 昨日の放課後、ランゼに「街へ行きたい」と言われ付き合う事になったシリルとユルゲン。

 ランゼが珍しく友人を伴って来たのがアメリアとフレイだった。

 二人は友人が一緒なら「魔法」を使われることは無いだろうと内心ほっとしていたと言う。

 当初、緊張気味のアメリアとフレイだったが話していると少しづつ打ち解け、それなりに楽しんでいる様子だった。

 中通りのお茶をした店を出た所から二人の記憶は飛び、気がつくと学園のロータリーでランゼはおろかアメリアとフレイも居なかった。

 「またか」とウンザリし、二人は自宅へと帰った。



「シリル君とユルゲン君は彼女達と街に出て店を出た後、帰ってくるまで記憶が無いと言うことだ。私がディクス公爵家の夜会で見たアレクス様とレトニス君の状態だった訳だね。この件は別の問題になっている。と、だけ伝えておく。

その、記憶が無い間にマルタ嬢とタール嬢が居なくなったと、見ている。

それでシリル君は「以前」の事件との関係性を疑ったんだね?」


 眉を寄せ、キャラスティを見てからシリルが頷いた。

 シリルはアメリアとフレイの連絡を受けた今朝早くにキャラスティが「反王制組織」に攫われた事件で使われた裏通りの廃屋に行ったが当然の事ながら人の出入りした痕跡は確認できなかった。


「二人の失踪が「反王制組織」のものか否かは調査中だよ。それから⋯⋯私の立場で言ってしまっては良くないのだけれど、自らの意思で失踪した可能性も捨てきれない」

「自分からなんて無いわよ。私、アメリアにハンカチへ刺繍してもらってる途中なのよ」

「私もフレイに温室の花を見せていただく約束をしています」


 リリックとベヨネッタが「自らの失踪」はあり得ないと声を上げる。

 大人から見れば些細な約束でも自分達には大切な友人との約束だ。それを反故にする二人ではないと。

「キャラスティはどう思う?」とエミールに振られてキャラスティは普段の二人を思い浮かべた。


アメリアとフレイ。ロマンス小説と刺繍と花が好きな二人。


 キャラスティは本棚から一冊の小説を取り出してエミールに手渡した。

 アメリアから借りている小説。「今一番のお気に入りなの」と照れながら言った表情が思い出される。

 その小説は小さな田舎町の丘の上で男の子と女の子が出会うところから始まる。穏やかな日々を一緒に過ごしていたある日、男の子は街へと帰る事になる。二人は再会を約束し初恋を秘めたまま成長し、成人を迎える頃に再会すると男の子は一国の王子、女の子は平民だと判明する身分違いロマンスだ。

 男の子は一途に女の子を想うが女の子は男の子の「幸せ」の為に身を引いて⋯⋯と言う所までしかまだ読んでいない。


 アメリアとフレイはロマンス小説に憧れはあれど物語だから酔えるもの、叶わない物を楽しむのが物語だと笑い、其々の立場の背後関係を考え節度を持って行動する貴族らしい二人がまさかロマンスを求めて失踪するとは思えない。


「ロマンス小説が好きでも後先考えず消える事はしない、と思います。それも二人同時は不自然です」

「そうだね。⋯⋯しかし⋯⋯キャラスティがコレを読んでるなんて」


 「意外だ」と吹き出したエミールに何が可笑しいのかとキャラスティは頬を微かに膨らませた。

 キャラスティも一応は人並みの女の子。王子様に憧れた事もある。

 それに「意外」と言うからにはエミールも読んだ事があると言っているのと同じではないか。


 「どんな話?」と興味を示したレトニスは小説を渡されると裏側に書かれたあらすじを読んで口元を緩ませ嬉しそうにキャラスティを見た。

 その手元を覗き込んだアレクス達も同じようにあらすじを目で追い、口元を緩ませわざとらしい咳払いをした。


──そんなに私がロマンス小説を読むのは似合わないのか⋯⋯。


「クラスで流行ってる小説よね」

「身を引こうとする女の子がいじらしいのよ」

「私も読んだわ。女の子は身分を気にして両思いなのに言えないのよね。最後は──」

「ダメっ。レイ、待ってまだ読み終わってないんだから」


「はいはい。続きは後でね。

──うん。ありがとう。マルタ嬢とタール嬢は自分から失踪する理由も予兆もなかった様だね」


 一区切り付いたとエミールが調書を閉じた。

 うっかりロマンス小説に拘りそうになったがエミールやレトニス達は遊びに来たのでは無い。

 クラスメイトの失踪事件が起き、その心配と調査にやって来たのだ。


「それにしても⋯⋯キャラスティ達の方が余程友人らしい」


 エミールは呆れた様に呟く。

 ここに来る前にランゼからも話を聞いて来た。

 「大切な友人が居なくなった」と泣くばかりのランゼからはアメリアとフレイへの興味を一切感じなかった。

 刺繍についてどんな絵柄だとか何に刺繍をしているかは出てこなかった。

 花もどんな花を育てているのか花の種類すら知らない。

 ロマンス小説も何を読んでいるのか知ろうとしていない。

 気遣っている様に振る舞っているだけ。「友人が居なくなった可哀想な私」だけだった。


──印象は自己中心的だった。


「さて、アレクス様も心配で来られたのでしょうが王宮へお戻りください。捜索本部が立ちますから」

「分かった。⋯⋯キャラ達も単独行動は控えるように。寮生達もそう、伝えてくれ」


退出を見送るキャラスティが頷くとアレクスは振り返り「シリル、ユルゲン」と声を掛けた。


「シリル君とユルゲン君も一緒に来てもらうよ。君達を疑っている訳ではないんだ。君達に何が起きたかはこちらは把握しているからそれは安心して。私達は少しでも情報が欲しいんだ」


 シリルとユルゲンは失踪には関わってはいない。

 そう確信していても、もしかしたら何かを思い出す可能性も捨てきれないとエミールはシリルとユルゲンを促した。


「──っあの、キャラちゃんっ」

「は、いっ!」


 この部屋に来てから俯いていたユルゲンが促されながら部屋を出る寸前に突然声を上げてキャラスティは驚いた。

 いつも明るく、失礼だと思うが普段はあまり深く考える事を避け、言いたい放題しているユルゲンらしくなく「あの、その⋯⋯」と歯切れが悪い。


「どうか、絶対に、一人にならないで」


 両腕を掴まれ「絶対、絶対だよ」と縋られ後退った。

 その表情は、明らかに怯えている。


「は、い。えっと、ありがとうございます」

「⋯⋯ぼんやりしてて思い出せないんだ。でも、キャラちゃんの名前聞いた気がするんだ。だから⋯⋯っ」

「ユルゲンお前、も?」

「は、はあ⋯⋯、い」


 ユルゲンだけでなくシリルにまで真剣な表情で「一人になるな」と念押しされてキャラスティは何故自分の名前が出たのかと、戸惑う。


「⋯⋯気になるね。詳しく聞く必要があるな⋯⋯キャラスティは「前例」があるのだから警戒する様にね」


 「前例」があるのは否定できないがあの時は「イベント」が発生して何故かキャラスティが攫われる事態になった訳で、自ら望んで「イベント」を発生させた訳でもない、とは説明出来ないと苦笑を浮かべるしかない。

 相変わらず笑うのが下手だと言いた気にエミールが押し笑いした。


「大人しくしていただく間に新しい本をお届けしますよ。次は「年の差」ロマンスを読んでみて下さい」


「──グッ⋯⋯ケホケホ」

「やだレト、飛んだっ。もー! 本は無事?」

「リリー⋯⋯本より俺を、心配して」


 背後でレトニスが咽せた。

──と、キャラスティは今読んでるロマンス小説の内容を思い出して急に恥ずかしくなる。

 平民の女の子と王子と言う高貴な身分の男の子は「身分違い」に悩みながら惹かれ合う。

 男の子は女の子に好意を表すが女の子は身分を気にして好きだからこそ男の子から離れようとしていた。


 女の子の気持ちを「分かる」と内心自己投影しながら読んでいたのは間違いなく、影響されやすいのも認めるが、それを人に知られるのはとんでもなく恥ずかしい。


──まさか女の子が私で身分違いに悩んでると思われたの!?。


 だから小説のあらすじを見たレトニスとアレクス達が嬉しそうにしていたのか。


 「それじゃあまた」とエミール達が扉を閉め、恐る恐る振り返るとそれはもう嬉しさが抑えられないと言ったレトニスにキャラスティはじりじりと詰め寄られる。


「この小説は女の子が王子様を受け入れてハッピーエンドだ。キャラも悩む事ないのに」

「あっ! 最後だけ読んだの!? 信じられないっ! 最悪! レト最悪!」


 色々想像して読むつもりだったのに聞いてもいないネタバレをされるのは許し難い。


「レト嫌いっ! ネタバレするなんて最悪!」

「きら⋯⋯きら、い。そんな事言わないでよ「僕の可愛い人」」


 キャラスティの背筋がゾワっと粟立った。それは蕩けた微笑みを女の子に向けて男の子が囁く小説の台詞だ。

 同じ蕩けた微笑みだがレトニスのはホラーだ。正直怖い。美形はどこに行った。


「⋯⋯テラード様、ブラント」

「リリー嬢⋯⋯いいの?」

「リリック⋯⋯容赦ないね」


「あっ離せっ」


 テラードとブラントに羽交い締めにされ、レトニスはソファーに張り付けられた。リリックに冷ややかな視線を向けられたレトニスはシュン⋯⋯と大人しくなる。


 エミールの登場で焦っているのだろうが、いい加減少しはカッコ良いところを見せないとただのポンコツではないか。

 普段は凛々しいのに、このところのレトニスは吹っ切れすぎだ。


 ネタバレされてプリプリ怒っているキャラスティと「年の差小説なんて読まなくていい」と不貞腐れるレトニスを交互に眺めリリックとベヨネッタ、レイヤーは苦笑を交わした。

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もし、感想欄に書くのは恥ずかしいけど「応援してるで」 と言ってくださる方がいらっしゃいましたらお気軽にどぞ
マシュマロ置いておきます_(:3 」∠) _

マシュマロは此方
──────────(=゜ω゜)──────────
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