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転生令嬢は平凡なので悪役に向いていないようです ──前世を思い出した令嬢は幼馴染からの断罪を回避して「いつもの一杯」を所望する──  作者: 京泉
第二章 「悪役」と「ヒロイン」の物語

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「悪役」なのに お見合い相手が来ました

 最初の状態が悪ければ悪い程、結果が出やすいものだ。

 

 週末に行われたテストはダンス特訓のお陰でキャラスティはこれまでにない好成績を収めた。


 特訓時の「好感度」変化によりキャラスティに対して遠慮と容赦が無くなったシリルはさながら熱血指導者となり、寮友を誘った寮の多目的室でのダンス特訓時にはシリルの熱血ぶりに感動した寮友達が「キャラスティのダンスをまともにさせる」と決起した。

 ありがたい事だったがミニシリルの集団は少し、怖かった。

 ダンス特訓の後はリリックとベヨネッタが貰った一般教養と貴族基礎の模擬集を遅くまで広げ互いが切磋琢磨した結果、今回のテストは寮生の成績が全体的に上がったらしい。


 キャラスティは元々、一般教養と貴族基礎は問題がない。ダンスが致命的だったのを「まとも」に引き上げたのはシリルと寮友達のお陰だ。


「三人共、今回の成績は上がったようだな。特に、キャラのダンスは⋯⋯頑張ったな」

「最初はどうしようも無いと思ったが、これなら指導した甲斐がある結果だ」


 キャラスティは目頭を押さえてしみじみと零すアレクスと成果に満足したシリルに何とも言えない気分になる。


「シリル様にご指導いただきましたし、テストではブラントがパートナーだったので。お二人のお陰です」

「パートナー? 聞いてないよっ! ブラント、君だって何も言ってなかったじゃないか」

「レトニス様⋯⋯相変わらずブレませんね⋯⋯。キャラスティだって上達してたよ。踊りやすかったし楽しかった」


 ニコリとするブラントにキャラスティが「ダンスが楽しかったのは初めて」だと返せば、悔しさと切なさの表情を浮かべたレトニスは「心が痛い」とリリックに縋ろうとして「テストでしょ!」と押し退けられた。側で可笑しそうにクスクスと笑うのはベヨネッタだ。


「なんか、こう言うの久しぶりな気がする」

「だなあ⋯⋯最近は風当たりが強くなって気が抜けないからな」

「ユルゲン様、テラード様⋯⋯大丈夫ですか?」


 二人は言葉での返事はなく笑顔で返してくる。


 尊敬と憧れを抱かれていた生徒会は今や好奇の目で見られていた。

 彼らの苦労と疲労は大丈夫では無いのだろう。疲れた笑顔が物語っている。


 編入してからのランゼは学園の外で出会った時とは違い、令嬢らしく振る舞っていた。

 友人も出来た様で、このまま学園生活を過ごしてもらえれば良かったが、男子生徒がランゼに入れ込む様になり始めた。中には婚約者がいる者までランゼを囲む姿も見られる様になると女子生徒からの苦情が増えた。

 深刻化すれば婚約破棄だけでなく家同士の問題、果ては派閥を巻き込む事態になりかねない。今はまだ学園の中での事。学園内で鎮静化させる為、「魔法」の力が危険なもので有れば放って置けないと、生徒会はランゼに付いている。


 彼らのその行動は事情を知らない他の生徒達にランゼを優遇している様に映った。


 それもそのはず。


 彼らは「攻略対象者」だ。影響を強く受ける。

ランゼの「魔法」が時と場所など関係なく使われた彼らの評判はほんの一ヶ月で一気に落ちた。

 慣れない学園生活をサポートしているように見えたのは最初だけ。会話中に突然ランゼだけを見つめ、甘い言葉を囁き始める一種異様な生徒会メンバーに不信感を持つのも当然の事だった。


 そんな中、先日の中庭で起きた「噴水落下事故」。

 ランゼと風紀委員のハンナの対立を野次馬していた者達はあの場に居合わせたアレクスが苦言を呈したハンナか、優遇しているランゼか、どちらの「味方」をするのかを見ていた。

 その答えが出る前に、偶々通り掛かった「ある生徒」が噴水に落下したことで有耶無耶になってしまったが、生徒会の彼らは一挙一動を面白おかしく噂されているのだ。


「心配するな、と言いたいけど君達に何かしてしまうかもって考えると正直しんどい」

「変な事しなければ可愛い子なんだけどなあ。勿体無いよね」

「ねえ、キャラ達を傷付けていたりしてない? あの時みたいに」


 レトニスが言う「あの時」は街の公園の池にキャラスティが落ちた時。

 見事な「魔法」のかかりっぷりにキャラスティは感動していたがレトニスにとっては嫌な思い出だ。


「大丈夫。何もないわ」

「⋯⋯本当に? ちゃんと言ってくれなきゃ嫌だからね?」

「⋯⋯本当よ」


 困り顔のレトニスを見るのは心苦しい。「影響」を受ける彼らの方が傷付いているだろうに心配される罪悪感が募る。彼らの苦悩が増える度、キャラスティ達が居なくなれば彼らはランゼを受け入れ、困る事も、苦しむ事も、悩むことも無くなるのだろうかと頭を過った。


──「ゲーム」の通りに⋯⋯。


 「しなければ」「したくない」。

 キャラスティの役割は「悪役」だ。心配されたり守られるこの場所は「あの子」の物だ。「ゲーム」はシナリオ通りに進めなくてはならない。


 違う。「ゲーム」では無い。キャラスティ達は「悪役」では無い。


 「ゲーム」と切り離したくても切り離せない。反対の意見が競り合う思考にキャラスティの視界が狭くなる。


「キャラ嬢、疲れた?」

「キャラちゃん達今回のテストは頑張ったもんね」


 ヘラっと笑顔を見せるテラードも「キャラクター」の役割を考える葛藤は有るのだろうか。或いは有ったのか。

 考え過ぎて頭が痛い。


「キャラ、大丈夫? 顔色が悪いわ」

「うん、ちょっと疲れちゃったかな」


 良くない兆候だ。今夜は「夢」を見るのかも知れない。



「キャラー、居る?」


 そろそろ帰ろうと中庭を出ようとしたタイミングで予定が有ると帰ったはずのレイヤーがその予定はお茶会だったのかダークグリーンの裾捌の良いライトドレス姿で顔を出した。


「皆様ご機嫌よう。なんてね。キャラにお客様連れて来たのよ。校門で待ってるって」

「お客様? そんな知り合い居ないけど⋯⋯」

「相手は知ってる風だったわよ? 今日のお茶会で学園に通っているならラサーク嬢は知ってるかって聞かれたから友人だって答えたの。そしたら会えないかって」


 キャラスティが首を傾げながらリリックを見ても首を振られ、レトニスに至っては何故か不機嫌を浮かべていた。


 わざわざ学園まで出向かせ待たせては悪いとレイヤーに案内されてロータリーまで来ると、駐車している一台の側で並ぶ馬車を眺めるお茶会帰りと思われる青年の姿。

 キャラスティに気付き、振り向く紺色の髪と青藍の瞳。年は25歳辺りだろうか。落ち着いた佇まいは好印象だ。


「やあ。君がラサーク嬢だね。すぐに分かったよ。初めまして、エミール・シラバートです」


 丁寧なボウ・アンド・スクレープの挨拶。

 名乗りを聞いても記憶にまったくないその名前にキャラスティは益々首を傾げる。


「キャラスティ・ラサーク⋯⋯です。シラバート様、失礼を致しますが、私に何か御用でしょうか」

「あれ? 私の事は聞いていないのかな?」


 エミールは首を傾げて後方に目を向けると「ああ、そう言う事か」と笑いを溢した。


「返事がトレイル家から来たから変だとは思っていたけれど⋯⋯それだけ君が「特別」って事だね」

「何の事ですか⋯⋯?」


 好印象だと思ったのは外見だけかとキャラスティが警戒心を露わにするのを察したエミールはリリックとベヨネッタに略式で挨拶し、後方のレトニス達に挨拶を続けた。

 互いが名乗り合わないのを見ると知り合いなのだろうか。


「驚きました。ラサーク嬢はセレイス公爵家と王子様、それに四大侯爵家と交流があるんですね」

「キャラに何の用事ですか? シラバート伯爵」

「おや。アレクス様が愛称を使うなんて、うん、益々気に入りました。でも、アレクス様、ラサーク嬢を思うのなら安易に愛称で呼ばれない方がよろしいですよ」


 アレクスが息を飲んだ。「それに⋯⋯」と、エミールはレトニスに向き合うと溜息を吐いた。


「レトニス君も。ウィズリ家からの連絡はちゃんとラサーク嬢に伝えないとダメだよ。こんな綺麗な子に会わせてもらえなかったなんて酷いな」

「⋯⋯シラバート家には返事をしたはずですが?」

「トレイル家の返事だよね。私が申し込んだのはウィズリ家とラサーク家。両家からの返事はまだないよ」

「ウィズリ家とラサーク家の位置付けはトレイル家の系列です。トレイル家の答えが総意です」

「んー? そうだとしても、本人に何も伝えないのは良くないね」


 年の功かエミールはアレクスとレトニスを窘めて行く。


 エミール・シラバートは伯爵だとアレクスが言っていたが何者で何をしに来たのか。

 レトニスとエミールの間でやり取りがあったらしいがそこに何故ウィズリ家と実家のラサーク家が出てくるのか繋がらない。

 キャラスティは疲労と考え過ぎに視界がゆらゆらして来た。


「あ! シラバート伯爵!」


 ふいっと、エミールがキャラスティの手を取り優しい笑顔を向け、うやうやしく手の甲にキスを落とすとキャラスティの肩が跳ねた。

 リリックの小さな悲鳴とベヨネッタの恥ずかしそうな姿、レイヤーの見開かれた碧色の瞳に何をされたのか理解してくると恥ずかしさにキャラスティは居た堪れなくなる。


「ラサーク嬢、お会いして確信しました。私は貴女に惹かれております。私と結婚していただけませんか?」

「け、っこ⋯⋯けこ、っん!?」


 驚きのあまりキャラスティの腰が抜けた。


 つい、今、出逢ったばかりで一言二言しか会話をしていないのに何に惹かれたと言うのか。

 いや、エミールは常套句を使ったに過ぎないと分かっている。惹かれただなんてただの誤魔化しだと分かっている。自分にはそんな価値がないと分かっている。


「ふふっ、ごめんね。今すぐに答えなくて良いよ。考えてくれませんか」


「キャラ⋯⋯」


 回る世界で一瞬だけ視線が合わさった深緑の瞳の幼馴染。

 泣きそうなのが分かる掠れた声。

 「応えないで」

 聞こえないはずの声が聞こえる。烏滸がましい幻聴だと分かっている。また悲しませてしまった。


──レトから離れてあげられる。

「ゲーム」のキャラスティに皆んなが苦しむ事も無くなる。「悪役」になる心配が無くなる。「シナリオ」から退場出来る⋯⋯。


 頭が痛む、何も考えたくない。疲労した身体も言う事を聞いてはくれない。


 エミールに倒れ込むように崩れ落ちると抱き支えられ、そのままキャラスティは意識を失った。

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もし、感想欄に書くのは恥ずかしいけど「応援してるで」 と言ってくださる方がいらっしゃいましたらお気軽にどぞ
マシュマロ置いておきます_(:3 」∠) _

マシュマロは此方
──────────(=゜ω゜)──────────
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