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転生令嬢は平凡なので悪役に向いていないようです ──前世を思い出した令嬢は幼馴染からの断罪を回避して「いつもの一杯」を所望する──  作者: 京泉
第一章 始まりの前

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リリーとベネは回顧する

「あれ? キャラってまだ帰ってないの?」


 夕飯を終えたリリックは食堂を見渡して首を傾げた。

 自分達付きの侍女、ユノに問うと困った顔をしながら「遅くなるとは聞いていないのですが」と答えられリリックは益々首を傾げる。


「うーん。何かあったのかな。九時過ぎても帰らなかったらトレイル家に連絡してもらうかも知れないわ」

「畏まりました。ベルトル様にお話だけ通しておきます」


 不安そうな表情を見せたユノに「あの子なら大丈夫」とリリックは笑顔を見せ自室に帰らずその足でベヨネッタの部屋を訪ねた。

 一緒にキャラスティの帰りを待って欲しいと言うリリックにベヨネッタは快諾し、二人はここ最近のキャラスティ周辺が騒がしくなったと苦笑を交わす。


「アルバートさんの所に行ってからキャラの周りがちょっと騒がしくなってるのよね。噂はレトが悪いんだけど」

「そうねえ。最近は聞かなくなったけど大分窮屈そうだったわね。ブラントまで心配してたもの」


 アルバートの店に行った日からレトニスの様子がおかしかった。元々キャラスティが絡むと挙動がおかしくはあったが毎日送り迎えするまでになる出来事があったのは確かだ。


 そのレトニスに付き纏っていると噂されていた時期にキャラスティはセレイス公爵家に夕食を誘われ泊まりに行っていた。

 翌日、寮へ帰って来るとリリックとベヨネッタはレイヤーを紹介され、突然やって来た公爵令嬢は二人の手を取り「友達になって!」「私の事はレイって呼んで!」と大はしゃぎだった。


 レイヤーを紹介されてすぐにパタリとキャラスティの「噂」が止んだと思えば「噂」はレイヤーが東の侯爵レトニスと西の侯爵テラードに付き纏っていると変わり、レイヤーを気遣うと「放って置けばいいのよ私は公爵家よ」と胸を張ってケラケラ笑われた。


「レイも公爵家令嬢なのに気取ったところが無いわよね。波長が合う? て言うのかな」

「可愛らしい方よね。リリーとは波長が合い過ぎてると思うけど」


 リリックとレイヤーは似たもの同士だとベヨネッタはクスクス笑う。

 

 今日もレイヤーは寮に遊びに来て夕食前に帰ったばかり。帰り際、学園内では二人に迷惑かかるから寮と学園の外でしか話せないと哀しそうにしていた。

 それはよく分かっている。二人もキャラスティの様な噂はまだされてはいないが、上位から嫉妬の目を向けられる居心地の悪さは身を持って知っている。いつだって自分達の様な格下が標的になるものなのだから。


「昨日はびっくりしたわ」

「ええ、私も⋯⋯寮友も驚いていたもの」


 ふわりとハーブの香りが漂う。

 これは昨日の夜、アレクスが土産だと持ってきたクッキーの香り。


 二人はお茶請けのクッキーに視線を落とした。



 昨日のキャラスティは夕飯時に帰って来た。

 不機嫌そうにキャラスティから離れないレトニスと最近仲が良くなったと言うテラードとアレクス王子に連れられて。


 それだけでも驚いたのに寮生の前にクッキーやマフィンなどが広げられアレクスから「土産だ」と振る舞われたのだ。

 

 自分達の寮は爵位が子爵と男爵の令嬢用。身分的にも普段は近寄り難い生徒会の三人を前に寮生達が恐る恐る参加し、急遽小さな茶会が開かれた。



「リリーは変わりない?」

「ついでの様に聞かないでよ。全く変わりないわよ」

「⋯⋯相変わらずって事だね」

「ねえ、レト、少し控えてあげてくれない? キャラが困る様な事は。ここの所のレトはやり過ぎよ」


 茶会の最中、談笑する寮友達の邪魔にならないよう壁側にレトニスを連れ出したリリックは両腕を腰に据えて彼を叱った。


 楽し気に談笑の輪に混ざり、何も変わらないように見えるキャラスティ。それでも「噂」に少なからず辟易しているのをリリックは知っている。

 キャラスティもレトニスも昔からの付き合いだ。レトニスの気持ちは知っているし、我慢していたのも知っている。

 リリックにとってレトニスは兄でキャラスティは妹だ。これまでも、これからも。

 尚更、言わなければならない事には身分は関係ない。


「分かっているよ。けど⋯⋯」

「けど、じゃ無いわよ。不甲斐ないわねっ。だったら、せめて守ってよ。レトは守れるでしょ」

「リリー⋯⋯」


「分かった?」

「うん⋯⋯そうだね」


 俯くレトニスの顔を上げさせ、リリックが明るい茶色の瞳をしっかり合わせて言い聞かせた。

 「じゃあね」とリリックはどっちが兄なのか姉なのか分からない様子をおかしそうにクスクスと笑っているベヨネッタの元へ戻って行く。

 

 今まではずっと一緒に居たのに、これからもずっと一緒だと思っていたのに。二人が少しずつ離れて行く。

 レトニスはリリックもキャラスティも友人達と楽しそうにはしゃいでいるのは嬉しい反面、何となく寂しくもなった。


「長居すると迷惑になるだろう。そろそろ帰るか」


 挨拶を回り終えたアレクスから声が掛けられ、レトニスは頷く。

 不思議そうな顔のアレクスに何か気になる事があるのかと問えば、いつもは誰かしらに囲まれ身動きが取れない程なのに珍しく囲まれる事無く、自分から話し掛けて回り、今も王子と次期侯爵が揃って居るのに誰一人、纏わりついて来ないのが「不思議なんだ」と笑みを溢した。


「アレクス、キャラは子爵家なんだ。ここは子爵と男爵の寮だ」

「それがどうした?」


 言いにくそうなレトニスに代わって同じように囲まれる事無く満遍なく会話をして来たテラードが続きを答えた。


「俺達が招待されたり、招待する爵位じゃないんだよ」

「⋯⋯っ」


 アレクスの表情が曇る。

 下級貴族が教育を受けていない訳ではないが、上級貴族、有力な貴族の出は「上位が望む教育」を受けている。信用と威厳、権威の維持において蔑ろには出来ないものだ。

 だからこそ下級貴族の彼女達は「身の程を弁え」た結果、距離を取る選択をし「その場にあった態度」でアレクス達、三人と接しているのだと。


「身分⋯⋯か」


 アレクスが今更ながらショックを受け、いつもの難しい顔に戻ったのをテラードが「今はその顔、やめておけ」とヘラっと解した。


「⋯⋯帰ろう」

「まあ、そんなに思い詰めるなよ」

「キャラ、リリー、俺達帰るよ」


 レトニスは談笑しているキャラスティとリリックに声を掛けた。

 キャラスティは充分に食べて来ただろうマフィンを頬張ったまま振り返り友人達に「さすがにそのままはダメっ」とマフィンを取り上げられて三人の方へ押し出された。

 リリックはあからさまに「げっ!? 私も?」と渋い顔をして友人達に「顔! 顔!」と忠告を受け渋々前へ出た。


「くっ、くっ⋯⋯構わん。この場は非公式だ、⋯⋯くっく」


 「ここの寮生は仲が良いんだな」と、難しい顔をしているか作り笑いをしているだけの遠くて怖いアレクスが笑うのをリリックと令嬢達は初めて見た。優しく笑うものだと見惚れた。


「皆、突然で驚かせたな。邪魔をした」


 サロンの令嬢達が「ここで使わなくていつ使う」とばかりにカーテシーを披露する。

 「見事だな」とアレクスが満足気に呟き、気遣いを受けた感謝を込めて三人は優雅に完璧なボウ・アンド・スクレープを返した。



「今日はありがとうございました」

「こちらこそ、と言わせてもらおうか。また付き合ってもらうが」

「アレクスっ! またお前はっ⋯⋯キャラ、お休み。また、明日」

「まあまあ。じゃあ、キャラ嬢、お休み」

「お気を付けて。お休みなさい」


 アレクス達がエントランスの扉を閉めるとサロンから覗いていた寮友たちが我慢していたとばかりに「キャアーーーっ!」と騒ぎ出す。

 外まで聞こえると宥めるが「なんなのっ!? 御三方のあの完璧な所作はっ」「倒れるかと思ったわ」「美しい方々は目の保養ね」と、その晩は寮全体が遅くまで興奮が冷めなかった。



「今朝は寝不足気味の人が多かったわね」

「私達は王子様も生徒会の人ともほぼ関わらないもの」


 やっぱり思い返しても「騒がしい」と二人が苦笑を交わした。


 今日もまだ帰らない。


 時刻はそろそろ九時になる。いよいよリリックはレトニスに連絡を入れないとならないかと腰を浮かせるとノックと共に「戻られました」とユノから声が掛かった。

 呼ばれた応接室に向かいながら「何で応接室?」と首を傾げるとベヨネッタは「また、騒々しい事があったのよ」とクスクス笑う。


 一抹の不安が外れて欲しいと思いながらリリックが応接室に入るとキャラスティがサンドウィッチを頬張り、テラードが笑顔で片手を上げ、銀灰色の髪に藍色の瞳の「新顔」シリルが大袈裟に頭を下げて来た。


 リリックはベヨネッタに振り返り眉を下げて乾いた笑いと共に「当たり」と零した。

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