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転生令嬢は平凡なので悪役に向いていないようです ──前世を思い出した令嬢は幼馴染からの断罪を回避して「いつもの一杯」を所望する──  作者: 京泉
第一章 始まりの前

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修羅場は中庭で起きる

 レイヤーは金色の髪を振り乱し肩を震わせ碧色の瞳からポロっと涙を流した。


「レイ⋯⋯」


 困り顔でキャラスティが声を掛けるが顔を上げたレイヤーは唇を固く閉ざし益々苦しそうに頬を膨らませた。苦しさから涙が溜まる。

 キャラスティは溜息を吐いてレイヤーが落ち着くのを待つしか出来ないでいた。


 限界までその頬が膨らみ、とうとうレイヤーは吹き出した。


「ぷっーっふ、くふっ⋯⋯ご、め、まってもうちょっと、ぷふっふ、あ、ダメだ、あはははっははっダメお腹、い、た、あはっふふふあはは」



 少し前、キャラスティはアレクスから貰った菓子をレイヤーに渡しながら起こしてしまった「イベント」の顛末を報告した。

 レトニスで起きたのだからアレクスでも起きる可能性は有ったが全くの初対面から展開が早過ぎるとボヤキを加えて。


「アレクスの攻略ってライバル令嬢の誰かと「友好」ってのが付くのよね。今のキャラはリリックとベヨネッタ、それから私と「友好」だもの簡単にクリアしてるわね」

「だから、ずっと貴族として振る舞おうと頑張ったのよ⋯⋯「ヒロインの貴族らしからぬ振る舞い」に好意を持つんだし」


 それなのに。だ。


「街で「ヒロイン」のランゼさんにも会ったのに、アレクス様は気に留めた様には感じなかったの」

「えっ、ランゼに?どうだった?」

「凄く可愛いくて綺麗な子だった⋯⋯彼女も「前世」を持つ転生者だと思う。ブローチを着けていればと言っていたわ」

「ネバーエンディングモードのブローチね⋯⋯」


 身に着けている間は攻略対象者達の「好感度」を「好き」状態にできるが、外すと元の「好感度」に戻る。

 ゲームと同じ効果のある物かはまだ分からないがランゼが「ブローチ」を知っているのは確かだ。


「同じ転生者なら仲良くしたいけどね。何もこちらからはしないし、されない様にするしかないわ」

「そうね、仲良くできるなら⋯⋯でも、嫌われてるみたいよ? 「身の程知らず」って言われたわ」

「ぷっ。それ、私のセリフじゃない」


 街に溶け込みやすいと誘われたキャラスティはライバル令嬢三人と「友好」。アレクスとイベントが起きる状態だった。


 「ゲーム」では街を歩く二人が人とぶつかりそうになりアレクスがランゼを守る。帰りに現れたレイヤーがアレクスに手を取られたランゼに向かって「身の程知らず」と罵るのだ。

 ランゼは傷付き送られる馬車の中で涙を流す。アレクスはそんな姿を愛おしく思い、こっそり購入した「髪飾り」をお守りだとプレゼントする。


「ん?身の程知らず⋯⋯っ!ま、まさか!」

「⋯⋯その、まさか」


 ただし、街ではキャラスティがアレクスを守り、アレクスに手を取られただけでなく腕を組まされ、ランゼに「身の程知らず」と罵られたが、身の程を自覚しているキャラスティには傷付くものではない。馬車では涙を流す事もなく平然と貴族を演じた。

 ランゼとは反対の行動を通した。何処にも愛おしく思う要素はない。


 なのに。だ。


 キャラスティが後ろを向く。その髪に銀の蔦が絡まり金色のガラス玉が付いた髪留めが光った。

 王子様から「普段に使って欲しい」と言われれば学園に付けてこない訳にはゆかない。頻繁に会わないとは言え、誰が何処で見ているか知れないのだ。

 もし昨日の今日で身に着けていないと報告されては堪らない。


「あ、あ、それはっ⋯⋯くっ、ふっ⋯⋯チョロい⋯⋯チョロいわ、アレクス⋯⋯」


 レイヤーは肩を震わせ顔を伏せ苦しそうに悶え始めた。



「レイ⋯⋯笑い事じゃないわよ⋯⋯」

「ごめ、ん。はー⋯⋯ふっ⋯⋯ふー。はあ⋯⋯。んんっ⋯⋯攻略、しちゃったわね」

「一回のイベントを起こしただけよ」


 無理矢理笑いを抑え込んだレイヤーに元々はレイヤーがアレクスのライバル令嬢だと零せば当然のように「だって私達は作り物じゃないものゲーム通りにしなくても良いじゃない」と胸を張って主張されてしまった。それは分かっているが少しくらいは「役割」を担ってほしい。


「お、居た居た。センパ⋯⋯キャラ嬢、頼みがあるんだ」

「お断りします」

「即答っ!? つれないなあ。でも、無理矢理に聞いてもらうけどな」

「あら? テラード様珍しい方と一緒ね」


 勝手知る足取りのテラードに付いて中庭に訪れた長身の人物は銀灰色の髪から覗く藍色の瞳で訝し気に中庭を見回し、キャラスティとレイヤーに漸く視線を向けた。


「テラード、レイヤー嬢は分かるがこちらは?」

「昨日アレクスに付き合ってくれたレトニスの幼馴染で俺の、うーん⋯⋯今はまだ友人のキャラスティ嬢だ。キャラ嬢、こいつは北の侯爵家ソレントのシリルだ」

「こ⋯⋯の、彼女が? レトニスの? アレクスと?」


 何処にでもいる平凡で爵位の低い令嬢は王子のアレクスが気に掛けるような特徴が無く、一見で美人と言えばレイヤーの方だろう。

 被害妄想だと分かってはいてもシリルの視線がそう言っているとキャラスティは視線をテーブルへと落とした。

 

「テラード様、用があるなら早くどうぞ。折角、二人で楽しんでるんだから」

「レイヤー嬢、少し感じが違わないか?」


 雰囲気や考えが変わったのはこの女のせいかと向けられたシリルの厳しい視線が怖い。


「悪いがテラード、彼女はお前達が付き合うような身分では無いと思うが?」

「シリルがそう思っても俺はそう思ってないからなあ」

「ええ、私もだわ。残念ね、シリル様」


 二人の茶化した返答にシリルは眉を寄せた。

 キャラスティが気に入らないのなら早く帰ってくれないかとテラードを見ればニヤリとされ、レイヤーにはコソッとノートを指された。


──シリル様ルートは悪印象から始まるのよね⋯⋯って、まさか二人はシリル様ルートを私にさせる気!?。


 目を瞬き「嫌だ」と必死に伝えるがレイヤーに笑い出すのを堪えた視線を返され、「ガンバレ」と口パクを見せるテラードに思わず溜息を吐いてしまったのを嫌がっていると取ったのか、シリルは厳しい口調で忠告だとばかりにキャラスティを見下ろした。


「っ、アレクスは王族だ。テラードとレトニスは次期侯爵、レイヤー嬢は王族の血筋の公爵家。君の方から離れるべきだ。悪影響にしかならない」


 シリルは「こうだ」と思い込んだ物はなかなか曲げない。貴族と言っても上級貴族は特別でそれ以外はそれ以下でしか無い。


 「ゲーム」では「身分違い」だと言われたランゼは「下の者を見下し安心しているのは、自分に力も慈しみも無い、身分しかないと言っていると同じだ。貴族とは着飾っただけの張りぼてなのか」「生まれも身分も関係ない」とシリルに反抗するのだ。


「そうですよねえ⋯⋯はい。そうします」

「へ?」「ええっ?」


 アレクスではシナリオとは「逆」の行動をしたのに「好感度」が上がった。

 シリルにシナリオ通り「反抗」しても「好感度」が上がるのだろう。ならば、残るは「無関係」だ。

 わざわざ攻略対象者に近付く必要も無ければ仲良くする必要も無い。


 さっさと消えますよの体でシリルの背後まで来て振り返り、キャラスティは二人に「あかんべえ」の仕草を返す。面白半分にシリルの攻略をさせようとするから仕返しだ。


「今のは聞き捨てならないな。シリル」


 いつから居たのかアレクスの声にキャラスティの肩が跳ね、慌てて姿勢を正した。振り返ったシリルに「あかんべえ」を見られたら火に油。爆発はしなくとも炎上しかね無い。

 側に来たアレクスがキャラスティの腰に手を添えるとシリルの瞳が見開かれた。


「我々が上級貴族だと言うのなら「相応」の態度で居なければならない。見下した物言いは上級とは言い難いと思うが」


 ランゼに「身の程知らず」と言われても、シリルに「悪影響」と言われても平然としているのは「らしい」とアレクスが気遣い気にキャラスティを見る。アレクスは紫紺色の髪に金色が光る髪留めを見つけて嬉しそうに目を細めた。


「アレクス、お前⋯⋯」

「シリル様のおっしゃる事は尤もです。貴族にも立場の違いはありますから。皆様と私は同じ貴族ではありません。烏滸がましい事です」


 だから「無関係」です。と意味を込めてアレクスから離れると哀しそうな瞳で見返された。


 レイヤーとテラードとは「前世」の記憶共有で「友人」にはなったが、現実、貴族社会の爵位の上下は顕著だ。上級貴族の二人は良いとして下位貴族のキャラスティは学園内で上級貴族に馴れ馴れしくすると嫉妬の標的となり弊害が生じる。その為、中庭と学園の外でしか話をしないと決めた。すれ違っても挨拶をするだけだ。

 レトニスは「嫌だ」と聞き入れるつもりが無いので説得は諦めた。


「アレクス、立場を忘れたか? お前が彼女を庇う事がどんな意味を持つかを知らない訳ではないだろう」

「⋯⋯何が言いたい」

「アレクスが望もうと爵位の低い令嬢は正妃にはなれない」

「⋯⋯は?」

「ただでさえ上級貴族と付き合いのある者は嫉妬される。それなのにアレクスが寵愛しているとなれば影響は大きい。側室にするにも心無い誹謗中傷から守ってやれるか? 中途半端な寵愛で彼女が受ける悪意を考えたか?」

「そく、しつ⋯⋯? まて、何の話をしているんだ」


 その場にいた全員が目を丸くした。

 真剣な表情で訴える内容が「正妃」だの「側室」だのと飛んでいる上に、これまで「悪影響」と言っていたのはキャラスティが受ける嫉妬や誹謗中傷を心配しての事。上位の者が配慮しろと言う事らしい。

 幼馴染でも次期侯爵のレトニスにさえ烏滸がましいと主張するのに精一杯の所にまさかの「側室」にキャラスティの気が遠くなる。


「シリル様って不器用ね⋯⋯言葉が足りないわ」

「目つきも悪いからな⋯⋯誤解もされやすい」

「思い込みも強すぎる⋯⋯」


 シリルから気まずそうに背けた顔で視線だけを投げられる。キャラスティは面倒な攻略対象者だと項垂れた。

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──────────(・ω・)──────────
もし、感想欄に書くのは恥ずかしいけど「応援してるで」 と言ってくださる方がいらっしゃいましたらお気軽にどぞ
マシュマロ置いておきます_(:3 」∠) _

マシュマロは此方
──────────(=゜ω゜)──────────
― 新着の感想 ―
[一言] 修羅場発生! 目が離せない展開になってきました。
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