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転生令嬢は平凡なので悪役に向いていないようです ──前世を思い出した令嬢は幼馴染からの断罪を回避して「いつもの一杯」を所望する──  作者: 京泉
第一章 始まりの前

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お茶会は中庭で

 トレイル邸での夜から数日。


 昼を兼ねて図書室に近い学園最奥のいつもの中庭で珍しく小さなお茶会が開かれていた。

 主催はセレイス公爵家令嬢レイヤー。

 招待客は東のトレイル侯爵家令息レトニス、西のグリフィス侯爵家令息テラード、レジェーロ子爵家令息ブラント、ラサーク子爵家令嬢キャラスティ。


「今日はチャイにしたの。どうしても飲みたくて。はい、ブラント」

「こっちにも似たスパイスがあるのね」

「キャラ、こっちだとか、あっちだとか疎外感を感じるから控えてって、言ってるよね」

「あ、ごめんなさい。つい」

「レトニスなんて気にしないで良いからさ、あっちの世界の思い出話をしようか、先輩」

「レイヤー様もう少し離れていただけませんか」


 普段はひと気のない中庭に賑やかな声が響く。


 トレイル邸での夜にテラードとレイヤーはレトニスに「前世」と「ゲーム」を語った。話の間、レトニスはそれを本心から信じてはいなかったが目の前でキャラスティが寝入り「夢」を見た事で認めざるを得なくなり、嫌々ながらも受け入れようとしてくれている。


 キャラスティは「前世」をレトニスに伝えられた事でまだ不安は残っているが心の荷が軽くなり、もう一つの荷物だった「東の侯爵に付き纏っている令嬢」の「噂」がパタリと止んだ事で久しぶりの解放感を感じていた。


 キャラスティは彼らを見回して懐かしいチャイティーに息を落とした。


 ただ、何故かキャラスティの「噂」の代わりに「セレイス公爵家令嬢が東西の侯爵に付き纏っている」と流れ始めたのだ。レイヤーを気遣うと彼女は艶然と笑い「セレイス公爵家に文句が言えるのはいないわ」と大胆に虎の威を借る宣言をした。


 それでも「噂」が主導権争いや権力争いに不利になるのでは無いか、と心配すると三人は不敵な笑顔で「其々の家の思惑に支障がない」と言った。

 つまり、公爵家としても東西どちらかの侯爵家と縁が結べる、侯爵家としても公爵家と縁が結べる意味に取れる「噂」は取るに足らない話だと。


「私が狙っているのはブラントだもの。二人には隠蓑になってもらうわ」

「ご冗談を。公爵家から娶れる様な家ではありません」

「私は気にならないけど? だったらブラントが公爵家に婿に来れば良いじゃない。セレイスはお兄様が継ぐし、ほら、問題ないわね」

「西の侯爵家としては悪い話じゃないな」

「本気? ⋯⋯ふうん。そうしたらテッド兄がキャラスティを娶れば西と東は安泰だね。四大侯爵家の制約があるとしても養子縁組すればいいし」

「そうね! セレイス家の養子になればいいわね。キャラが義妹になるなら大歓迎よ」

「そんな事を俺が許すわけないだろ。東は政略的婚姻で他の地域と縁を結ばなくても良い方針だ」

「そんなの初めて聞いたわ⋯⋯」


「コレよコレ、友達と恋バナしたかったのよ」

「ソレとは違うと思うわよ」


 レトニスの不貞腐れた視線がカップ越しに向けられキャラスティは苦笑する。


 あの日の翌朝、テラードとキャラスティが「前世」で先輩後輩の同じ時間を過ごしていたと明かされ一悶着あったのだ。



「どんな関係だったの? まさかテラードが、すき、だったとか?」

「ええっ!? 分からないわよそんなの⋯⋯まだ」

「俺は先輩が好きだった気がするな⋯⋯そうか、だからキャラ嬢が気になるのか」

「ダメだっ! ダメだからそれは! 俺は子供の頃からずっとキャラが好きなんだよ」

「ずっとなら俺のがずっと好きって事にならないか? なんせ「前世」からだぞ?」

「何を言い出すの⋯⋯」

「レトニス様とテッド兄、流れでさらっと告白してますけど」

「キャラは「ゲーム」の通りになりたくなくてレトニス様を避けていたのだから、レトニス様は少し分が悪いわね」


 「分が悪い」に涙目になったレトニスがクローゼットに引き籠り「昔は昔、今は今」だと説得したが、最終的には主人の不甲斐なさに限界を迎えた執事のエガルがクローゼットの扉を壊す事で遅刻だけは免れた。

 四人は小振りの斧を損傷の範囲が小さくなるよう的確に振り下ろした時のエガルの笑顔が忘れられない朝になった。



「とにかく、トレイル家としてはキャラをラサーク家から他家の養子に出す事は一切考えていないからな」


 キッパリと断言するレトニスにキャラスティは小さく気合を入れる。

 もし、レトニスが「ゲーム」に影響されたとしてもキャラスティは「サクラギ」が設定した攻略対象者の隠しパラメーターに掛けてみる事にしたのだ。

 ライバル令嬢に対する「好感度」は下がっても「友好」までなのだと。

 だから「ヒロイン」と会っても危害を加えない、攻略対象者が誰を好きになろうと自分が嫉妬する事も嫌がらせを行う事もしなければ断罪を受ける事態は避けられるはず。

 万が一リリックとベヨネッタが「ヒロイン」へ危害を加えそうになれば何としてでも、止める覚悟も出来ている。


「⋯⋯三人が「ヒロイン」を好きになるのを邪魔するつもりは一切ないの。その時はちゃんと適度な距離を保つ様にするから言って欲しい」

「そうね。その時は私もブラントを諦めるわ」

「邪魔しそうになったら⋯⋯何処か遠い国にでも行くのも良いかな」

「⋯⋯やめて、やっと普通に話してくれる様になったのに直ぐにそれ?」


 レトニスの深緑の瞳が揺らいだ。

 レトニスの「好感度」が変化する時はどうやら瞳に揺らぎが出ると分かった。

 ブラントの「好感度」も瞳。瞳の光が増える。

 テラードの「好感度」の変化は髪の揺らぎ。随分と器用な変化表現だ。


「そうは言ってもレトに好きな人が出来たら離れるものじゃない?」

「いや、まって、なんで、まだそんな事言うの」

「キャラの拗れ具合は重症なのよね」

「キャラスティが誰かを好きになったら、レトニス様は離れないとなりませんね」

「だから! なんでブラントは余計な事言うんだよっ! そんな事、俺が許す訳がないだろっ」

「お前が許すもんなのか?」


「好きな人かあ⋯⋯」


 ビスケットを手にキャラスティがポツリと呟くのを拾ったレトニスが青ざめた。どうしようもない不安が込み上げてくる。流れで、とは言え自分の気持ちは知られているはずなのに変わったのは緊張した表情を見せなくなった程度。


 「ゲーム」のキャラスティはレトニスが好きだと言う。それを「付き纏われて迷惑だった」と突き放し、挙句レトニスは「ヒロイン」を選ぶ。

 キャラスティに好きだと言ってもらえる「ゲーム」のレトニスを羨ましく思い、「ゲーム」のレトニスが突き放したお陰で「こっち」の自分が迷惑していると腹立たしくも思う。


 ふと、ぼんやりと「好きな人」を考えているキャラスティの髪に触れれば驚いて照れた笑顔を見せてくれるだろうかとレトニスは手を伸ばしかけてテラードに叩き落とされた。


「どさくさに紛れて何しようとしてんだよ。お前、口説くのも下手だが行動もいやらしいなあ」

「いやら、しい⋯⋯っ、じゃ、じゃあお前は上手いのかよ」

「少なくとも、お前よりは。多分な」


 久しぶりにへらっと笑うテラードにレトニスは苦笑する。


「随分と楽しそうだな」


 不意に掛かった声に中庭の入り口へと視線が集中した。


「良く、こんな所を見つけたな」


 突然現れた人物は金色の髪を肩に流し、髪と同じ金色の瞳で珍しそうに中庭を見回した後、ゆっくりと中庭へ踏み入れた。


 彼は学園の生徒会長であり、この国の王子アレクス・ハリアードだった。


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マシュマロは此方
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