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転生令嬢は平凡なので悪役に向いていないようです ──前世を思い出した令嬢は幼馴染からの断罪を回避して「いつもの一杯」を所望する──  作者: 京泉
第一章 始まりの前

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トレイル邸のお泊まり会

 テラードの言葉にショックを受けなかったとは嘘でも言えない。


 「時間が来た」と促され中庭を後にするキャラスティの足取りは重かった。心の中では二つの事が重くのしかかっている。

 一つ目はこれからレトニスに説明をする事。

 二つ目はこれから「ヒロイン」がやって来る事。


「もう、今心配しても仕方ないでしょう?」

「⋯⋯そう、ですが。レイヤー様は不安ではないのですか?」

「そりゃ不安よ。でもね、キャラと出会えた。一人じゃなくなったもの。嬉しい気持ちの方が大きいわね」


 そこで「自分なんかでは頼りない」と卑屈な考えが浮かぶのがキャラスティだ。申し訳なさにキャラスティが少しだけ自分よりも背の高いレイヤーを見上げると本当に嬉しいのだと分かる笑顔を返された。


「取り敢えず、レトニスの事を片付けてからだ。説明は俺に任せてくれ」


 急がないと時間オーバーで「次」が無くなるとテラードに急かされ図書室に帰ると、机の上の可愛らしくラッピングされたプレゼントの山をテラード宛とレトニス宛に分けながらブラントは「待っている間に囲まれていろんな意味で怖かった」と零し、レトニスに至っては不機嫌な表情で興味がないと言いた気に山を見つめていた。


「お帰り」

「ちゃんと時間通りに返しに来たぞ」


 ヘラっとテラードは笑うがレトニスはやはり不機嫌のまま。

 「結構露骨なのね」とレイヤーがキャラスティにコソッと話し掛けてくるのをキャラスティは苦笑で返した。


「レトニス様、そんなに不機嫌だと怖がられますわよ」

「レイヤー嬢、どうして貴女が?」

「ふふふ。二人きりだったと思って不機嫌なんでしょ? 若いわねぇ。安心なさいな。私もその場にいたの。二人きりじゃなかったわよ」


 「前世」をカミングアウトしたレイヤーは取り繕うのをやめたらしい。キャラスティの肩に肘を乗せて揶揄う様な絡み方に「酔っ払いか」とテラードは吹き出す。

 一方、普段はお淑やかなレイヤーの豹変ぶりにレトニスは困惑を浮かべた。


「ああ、そ⋯⋯う」

「そう。って素っ気無いわね」

「⋯⋯それで、話は終わったのか?」


 ブラントがせっせと仕分けをしている山を崩しながらレトニスは早く結論が聞きたいと言葉を投げる。


 折角仕分けしたところに仕分けしていないものを置かれたブラントは山に戻す。その作業にキャラスティが加わり手にしたお菓子を珍しそうに見て仕分ける姿にレトニスは苛立ちを覚えた。

 ブラントと図書館に来た事も、テラードに連れ出された事も嫌で嫌で仕方ないのにレトニス宛のプレゼントを見てもキャラスティは嫉妬すらしてくれない。


──自分はこんなにも嫉妬でどうにかなりそうなのに⋯⋯。


 手帳を見てからテラードは考え込んでいた。悪いと思いつつ預かった手帳をレトニスが開いてもやたらと空白が多く日々何をしているのかも見えず何も引っかかる物は無かった。


 テラードが気付けてレトニスが気付けない「何か」を確認したいと詰め寄られキャラスティがそれを了承した事で送り出したは良いが、手帳は口実だったのではないか、何を話したのか直ぐにでも聞きたい。

 本当の事を話すのか嘘を吐くのか。

 嘘などいくらでも吐けると思うと暗鬼しか浮かばないのだ。


「終わらなかったよ」

「⋯⋯だから話せないとでも言うのか?」


 テラードに鋭い視線を向けて苛つきを露わにするレトニスにキャラスティが「あっ」と小さな驚きを発し、仕分けの手を止める。レイヤーもゲームを思い出したようで息を飲み「思いつめ過ぎね」とやや険しい表情を見せた。


「喧嘩腰で来るなよ。話さないとは言ってないだろ。約束だしな。ただ、ここはもうすぐ閉まるだろ?グリフィス邸かトレイル邸に場所を変えたい」

「⋯⋯トレイル邸で良いだろ。キャラ、寮に外泊の手続きしておいで。ロータリーで待ってるから」

「え、外泊? 外出で良いでしょ。明日も授業あるもの」

「悪いけど素直に従って。当事者と関係者が居ないと信じてもらえないよ? レトニス、お前の家に行くのはキャラ嬢と俺、それからレイヤー嬢とブラントだ」

「俺も?」


仕分けを終わらせテラード宛のプレゼントを抱えたブラントが「関係ないんじゃない?」とテラードに問いかけた。ブラントの顔は面倒に巻き込まれたく無いと訴えている。


「関係あるんだよ。じゃあロータリーで」

「私、キャラと一緒に寮に行ってくるわ。一度見てみたかったのよ。さ、行こ行こ」



 レイヤーと共に寮へ向かいながらキャラスティは外泊までしなくても良いのではないか、こんな大事になるとは思ってもいなかったと溜息が止まらない。


 テラードとレイヤーによるとビールの「夢」だけでは無く、「未来」だと思っている「夢」は「前世」の世界のゲーム内容だと言う。


 「前世」で作られた世界が今の自分が生きる世界。本来ならとても受け入れ難いものだが、不思議とキャラスティは受け入れられた。

 もう一人の自分が居た事を認めているから受け入れられたのであって万人が受け入れられる話では無いだろう。

 テラードはそれをどうレトニスに説明するつもりなのか夜通しで説明するつもりなのかと憂鬱になる。


「嫌そうねえ。まあ、テラード様を睨みつけた時はドキッとしたけど」

「レイヤー様も見覚えありますか?」

「そりゃね。やり込んだもの。ゲームの私達も大概性格悪かったわよ」


 レイヤーはケラケラと笑う。


「そうねぇ⋯⋯私が感じただけなんだけど、レトニス様は少し強制力に影響されてる感じね」

「やっぱり⋯⋯」

「違うわよ。無理矢理じゃなくて「好感度」によって、なんて言うか感情が抑えられていない? そんな感じ。ゲームのレトニス様は知的クール枠でね、「好き」状態になると独占欲が出て束縛してくるのよ。今それの出始めかな」

「影響はされているんですよね⋯⋯」

「もーっ! 元々あった感情に上乗せみたいな物なのっ!」


 「キャラは手強い」だの「レトニス様も苦労する」だの「いい加減認めなさい」だのとレイヤーに説得されながら寮の自室に戻るとキャラスティは鞄に明日用の教材を入れ替え、夜着と普段着をトランクに詰めた。

 中まで付いて来たレイヤーは待っている間、珍し気に室内を観察し、外泊届を持って執事のベルトルが部屋に来るとレイヤーはアレコレ質問した結果「爵位で建屋が違うなら意味ないわ⋯⋯」と零していた。


「ベルトルさん、外泊先も書かないとダメですよね⋯⋯」

「ええ、ちゃんと何処に行くか書いてください。ご実家への定期連絡項目になりますから」


 素直にトレイル家と書けば祖母のエリザベートに知られ漸くトレイル邸に入ると喜ばれてしまう。それに親戚筋とは言え、婚約者でも無い異性の家へ泊まるとなると外聞が悪い。

 何と書こうか難しい顔をしたキャラスティに「ウチでしょ」とひょっこりとレイヤーが口を挟んだ。


「セレイス家。夕食に誘われたってね」


 確かに公爵令嬢レイヤー・セレイスに夕食に誘われたとすれば問題は無い。

 外泊届けにサインをして渡すと受け取ったベルトルが二人を見て頷いた。ベルトルにも「噂」が聞こえていただけにキャラスティを心配していた。

 セレイス公爵家と言えば王家の血筋。セレイス家令嬢レイヤーと友好的な関係が築けているようだと安心した笑顔を見せた。


「楽しんで来てください」


 「楽しんで」と言われてもキャラスティは憂鬱だった。分かっているようで何も分かっていないモヤモヤとしたものが晴れないのだ。

 隣を伺うとレイヤーはキャラスティから奪ったトランクを振り回しながらスキップし、鼻歌を歌っている。と、レイヤーは少し先に走り出し「お願いがあるの」と照れたようにもじもじとしながら振り向いた。


 金髪に碧眼のレイヤーは迫力のある美人だ。

 身長が有り、スタイルが良い。肌は陶器のようにキメが細かく白い。鼻も高くパーツが整い、吊り目だが切れ長でくっきりとした碧の瞳と毛先にウェーブが入った金色の髪。

 迫力のある美人がもじもじしている。


「私も「様」を付けないで呼んで欲しくて⋯⋯レ、レ、レ⋯⋯レイって!」


 レイヤーはぎゅうっと目を瞑り叫んだ。

「ゲーム」で「メイン悪役令嬢」と呼ばれるレイヤーの可愛い仕草にキャラスティの緊張が解れた。


「レイヤー様のお願いでしたら、善処します。レレレ⋯⋯のレイ? ですか?」

「もーーっ! キャラの意地悪」

「ゲームの私達は意地悪なんですよね?」



 楽し気に笑う声がロータリーで待つ側に聞こえて来る。二人が戯れ合いながら歩いて来る姿が見え、待つ側の表情が和らいだ。


「楽しそうだな」

「キャラが笑うの⋯⋯久しぶりに見るよ」

「だったら、お前もちゃんと笑わせてあげろよ。追い詰めるのではなく。な?」


 気持ちは分かるがレトニスのやり方は良くないとテラードは釘を刺す。

 レトニスは楽しそうに笑うキャラスティに視線を向け「そうだな」と少しだけ寂し気に笑った。

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