偽善の悪意
うららかな春の午後。
沙織はバタバタとランドセルを鳴らしながら家の中へと駆け込んだ。
「ただいま~♪」
放り投げる様にランドセルを下ろした沙織に茶色の塊が飛びつく。
「きゃ☆――もぅ~ラッシュったら~」
沙織にじゃれつくのは一匹の柴の仔犬。
その名前の通り“ラッシュ”──怒涛の様に沙織にじゃれかかる。
「ちょ……くすぐったいってば☆」
顔中を舐められ、沙織が悲鳴の様な声を出す。
が、声とは裏腹に顔は満面の笑みだ。
「沙織ー? 早く上がんなさい」
母親の声に沙織は悪戯な笑みを浮かべると、下駄箱の上のリードを掴んだ。
「ママー!! ラッシュの散歩に行ってくるねー!!」
言った時には既にリードはラッシュの首輪に填まっていた。
「沙織!! 待ちなさい!!」
母親の叫びに応えたのは玄関が勢い良く閉まる音だけだった。
「……もぅ」
‥‥‥‥‥‥‥‥‥
「ラッシュ!! 公園に行くよ!!」
沙織が声をかけるまでもなく、ラッシュは公園に向かって一目散に走り出した。
沙織は周りに気を配りながらもラッシュに合わせて走る。
住宅地を抜けた大通りの手前に公園はあった。
大きなグラウンドの半分がドッグランとなっている。沙織の大好きな場所だった。
『ワン!!』
もちろんラッシュも。