それでも貴方は伝説の聖剣を引き抜きますか?それとも・・・止めておきますか?
聖剣抜いたら勇者になったあー!
さあ、ガンガンいくぞー!
これを真逆でいってみました。
ちょっと暗い話かも。
宜しければお付き合いください。
伝説の聖剣・・・それを引き抜ける者は勇者のみ。
伝説の聖剣と勇者は世界が危機に面した時に現れ、勇者は聖剣を引き抜き、その力で世界を救い、人々に希望を与えていったという・・・
この世界に住まう誰もが一度くらいは耳にした事のある話である・・・
「アレが伝説の聖剣かぁー。キラキラしてるよ。凄いなー。」
「本当に綺麗だねぇ。アレを引き抜く事が出来るのが勇者だけだなんて残念ねぇ?アルト。」
「リーラは夢が無いなー。俺はまだ挑戦してないんだから夢くらい見たっていいじゃないか。それに、勇者が男と決まってる訳じゃないんだから、リーラにだって可能性はあるんだぞ。まあ、チャンスは年に一度の【感謝祭】の時だから来年になるけどな。」
「私は女の子だから、勇者になるよりも、大好きな人のお嫁さんになるのが夢だからいいのー。」
「そうか・・・まあ、リーラなら良いお嫁さんになれるさ。幼馴染みの俺が保証してやるからさ!頑張れよ。」
「はぁ、分かったわよ。・・・(アルトのバカ)・・・」
仲良さそうに話しているアルトとリーラ。
もうすぐ15才になる二人は魔導学園に入学する為に王都に来ており、観光がてら教会に保管されている伝説の聖剣を見に来ていたのだ。
本人達は気付いていないようだが、実はこの二人には世界を救う力が眠っているのだ。
アルトは病弱なのだが頭が良く、魔導具の開発に才能を発揮して、将来は様々な魔導具で不作続きの王国の食料問題を解決する。
リーラは魔力は非常に高いが、安定性に欠けていた欠点をアルトの開発した魔導具で問題を解決。
その後、解呪の才能に目覚め、魔王の呪いで流行った不治の病を唯一完治させることの出来る聖女として王国を救う。
更に、アルトとリーラの子は魔王を倒す勇者となるのだ。
そこまで知っているならば、アルトがここで伝説の聖剣を抜く必要は皆無であり、無駄であることは確かなのだが・・・
アルトとリーラは知る由も無かった・・・
「さあ、伝説の聖剣は来年のチャンスを待つとして、そろそろ昼飯にしよう。」
「そうね。行きましょう。アルト。」
二人が教会を出ようとした時だった。
『私はこの教会の神官のライアだ。来年と言わずに今、伝説の聖剣を引き抜いてみるかい?今なら誰も居ないから大丈夫だよ。』
ライアと名乗る神官が二人に微笑みかけた。
20歳位だろうか?若い神官に見える。
「えっ?良いんですか?厳重に封印されているみたいですが?」
『ああ、あれね。大丈夫さ。』
ライアがパチンと指を鳴らすと、伝説の聖剣の封印があっさり解除されたのだった。
手を伸ばせば簡単に伝説の聖剣に触れそうだ。
『これならどうだい?私には抜けないようだがね。』
ライアが伝説の聖剣を握り、引き抜こうとしていたが、聖剣はピクリともしなかった。
『さぁ、君もどうぞ。』
「はい。」
アルトが伝説の聖剣に手を伸ばし、聖剣を掴んだ。
そして引き抜こうと力を込めた。
「えっ?えぇぇぇーーー!」
聖剣はアルトによって引き抜かれ、その全貌を見せていた。
「綺麗・・・」
『大変だー!勇者が、勇者が現れたぞー!』
聖剣を掲げたままどうしていいか分からず固まるアルト。
引き抜かれた聖剣とアルトをウットリと見つめるリーラ。
勇者誕生を叫びながら教会の外へ出ていくライア。
歴史が変わってしまった瞬間であった・・・
そして・・・
アルトは魔王を倒して世界を救う希望の勇者となってしまい、魔王討伐へと駆り出されてしまったのだった・・・
「アルト・・・病弱なアルトが魔王と戦うなんて無理よ ・・・本当は戦いなんか嫌いなのに・・・でも、皆に勇者だからと言われたらアルトは断れないじゃない。アルトは絶対に無理するに決まってるわ。アルトに何かあったら私は・・・だからお願い。無事に帰って来て。」
リーラには分かっていた。
聖剣の力でアルトは確かに強くなっていたが、精神や体の内面は何も変わっていなかったのだ。
そんな状態で聖剣を振り回せば、病弱なアルトがどうなるのかは想像出来る。
アルトも分かっていたのだが、たいした覚悟もないまま聖剣を引き抜いてしまって勇者になった以上、引き返すことが出来なくなってしまったのだ。
勇者になってみたい、聖剣の力で強くなってみたい、そんな考えでは魔王は倒せないのだ。
聖剣の力に負けない覚悟と心と体が必要なのだ。
だが、アルトは覚悟と心は何とか出来るかもしれないが、体は無理なのだ。
それでもリーラは祈り続けた・・・
アルトの無事を信じて・・・
リーラの元に王国から知らせがきた。
王都は歓喜で溢れていたので魔王が討伐されたのだろう。
だとすれば、アルトは生きているという事になる。
「良かったー。アルト頑張ったんだねー。お疲れ様。」
リーラは知らせに目を通した。
「えっ?嘘でしょ?イヤァァァァーーーーー!」
知らせは簡潔に書かれていた。
【勇者アルトの命を懸けた突撃により魔王討伐に成功。】
そして、リーラは姿を消した・・・
時は流れ・・・
王国は新たな魔王と戦っていた・・・
魔王リーラ。
最愛の者を失い全てに絶望した勇者アルトの幼馴染みの少女の成れの果てであった・・・
「終わりだ。魔王。」
魔王の胸に聖剣が突き刺さる。
「ぐはっ、始めから貴方が勇者だったら・・・こんな事にならなかったのに・・・そうでしょ?勇者・・・ライア・・・」
「それでは困るのだよ。魔王リーラ。」
勇者ライアは魔王リーラの耳元で全てを話したのだった・・・
「・・・嘘でしょ?あの時・・・アルトが・・・聖剣を・・・抜かなかったら・・・幸せな未来が・・・」
「俺の【未来予知】によるとそうだな。俺達魔族にとっては最悪の未来だ。だから俺達にとって、アルトの魔導具とお前の解呪能力、それと、お前達の子供が邪魔だったのだ。悪く思わないでくれ。」
「あの教会で・・・全てが・・・」
「そうだ。そして伝説の聖剣は【神殺しの剣】といってな、誰にでも使える剣だが俺達の意思で引き抜き可能なのさ。って、お前もう既に・・・勝者と敗者は表裏一体だ。恨むなよ。」
そう言うと、ライアはリーラの元から姿を消した・・・
その後、王国は不作続きによる食料問題と原因不明の流行り病により壊滅的な被害を受け崩壊した・・・
そして、魔族が人間を支配する時代へと突入したのだった・・・
とある異世界の教会にて・・・
「アレが伝説の聖剣か?アレを引き抜きゃ勇者かよ。」
「アルトもやってみたら?」
『私は神官のライアと申します。こちらにお並び頂ければ引き抜きにチャレンジ出来ますよ。どうです?』
「あーパスパス。勇者とか面倒臭いしー。腹減ったしー。リーラ。昼飯行こうぜ。」
「アルトなら絶対に引き抜けるのにー。まっ、いっか。」
アルトとリーラの二人は教会を出ていくのだった・・・
『おやぁー?そこの貴方。貴方様からは物凄い力を感じますね。私、神官のライアと申します。伝説の聖剣を引き抜いてみませんか?』
神官のライアはそう言うと、俺の目をじっと見つめ、返事を待っている。
【それでも貴方は伝説の聖剣を引き抜きますか?それとも・・・止めておきますか?】
微妙な暗さでごめんなさい。
気軽な行動が後で後悔することになる場合もあるので気を付けましょう。
みたいな事を伝えたかったんです。
また次回作でお会いしましょう。