好敵手
最近前書きって何書けばいいのか疑問に思い始めてきました・・・
「・・・」
「お、おい・・・紫苑?起きてる?生きてる?」
休日明け。丁度一時限目が済んだところで、剱が戸惑い気味に机に突っ伏したまま動かない紫苑に声をかけた。
「・・・あー・・・うん生きてるよ生きてる」
まるで錆びついた機械の様な動きで、紫苑が顔を上げる。鈍い金属音でもあれば完全にそれだ。
先週末の陽花より酷いのは、一目で分かった。
「おい紫苑大丈夫かお前?」
「気力が無いのはいつもの事だけど、これは異常だな・・・」
「霧ヶ峰君・・・大丈夫?」
と、先程からクラスの友人達や女子達からも心配されている。これでも実技「は」トップなだけあってそこそこ人望もあるのだろう。
剱はそんな様子を見て、人がいなくなってから一応紫苑に問う。
「・・・何があった?」
「やー、まあ俺も暇人だしサ・・・因果っていうか、宿命というべきか・・・」
死んだ魚の様な眼をしながら紫苑はスローペースで話す。
「いや、答えになってないんだが・・・」
剱が呆れ半分で言うと、紫苑は机に放置していたノートに何やら書き始めた。
「ん・・・?」
剱はそれを拾い上げる。
『犯人はメア』
「お前死ぬのか?」
と言いつつ剱はすべてを悟ったように紫苑を哀愁の目で見て
「何時間位?」
「半日強・・・位経ったなーって思ったのが最後だな・・・」
弱々しく紫苑が笑う。空虚しい笑いだ。
「でもメア今日も普通に登校していたけど・・・まあ、メアの事だしな」
ご愁傷様、と剱も苦笑いをこぼす。
「ほら、次は演習だよ。能力使ってさっさと治そうか」
通常、平時における能力の使用はかなり厳しい制限がかかっているが、演習時には特別にその制限が緩くなる(無くなるわけではない)。
廃人化している紫苑も、能力の恩恵を受ければすぐ回復するだろう。
「あー・・・」
怠そうに紫苑は剱の肩に頭を乗せて、付いていく。
「全く、今日は合同演習だぞ?そんな状態であれとやる気かい?」
「はっ・・・問題ねぇ、丁度いいハンデだ・・・」
この状態で言ってもいまいち説得力に欠ける。
ほとんど剱に引きずられる形で、紫苑は演習場に着く。
ついてすぐ、剱の言っていた「あれ」に当たる人物が近くにいた。
「・・・ええと、これはー・・・大丈夫、なのかしら?」
その人物からすら憂いの目を向けられる始末。
「ああ、飛鳥。気にしなくていいよ、演習が始まれば復活するはずだから」
剱の言葉に苦い顔をしているのは七宝 飛鳥。
艶やかな黒い長髪、大きくも鋭さを感じさせる眼。まだ高二だというのに凛として毅然とした雰囲気を漂わせる少女だ。
陽花や否とはまた違った、勝気なお嬢様、という形容の仕方が似合う。
「剱君、紫苑君も。・・・今日は宜しく」
その横にいる少し控えめな少女は夕張 風音。
彼女も黒い長髪だが、髪の半分程が白く変色している。彼女の左眼も淡い桃色になっている。
飛鳥とは反対に、大人し気な雰囲気を持っているが、彼女の左腕は、少なからず人目を引く。
彼女の左腕は肩の辺りまで、包帯が巻かれていた。
本人曰く、昔事故で左腕に大怪我を負った、らしい。
だが二人はそれをもう見慣れているし、いちいち気味悪がるような質でもない。
「うん。宜しく」
「おー・・・」
穏やかな表情で二人に手を振っている風音に、剱は朗らかに返す。
紫苑も、軽く手を挙げる。
「はぁ、こんなのが私を差し置いて実技一位とはね・・・」
「言われてるよ」
「ま、こんなのにお前負けてるんだけどなぁ?」
肩を慣らしながら紫苑が目を細めて挑発するような台詞を口にする。
その言葉に、飛鳥の片方の眉が一瞬吊り上がる。
剱と風音はそれを見て察したように、同時に溜め息をついた。
「「始まった・・・」」
「へぇ・・・出力値が高いだけの脳筋さんが、それで勝っているつもり?」
「ん?ああすまん、俺が言ってるのは演習実績の方なんだがな?」
「・・・(ピキッ)まぁ別に遜色があるほどの差ではないわ・・・それに所詮は高校の演習。本当の実力が出せる訳ではないしね」
「まあそれはお互い様だけどな」
「・・・今回は私が勝たせてもらうわ」
「ああうん、お好きにどうぞ―」
飛鳥と紫苑はまだ言い合いを続けている。
剱と風音は二人から距離を置いたところで言い合いを眺めている。
「・・・剱君、止めなくて、いいの?」
風音は困ったような表情で剱を見る。
「やだね。あれを止めてたらこっちの気力がいくらあっても足りないよ」
「ふふ・・・確かにそうかも」
剱は首を横に振りながら苦笑した。
そのしぐさにつられたのか、風音も小さく笑った。
そんな平和的な二人とは対照的に。
紫苑と飛鳥はにらみ合いを続けている。
「はいそこ。もう演習始めるわよ。定位置につきなさい」
演習場に来た陽花が、タブレットを叩きながら二人を制止する。ただし強くは言わない。どちらかというと面倒気に言って、通り過ぎていくだけだ。
「まあ、いいわ。全力で来なさいな」
「はっ、上等だよ」
「今日は連携を取って戦ってもらうわ。二人一組で軽く腕を慣らしたら、演習を始めるからね」
陽花がタブレットを操作すると、演習場に光の壁が出現し、二つの空間に別れる。
「二対二を二組ずつ行っていくわ。ま、他のチームの動きなんかも見て、勉強しなさい」
それじゃはじめーと、気の入っていない声で、陽花は合図する。
「さて、僕達はいつも通り最後だろうし、ウォーミングアップでもしようか」
腕を伸ばしながら剱は言う。だが紫苑の方はベンチに座って、既に放心状態になっている。
「あー・・・ねみぃなあ・・・寝てていいか?」
「せめて起きとこうか」
「ん・・・紫苑君、眠かったら・・・少し横になる?」
風音は紫苑の横に座って、自分の膝を指す。
「いいのか?じゃ遠慮なく」
「ちょっと風音・・・」
「いいじゃない飛鳥。・・・それに、勝ったとしても体調を言い訳にされるかもしれないしね」
「ぐ・・・」
風音は嫌気な顔一つ無く、そのまま他のクラスメートの演習を見ている。
それにしても、同学年で顔見知りとはいえ、自分から膝枕をしようとする人間が世の中何人いるだろう。
躊躇しない紫苑も大概ではあるが。
「それじゃ、最後は飛鳥、風音、紫苑、剱ね」
それから暫くして陽花が四人の名を呼ぶ。
四人以外の演習が終わると、演習場を隔てていた光の壁が無くなり、一つの空間になる。
「いつも通り、あんた達はこのフィールドでやってもらうわ」
特別待遇というのであれば、それはかなり美化した言い方だ。
実際は、「一般の高校生なら適正でも、この四人では事故を起こしかねないから」という理由。
軍人の戦闘訓練に使われるほどの広さだ。
それに不満を持つ者は、攻魔科にいない。むしろ四人が戦場に立つと、男女問わず四人を興味津々な様子で見ている。
「風音、頑張りましょうね。今日の勝ちは私達が取って見せるわ」
「うん・・・私も、全力で支援する。背中は任せて」
「・・・はあ、めんどー・・・」
この温度差である。
「そう言って。本当は彼女たちがいて嬉しいんだろう?」
紫苑の半歩後ろで剱は腕を伸ばしている。
「んー?・・・まぁ、たかが高校って思ってたからかな」
紫苑は欠伸を一つした後、二人の方を向く。
「あれだけの実力者がいる。楽しくないわけねぇなあ」
「ふ・・・だね」
紫苑と剱は顔を見合わせて、いつもの笑みを浮かべる。
「さて、やりますか」
「おーけー」
「それじゃ、双方構えて。・・・始め!」
どうも、黒雪です。最近忙しくて、作業中とかにアニソンやらボカロなどを聞いて、心を和ませていたわけですが、ようやく楽になって小説を再開すると、オリキャラってやっぱりいいなあ・・・と、しみじみ感じました。
こう・・・既存キャラには無い愛着が湧いてきますね。
儚い願いかもしれませんが、自分の小説を見て、オリ小説を書いてみたいと思ってもらえれば、それが一番嬉しいですね。
・・・二回言います。儚い夢です。
では、今回も最後までありがとうございました。