空間を御する者
ターミナル内は基本無人で、普段は無人機が警備を敷いている。外部に警備隊はいるのだが、この暴動の対処に回っているようだった。
剱と風音、ミカヅキは異様に静まったターミナルへ入った。
「まさかゲートを力ずくで破壊しているとはね。もうちょっとスマートに侵入してると思ったんだが」
「笑ってる場合ですか!?」
大破したゲートを眺め、飄々と剱は言う。
ミカヅキはそんな様子の剱に声を荒げる。
「でも、確かにここまで大破させようとすれば相当な衝撃があるはずなのに、戦闘騒ぎがあったとはいえ全く音が聞えなかったよね?」
「・・・確かに、そうですね」
風音の冷静な指摘により、ミカヅキは我に返ると、怪訝そうにゲートを見た。
「ま、そのあたりはこの先に行けば分かるだろう。行くよ」
そう言って剱は内部へ目を通す。
「と言っても・・・どう進むんですか?流石に、ここの内部の事は知りませんし」
「ま、それは大丈夫だ。こっちだ」
それだけ言うと、剱は二人を誘導し、一つだけあるエレベーターの前に立った。
「エレベーター?ここ、無人のターミナルですよね?」
「ま、非常用にね。・・・ん、ここはハッキングされてるのか。ふむ・・・」
「動かないの?」
認証機器を見て考え込む剱の横から風音が覗き込む。
「どうやらそうみたいだ。さて、どうしたものか」
「どうしたものかって・・・他に移動手段は?」
「あるよ。気が遠くなるような程なっがい階段ならね」
「・・・」
剱の言葉に、ミカヅキは一瞬躊躇うようにのけぞった。
「冗談だ。俺もあんなものを使う気はないよ」
苦笑しながら剱が言うと、ミカヅキはほっと胸を撫で下ろした。
「・・・なら、どうするの?」
「元よりエレベーターを使う気も無かったからね。俺の能力で「飛ぶ」よ」
「・・・は?」
剱が言うと、ミカヅキは首を横に傾げる。
「はは、と言っても地下だから飛ぶって表現はおかしいか」
「そう言う意味じゃないんですけど・・・って、地下に行く用なんですかこれ」
「ん、上はただの電波塔、それ以外にほとんど機能してないからね。ただ、この下に集められてるものが問題だ」
「集められてるもの・・・?」
「なんとなく、想像はつく、かな」
「ま、実際に見た方が分かり易いだろう。なるべく俺に近付いてくれるか」
そう言うと同時に剱は術式を展開させる。
それを見ると、二人は素早く剱に近付いた。
「座標を指定、空間転移開始」
その瞬間、三人は先程とは全く違う場所に立っていた。
「なぁっ!?」
あまりに現実離れした現象に、ミカヅキは素っ頓狂な声を上げる。
「ここが、ターミナルの地下。・・・剱君、貴方は一体・・・」
風音はただ、訝しむような目で剱をみた。
よく見れば、近くにエレベーターがある辺り、先程のエレベーターとつながっている場所のようだ。
「ま、特定の場所にしか使えないんだけど。さ、一応警戒しておいて」
剱が目の前の扉の方に目を向ける。
「・・・この先?」
「確かに、急に何かの気配がしますね。・・・それに、妙に胸がざわつく感じがします」
「まー俺達も半分悪魔みたいなもんだしね」
軽く笑いながら剱は扉に手をあてる。扉は固く閉ざされて動く気配がない。
「ここも、ハッキングされているの?」
「まー入口以外なら比較的楽なのかなぁ。まいったなぁ」
「・・・全然まいっている様に見えませんが?」
「はは、まあこのくらいならね。「展開」」
剱の声に呼応するように、扉の隙間に障壁が生成され、広がっていく。
「な・・・」
そして目の前に現れた光景に、風音とミカヅキは声を失う。
巨大な空間に一本の巨柱が立っている。
無論、ただの柱というわけでは無かった。その柱は機械のようで、そして心音の様に規則正しい音をたてて動いている。
「何、これ・・・」
「ま、簡単に言うと巨大な「人工の悪魔」ってとこかな?」
「・・・そっか、これが魔人街に悪魔が寄り付かない理由、なんだね?」
風音はどこか納得したように静かに呟く。その様子はどこか息苦しそうだ。
「ああ、感応装置が「餌」ならこれはその逆。悪魔の「天敵」を担う装置だね。・・・ところでそちらさんは、目的の物は見つかったのかな?」
剱はその柱に取り付けられている端末と睨み合いをしている一人の男に、嘲るような口調で声をかけた。
「・・・!?貴様ら、いつから!?」
剱に声をかけられた途端、男ははっと後ろに振り向いた。
「もう外の方は制圧されかかってるよ。アンタもさっさと逃げた方が得策なんじゃないか?」
剱は男の問いには答えず、嘲笑を浮かべて男にゆっくり近づく。
「外の奴らはどうせ金で雇われているだけなんだろうが、アンタらは違う。アンタらの欲してるのはこの「巨大な悪魔」のデータ。で合ってるかな」
「貴様、一体・・・」
「それに答える義理はないなぁ。でも一つ教えてあげようか」
剱は立ち止まり、人差し指を立てる。
「アンタらの望んでるデータは此処にはないよ」
「な・・・」
「全く、そんな「嘘」をどこから拾って来たのやら。ま、ここのシステムを一部とはいえハックしたのは優秀だと言っておこうか」
「嘘、だと?」
「ああ、アンタらが掴んだのはここが魔人街の情報が集積する場所だって情報だろ?まあ、見ての通りここにそんなものはありはしない。あとアンタのいじってるその端末も、駆動の制御装置だから何も出てこないよ」
巨柱の方に一瞬目を向ける。
「そもそもここに限らず、こいつの設計データなんてあるわけないのにね。こいつのデータがあれば、模造できるとでも思ったか」
そこで言葉を切った剱は、素早くブリューナクを取り出し、男に向ける。
「話し過ぎたね。悪魔モドキは連れてないみたいだし、大人しく投稿してくれると嬉しいな?・・・特にその手に持ってるものを遣おうなんて馬鹿な事はしないで欲しいかなぁ」
その言葉に、「それ」を掲げようとしていた男は一瞬怯んだ様子を見せた。
だが、即座にそれを見せ、怒声を上げる。
「動くな!少しでも動けばここごと吹き飛ぶぞ!」
「・・・何、あれ」
「かなりの規模のインパクトグレネード・・・みたい、だけどあれは」
剱と男のやり取りを後方で傍観していたミカヅキと風音が、それを見た瞬間、身構える。
「随分と物騒だね。ターミナルのゲートを大破させたのもそれの仕業か」
だがそれを見ても剱に動揺の色はない。
それを予想していたように、うっすらと含みのある笑みを浮かべると、躊躇なく男に近付く。
「・・・っ!?動くなと言っただろ!これはこの地下を破壊するだけの威力が」
「ああ、知ってるよ。その言葉が嘘では無いって事も。けど、果たしてアンタにそれが使えるだけの度胸があるかな?」
その言葉に再び男の動きが鈍る。
「ああ、さっさとそれ下げてくれれば命は保証するよ?命は、ね」
「く・・・くそ!」
剱がさらに近付いたその瞬間、男は意を決したようにそのグレネードを地面に叩きつけた。
「剱君っ!」
咄嗟に風音が剱に肉薄しようとした。
だが間に合う筈もない。
この距離であれば直撃は免れない、が、男が叩きつけた筈のグレネードは、床の何処にも無かった。
「!?」
自殺覚悟だった男は、何が起こったか理解出来ていない様子で、床を見ている。
そこに、剱の裏拳が深く突き刺さった。
「ぐっ・・・!?」
恐らく軍用のアーマーを着ていたのだろうが、剱の裏拳は易々とアーマーを貫いて、男の腹部に届いていた。
「全く皮肉なもんだな。情報のためとはいえ、こんな奴らを無駄に生き延ばすってのはさー」
そう言う剱の手にはグレネードが握られていた。
それも次の瞬間には、バラバラに壊れた。
「剱君、大丈夫!?」
昏倒させた男を見下ろしている剱に、風音とミカヅキが駆け寄った。
「ん?ああ大丈夫だ。グレネードも見ての通り無力化しておいた」
「・・・今のも、先輩の「能力」なんですか」
神妙な面持ちで、ミカヅキが問う。
「ま、そういうことだ」
濁すことなく、はっきりと剱は言った。
「さて、こいつを連れてさっさと戻ろうか。どうせ地上ではもう沈静化しているだろうし。・・・あ、それともう一つ」
剱は口元に人差し指を立てる。
「ここで見たもの、君達コードセブン内で共有するまでは構わないが、極力他言無用で頼むよ。一応これでも機密扱いなんでね」
「・・・了解」
「まあ、当然ですよね」
二人は納得したように頷いた。
「よし。そろそろシステムも自動修復される筈だ。帰りは普通にエレベーターを使うとしようか」
気絶した男を片手で持ち上げると、エレベーターの方へ飄々と歩き出す。
「・・・」
そんな後ろ姿を、ミカヅキは何処か曇った表情で見ていた。
前の零落者投稿から二か月。コードゼロ投稿から・・・約半年。まさか久しぶりにコードゼロ書いてみたらここまで詰まるとは。年末年始には上げようと思っていたのにどうしてこうなった。
とりあえず、基本的に零落者メインで書いているので結構遅めにはなるかと思いますが、コードゼロもちまちま投稿していきます。流石に半年も空けるのは自分でも酷いと思っているので(笑)
次は零落者を上げる予定なので、暇な時にたまーに確認して下さると幸いです。
それでは今回も最後までありがとうございました。




