黒雪姫
・・・約、二か月?本当に・・・申し訳ないです・・・。
数時間前。
飛鳥と別れた雪那は一人、己の感覚に任せて、街の外側を走っていた。
「・・・街の内部はほぼ鎮圧された・・・それでもまだ残った魔人は統制を失っていない。・・・まだ管理者は退いていない」
走りながらも、雪那は感覚を研ぎ澄ませ周囲を探る。
「かといって機械でもない魔人を遠距離から操れるわけもない。だとするとこの辺りのはず・・・」
雪那がいるのは街の外に無数にある廃虚。それは街から一定の範囲内に存在する。逆に一定以上離れると忽然と無くなっているのだが、その廃墟には崩れているものがほとんどだが、中には形状を把握できるまでに残っている建造物もある。
魔人街の監視下から外れたそこは、外法者にとって身を隠すのに格好の場所だろう。
幾つもの廃墟がある中で、雪那は足を止めた。
「・・・ここか」
雪那は眼の先の廃墟を見据えると息を殺して瓦礫に隠れた。
「・・・この感じ、おそらく間違いない、かな。・・・先ずは隊長に連絡を・・・」
と、雪那が通信機に手を伸ばした瞬間。
一体の悪魔が隠れていた雪那を襲った。
「・・・っ!?」
とっさに雪那はそれを躱し、悪魔の周りに氷の刃を展開した。
悪魔はそれにあえなく引き裂かれた。
「・・・何故、この程度の悪魔に気付かれるはずが・・・!」
引き裂いた悪魔には目もくれず、雪那は動揺を直ぐに抑え、悪魔が来た方向を警戒する。
すると雪那を囲むように、悪魔が集まってきた。
そして。
「・・・対象、視認」
「街の魔人の制御はもう切って構わん。対象を排除しろ」
雪那が見ていた方の廃墟から二人の人間が姿を現した。
その一人は、人間の姿を保ってはいるものの、その様は明らかに普通の人間の形相では無い。
だが。
「・・・!?女の・・・子・・・?」
その原型は一見して幼い少女だと分かった。
「・・・女一人、か。ふむ、例の「七の番人」とやらか?」
そしてもう一人は簡易な武装をした男だ。
その男は腕に着けられた時計を一瞬見た。
「・・・?」
「・・・さて、これ以上居座る理由は無い。だが追手が来ると面倒だ。・・・早急に片付けろ」
「命令、了解」
次の瞬間、雪那を囲んでいた悪魔が一斉に雪那に襲いかかった。
「・・・っ!」
雪那は氷の粒を、拡散させるように放つ。
しかし直撃を喰らっても、悪魔の動きは鈍りすらしない。
「!?」
それは想定外だったようで、雪那は一瞬回避が遅れた。
「・・・痛っ・・・!」
小型とはいえ悪魔、直撃ではないにしろ、一体の悪魔の攻撃は雪那の腕を襲った。
「個体で自立していない?・・・まさか、あの少女がこの悪魔を・・・あの魔人たちを統括しているという事・・・?」
雪那は負傷部を冷やし、出血を止める。
「・・・」
雪那は地面に手をかざし、止まることなく雪那を狙う悪魔に冷気を放つ。冷気といっても、その温度は悪魔の足を凍りつかせるほどの低温。一時的に止まった悪魔の間を抜け、手元に形成した氷の剣を、雪那は少女の後ろにいる男に向けて振るった。
しかし、それを少女の刃の様に硬化した髪が、氷の剣を砕いた。
そしてその何本もの伸びた髪が、雪那を捉える。
「くっ・・・!」
悪魔の行動を制限し、少女の攻撃を防ぎ、距離を取る。
「ふん、こちらを狙うか。命令している俺をやればこいつの動きが止まると思ったのか?」
男は雪那を嘲るように言った。
「いや・・・そうか、どちらかと言えば・・・こいつを「狙えない」と言った方が正しいのか?」
「・・・!」
それを聞くと、雪那の眼は一層険しさを増した。
その反応に男は合点がいったように余裕の笑みを浮かべると、少女の動きを止めた。
「当たりのようだな。なるほど、まさか「惨劇の奏姫」が七の番人とは」
「・・・っ何故・・・それを」
「裏では知らない者の方が少ないと思うがな?ああ、表ではすぐに沈静化したらしいが。大方過去の自分と重ねてー」
「黙れっ!」
雪那が普段見せぬ怒声で叫ぶ。
男が言い終える前に、雪那は氷の槍を男に向かって放っていた。
男も能力者のようで、男はそれを自身の能力で防ぐ。が、雪那の氷槍は男の能力を超えていた。
少女がいなければ確実に当たってはいただろう。
「ほう、流石に威力は強いな。・・・だが一つ言っておく」
男は雪那と距離を開ける。
「俺をやった所で、こいつは命令を遂行し続けるぞ?」
「!」
「つまり、こいつを止められない限り、お前に勝機は無い。我々は止められないぞ?」
「・・・っ!」
しかし雪那は男を狙って氷の刃と剣を生成する。
「・・・さて、雑談の時間は終わりだ。殺れ」
「了解・・・」
男が命令すると、周りの悪魔も再び動き始める。
怒りに染まった眼で、雪那は男に向かって跳躍する。最低限度の回避だけで、小さな被弾は最早考えていない。
当然少女が男を庇う様に雪那の前に立ち、雪那の攻撃を弾く。
「あくまで俺を狙うか。・・・七の番人とはいえ所詮は青いな。情は捨てきれんか」
「それ以上・・・その口を開くなっ・・・!」
雪那の剣に触れた少女の髪が凍結し、崩れた。
少女へ追撃はせず、男だけに狙いを定める。
だがその刃が男に届く前に、一つの黒い塊がそれを遮った。
「っ!?」
それは、生きる屍と化した悪魔だった。捨て身同然で、悪魔は雪那に飛びかかっていた。
「・・・邪魔・・・っ!」
悪魔を弾き飛ばし、男への攻撃を強行しようとした、が、あまりにも隙が多過ぎた。
その隙に、少女の再生した刃が雪那の腹部を切る。
「あ・・・ぐっ・・・!」
否応にも退避を強要され、雪那は横に大きくのけぞる。
しかし傷の激痛からか、その足取りは先程より重い。
その所為で、数体の悪魔の攻撃を、雪那は流しきれない。
「・・・う・・・ああああぁぁぁっ!!!」
悪魔の斬撃が、雪那に突き刺さる。
あまりの激痛に、雪那は悲痛に叫ぶ。
「・・・ふん、相手が悪かったな。まああれだけの失敗作の中で数少ない成功例だ。性能は上々だな」
傷口から、止めどなく鮮血が流れる。もう意識を保つのも、雪那には厳しい状態だった。
「・・・さて、そろそろ時間だ。街の方の駒はもう鎮圧されたようだし・・・殺れ」
(こんな・・・ところで・・・)
四肢に力を入れようとしても、出血の所為でそれも出来ない。
少女が悪魔を使役し、雪那に止めを刺そうとする。
(ごめん、なさい・・・皆っ・・・!)
『何時まで畏れているの?』
(!?)
唐突に脳に直接声が響いた。
『「彼」に会えたのは幸運だったのに』
その声に、感覚に、雪那は何処か覚えがあった。
まるでその声に心を「黒く染められるかの様な」感覚を。
(誰・・・なの・・・)
『力が足りなら使わせてあげる。今の貴方じゃ、私は使いこなせないでしょうけど』
雪那の問いに対する答えは無い。その代わりのように。
『今死ぬよりいいでしょう?』
雪那の思考は薄れ、その声に引きずり込まれた。
「終わらせろ!」
そして悪魔の群れがうつ伏せになった雪那へ襲いかかる。
悪魔の腕が、雪那に触れた、その瞬間。
雪那から膨大な黒い冷気が放出された。雪那の周りにいた悪魔はその冷気に飲まれ、凍りつき、朽ちるように崩れた。
「何・・・!?」
雪那はゆっくりと身体を起こす。
黒い冷気が、まるでドレスのように雪那に纏わりつく。
顔を上げた雪那の眼に、もう光は灯っていなかった。
なんだか零落者ばかり話を考えていると、今度はコード・ゼロがおろそかに・・・。現在零落者、クリブラも同時進行で書いています。なるべくペース上げていきたいと思っていますので、こんな感じですが、どうかこれからもよろしくお願いします。
それでは最後まで、ありがとうございました。




