表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
  作者: 堀 雄之介
43/50

第43話 幽鬼

 電子音が、狭いアパートのなかに響いた。


 平山がいつも目を覚ます時刻だった。


 もう平山は、自分が起きているのか寝ているのか分からない。


 アキヒデが現れて、強引に体外離脱を行わないということは、辛うじて起きている状態なのだろう。


 しかし、意識は殆どなかった。極度の寝不足で、思考力は皆無だ。


 鳴り響く目覚まし時計の音も、なかなか耳には入ってこなかった。


 聞こえても、何故その物体が喧しい音を発しているのか、理解することに時間を要した。


 喉の渇きを覚え、水道水を飲む。


 猛烈な喉の痛みを感じ、意識は僅かに回復した。


 もう、狂気の一歩前にいることを、ようやく平山は自覚した。


 時計を見ると、既に出社していなければならない時間だった。震える指で、平山は会社へと電話をかけた。


「……ヒラヤマデス」


 搾り出すような擦れた声しか出なかった。対応した上司はその声を聞いただけで、彼がその日休暇を取ろうとしていることを理解してくれた。昨日の蒼白な顔も影響しているようだ。ゆっくり休め、と心底心配している様子だった。




 平山はユニットバスにある鏡に、己の姿を映して見る。そこには、亡霊がいた。青白い顔の頬は痩せこけ、目は干からびたように光がない。首周りは真っ青に変色してる。


 そして更に、左右のもみ上げが白髪になっていた。




―― これが、俺……か?




 死にかけの老人でも、もう少し顔色が良いだろう。


 そんな自分の顔は見たくない。平山は傷む首を気遣いながら顔を背ける。だがその僅かな一瞬、鏡の隅に別の男の顔が映った気がした。


 痛みも忘れ、平山は再度鏡を覗き込む。しかしそこには、相変わらずの惨めな自分の顔しかなかった。




―― 確かに今、あいつがいた。間違いない、あれは島津だ。




 鏡の中の自分に語りかけるよう、平山は呟いていた。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ