第40話 地獄の門
苦しみは一瞬だった。頸が吊られ血管が伸びると、意識は薄れていった。
真っ暗な世界に漂っている感覚があった。やがて小さな光が見える。平山はその光に向かって泳いだ。
近づいてみると、光はトンネル状だった。平山はその光のトンネルをくぐってゆく。
心地よかった。暖かい光に包まれ、平山は心から安堵する。
これで、ようやく苦しみから解放される。
そう、信じていた。
しかし、気が付くと平山の目の前に、アキヒデが立っていた。
平山はドアに背をあずけたまま、アキヒデを見上げた。
彼は、満面の笑みを浮かべている。
「逃げられるとでも思っていたか?」
平山は、口だけ動かした。「ドウシテ」と。
「お前、夢の世界は単なる頭の中の空想、妄想だと信じてるみたいだけど、違うよ。この世界は、現実世界の裏側みたいなもんだ。言い換えれば『あの世』だよ。お前はオレから逃げようとしたみたいだけど、逆にオレのもとへと帰ってきただけだ」
アキヒデは笑顔を消し、真顔になって続ける。
「そして、今度は目が覚めることがないぜ」
平山は震え出す。ガクガクと、体中が痙攣するように震え出す。
「お前が地獄だと感じた世界。これが永遠に続くわけだ。楽しいじゃないか。時間制限なし、フリータイムだ。これからずーとずーと永久に、一緒に遊ぼう、な?」
アキヒデは再び笑い出す。唇を左右に伸ばした笑顔は、やがて大口を開けた哄笑となり、嘲笑となる。
―― 嗚呼、嗚呼、誰か助けてくれ……。