表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
  作者: 堀 雄之介
39/50

第39話 最後に残された手段

 コンビニにも寄らず、平山はアパートに帰ってきた。


 上着も脱がず、しばし呆然とした後、彼は携帯電話を手にする。


 もう一年以上もかけていない番号を探し出し、発信ボタンを押した。


 3回コール音が響き、相手が電話に出る。


(ハイ平山です)


 疲れきった中年女性の懐かしい声が聞こえる。


「もしもし、俺……」


 掠れる声で、平山は喋った。


(……健太郎? あんた、健太郎かね)


「ああ、母さん元気か」


(元気かぁ、じゃないよ。正月も帰ってこんと、こっちから電話しても、全然出ないんだから。生きてんのかもわかりゃしないじゃないか。ちゃんと仕事はしてんだろうね)


「うん、働いてるよ。今日はたまたま休みなんだ」


(そんならいいんだけどさ。あんた、たまには帰っておいでよ。お父さんも心配してんだから。お盆には帰れるのかい?)


「ああ、多分帰るよ」


(しかし、なんだい急に電話なんかよこして。あんた、具合でも悪いんじゃないかい? 声がおかしいよ)


「大丈夫、なんでもないよ。ちょっと疲れてるだけだ」


(ちゃんとご飯食べてるの? それから、彼女はまだ出来ないのかね。お母さんに、早く孫の顔でも見せとくれよ)


「……ああ、いつかね。ごめん母さん、ちょっと用事できたから切るわ。また連絡する」


(ちょっと健太郎、お父さんと代わる……)


 平山は電話を一方的に切ってしまった。携帯電話は、彼の手からポロリと落ちた。


 彼は泣いていた。子供のように泣いていた。泣きながら、呟き続ける。




―― ごめん。ごめんなさい。




 涙を拭うこともなく、平山はネクタイを解く。解いたネクタイを結び直し、小さな輪を作った。そしてその一方を、アパートの入り口にあるドアノブに引っ掛ける。以前有名なロックスターが、この方法で自らの命を絶った。同じ方法で、平山は地獄から解放されることを願うのだった。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ