第38話 逃避
平山は目覚める。深夜の1時だった。
失禁こそ免れたが、全身は冷や汗で濡れている。
―― 気が、狂う。
強制される体外離脱に対して、もはや対抗すべき策はひとつしかない。
寝ることを止めるしかなかった。
平山は布団の上に座り、ただ朝が来るのを待った。
朝が訪れるまでの長い時間、彼はアキヒデを殺す方法を考え続けた。
しかし、何ら思いつかぬまま、夜は明けてしまった。
寝不足で意識が朦朧とするなか、なんとか出社したが、普通に業務をこなすことができる状態ではなかった。頭痛と吐き気が止まらない。目眩もしていた。
「平山ぁ! 心を入れ替えたのは一日だけかコラ」
上司の叱責も、耳に入ってはこなかった。
トイレの便座に座っているとき、不意に激しい眠気に襲われた。
―― 遊ぼうぜ。
確かに、アキヒデの声が聞こえた。瞬く間に眠気は吹き飛んだ。それは幻聴なのか、本物のアキヒデの声なのかは分からないが、二度と聞きたくない声だった。
平山はトイレから這い出るように逃げ出した。
デスクに戻った平山を見て、上司が珍しく優しい声をかける。
「お前、顔が真っ青だぞ。今日はもういいから、早退しろ」
平山は素直に退社した。
電車に揺られ、アパートに戻る途中、彼は眠らないという対策の他にも、もうひとつこの地獄から抜け出すための方法を思いつくのだった。