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  作者: 堀 雄之介
36/50

第36話 悪夢再び

 髪の毛を鷲掴みにされている感覚があった。




―― やめろ。やめてくれ。




 平山は懇願したが、頭を掴む手は離れない。そして、ぐいぐいと持ち上げられてゆく。


 平山は立たされていた。その認識はあったが、目は開かない。恐怖で開けなかった。


 突然、腹を撲られる。みぞおちを抉るように、硬い拳が腹に突き刺さった。


「おい、無視すんなや」


 痛みに堪えながら目を開けると、狼のような男が目の前に立っていた。アキヒデだ。


「なんで?」


 ようやく搾り出しせた言葉だった。


「酒飲んだくらいで、オレが消せるとでも思ったのか? 例え睡眠薬を飲んだとしても、お前を引っ張り出してやるからな」


 狼は笑っていた。


「オレは、ただ遊びたいだけなんだよ。お前を苦しめようとしてる訳じゃない。さあ、今日も遊ぼうぜ」


 平山の住むアパートの壁が消え去り、周囲は密林に変わった。


 いつの間にか、アキヒデと平山は迷彩服を着ている。肩には突撃銃がつり下がっていた。


「この先に小さな村がある。お前とオレで、その村を破壊尽くすんだ」


 平山は先に立って歩かされた。村には直ぐに到着する。


 東南アジアを彷彿とさせる、密林の中の集落だった。20ほどの粗末な小屋があり、女たちは果物を切ったり米を炊いたりして食事の準備をし、子供たちは老人の周りで元気に遊んでいる。男たちは小屋を修理したり、農具の手入れをしている。絵に描いたようなのどかな村。平和で幸せそうな村だった。


「奴らを皆殺しにするんだ。どっちが多く殺せるか、競争しようぜ」


 平山は頭を横に振る。


 夢の中で人を殺したことは、これまでにも何度もしている。しかしそれは、平山を襲ってくる敵という設定だった。無防備な相手を殺したことはない。女子供や老人を殺めるなど、考えたことも無かった。


「俺は、やりたくない」


 そう言った平山の頬に、間髪いれず拳が飛ぶ。


 歯が欠けるほどの衝撃があった。


「やるんだよ」


 抑揚のない声で、アキヒデは命じる。


「俺には、できない」


 平山は泣いていた。


 無表情のまま、アキヒデは銃口を平山に向ける。そして、躊躇することなくフルオートで撃ちまくった。


 無数の弾丸は全て平山の下半身に打ち込まれた。


 密林に銃声が響き渡る。


 足が、削られていった。その一発一発が、気を失うほどの痛みを伴う。右足が吹き飛び、平山は地面に転がった。あまりの痛みに、目を覚ますことができると期待した瞬間には、痛みは消えていた。両足もちゃんと生えている。しかし、痛みの記憶だけは鮮明に刻まれていた。


「俺と、遊ぶよなあ?」


 銃口を向けたまま、アキヒデは問う。


 平山は、頷くことしかできなかった。


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