第35話 改心
会社は休もうかとも考えたが、家にいるのが怖かった。
布団を見るのも恐ろしかった。
平山は普段よりも1時間も早くアパートを出る。勿論、出社前にはシャワーを浴びていた。
毎日始業時間ぎりぎりに出社する平山が、まだ閑散としているオフィスに現れると、他の社員たちは訝しんだ。
終に辞表を持ってきたのか、心を入れ替えたのか、と囁き合う同僚たちの声が聞こえた。
そんな雑音を無視し、平山は一心腐乱に仕事を始めていた。
「午後から雹でも降るんじゃねえのか?」
上司が嫌味を言っても、平山はただ黙々と業務をこなしていた。
「おい平山、もうひと段落ついてんだから、そう根つめなくてもいいぞ。今日はもう帰れ」
午後11時。平山はまだオフィスに残っている。
「あと少し見直ししてから帰ります」
上司は目を見開き、呆れたような、驚いたような顔をしてから帰っていった。
平山は最後の一人となり、日付が変わるまで働き続けた。
終電には間に合った。
もう、歩いて帰ることはないだろう。
いつものコンビニでは、弁当の代わりにウイスキーを買った。
アパートに戻ると、平山はストレートでウイスキーを呷りはじめる。
―― 酔わねば、寝れない。
普段、体外離脱を行うためにしてきた行動と、真逆のことをすることで、通常の眠りを期待した。
脳を眠らすには、アルコールが最も効果的だ。
終いに平山は、ウイスキーを一瓶空にしていた。アルコールは足の先まで回っている。
何度か猛烈な吐き気に襲われたが、平山は耐え抜いた。
そうすることで、アキヒデに勝とうと考えていた。それが単なる逃避であることに、平山は気づいていなかった。
無駄なアガキであるということにも。