第34話 失ったもの
飛び跳ねるように平山は目を覚ました。
先ず、頭を確認する。
―― 潰れていない。大丈夫だ。
夢の中の出来事なのだから、当然といえば当然なのだが、頭部が踏み潰される感覚は鮮明に憶えていた。
こんなことになるとは思っていなかった。島津のように、あっさりと抹殺できるはずだった。
弾けるように平山は振り向いた。今、アキヒデの笑い声が聞こえた気がしたのだ。
―― 気のせいだ。たかが、夢じゃないか。
楽観できるのだろうか。平山は、自分がガタガタと震えていることにすら気づいていなかった。
時計を見ると、朝の4時だった。眠気はすっかり覚めており、もう一度寝ようとは思わない。それどころか、もう二度と眠りにつきたくない、とまで平山は考えていた。
―― 眠ったら、またあいつが出てくるのだろうか。
想像しただけで恐ろしい。
もう二度と、体外離脱などしないと決めた。
これまでも、島津に攻撃されたことは何度もある。しかし、痛みは僅かな感覚としてもたらされただけだった。
アキヒデの攻撃は、実世界とほぼ同じ痛みを伴った。
その後平山は、しばらく布団の上で呆然と夜が明けるのを待った。
暗闇の中、動くことが怖かった。
ようやく日差しが、カーテンの隙間から差し込んできた。
平山は布団から出ることを決意する。
そこで彼は気が付いた。体中、びっしょりと寝汗をかいていることに。
しかし、寝汗にしては濡れ過ぎだった。
彼は失禁していたのだった。




