第33話 総力戦
先陣をきった分身の一人が、アキヒデに撲りかかる。
顎にクリーンヒットしたアキヒデの顔が歪んだ。
―― 島津のように、殺してやる。
平山は勝利を確信した。島津と同様に、分身の攻撃は当たった。
畳み掛けるように次々と分身たちが殴りつける。アキヒデは10人の平山に撲られ、ピンボールの玉のように吹き飛んでいる。
「次は、もっとバランスのいいガイドが来てくれたらいいな。お前のようなただ残虐な奴はお断りだ」
分身たちの環は縮まり、足でアキヒデを踏みつける攻撃に変わっている。
だが、分身の一人が突然宙に浮いた。浮いたというより、空へと弾き飛ばされた形だった。その分身は20メートルほど真上に飛び、その後平山の足元へと落ちてくる。その分身の頭は無くなっていた。
唖然とした平山が次に見た光景は、自らの分身たちが破壊され尽くしている様子だった。腕をもぎ取られ、腹に穴が空き、股から二つに引き裂かれる自分の分身たちがそこにいた。
「なんで……」
平山は続く言葉が出てこなかった。
肉塊となった分身たちの中央に、アキヒデが立っている。
「言わなかったかな? オレは島津のように甘くないってさあ」
平然とした顔で、アキヒデはリーゼント頭を整えている。
平山はその狼を彷彿とさせる顔つきに恐怖した。しかし、すぐさま気を持ち直し、更なる分身たちを創り出す。10人、20人、30人。最後には100人を超える分身を創造した。
「殺せ! 跡形なく殺せ!」
自分の声が恐怖で震えていることに気が付いた。
しかし、100名の分身たちも、末路は同じだった。アキヒデの周りに、肉塊を増やすことしかできなかった。
「何人創っても無駄だな。オレはお前自身の強い心が生み出した産物なんだ。以前の島津とはそこが決定的に違う。強い心。何事にも躊躇しない、残虐で、暴力的で、破壊的な、怒りの感情がオレを生んだんだ。今のお前に、勝てるわけがないだろう」
アキヒデは歩いて近づいてくる。平山は堪らず、空を飛んで逃げ出そうとした。
しかし、髪の毛を鷲掴みにされ、平山は地面に叩きつけられる。
「もう、逃げることもできねえぞ」
アキヒデは、地面に落ちた平山の頭を踏みつけて言った。
頭蓋骨を軋ますほどの圧力が、平山の頭部にかけられる。痛みはリアルだった。平山は、声も出ない叫び声を上げる。
「今日はこれで返してやる。また、明日遊ぼうな?」
頭部への圧力は、更に高まった。もう、頭が潰れてしまうと感じた瞬間、ようやくホワイトアウトが訪れた。