第31話 乱獲
アキヒデは巧みなハンドル操作で、サバンナの大地をジープで駆ける。乾いた風が心地良かったが、平山は脂汗を浮かべていた。
「どうした? 顔色が悪いぞ。まさか夢の中で車酔いなんてしないだろ」
いつの間にか、アキヒデは大きなサングラスをかけていた。その鏡面状のレンズに、平山の青白い顔が映っている。
「さあ獲物が見えたぞ」
アキヒデが指差す先には、ガゼルの群れが見えた。ジープの爆音に驚き、群れは一斉に走り出している。
「さあ撃て撃て! 遠慮することはない。密猟監視員なんていないぞ」
既にライフルを肩に構え、アキヒデは撃ちまくっていた。飛び跳ねて逃げるガゼルが、次々にはじけ飛んでいる。その間、ハンドルに手はかけられていない。それでも群れの動きに合わせて、ジープは曲がってゆく。アクセルも自動で踏み込まれていた。
平山もようやくライフルを構え、一匹のガゼルを仕留めた。
「どうだ。爽快だろ?」
笑い続けているアキヒデの問いに、平山は曖昧に頷いた。
「おお、次は水牛の群れだ。デカイ方がヤリガイがある」
ジープは直角に曲がり、水牛の黒い群れに向かい走る。
二人は次々に水牛を撃ち殺した。
続いて、シマウマ、サイ、ハイエナ、キリンと、獲物を求めて走り続けた。
「ようやく本命の登場だ」
ニヤリと笑うアキヒデの視線の先に、象の群れがいた。
「お前、あんまり撃ってないな。この獲物はお前に全部ヤラセテやるよ」
アキヒデはライフルを後部座席に放り投げ、運転に集中するようだ。運転など、必要もないのだが。
「俺、なんかもう疲れたな」
平山の言葉は聞こえなかったようだ。アキヒデは無言で象の群れへと走っている。
仕方なく、平山は一番大きな象に照準を合わせた。一発で仕留めようと、脳天を狙う。
弾は当たった。象の頭が半分吹き飛ぶ。実際のライフルよりも、はるかに大きな威力を持った銃だった。それは、平山の心の動き反応しているようだ。
「どうした? 続けてもっと撃てよ」
アキヒデに促され、平山は打ち続けた。
象の悲痛な叫びが、サバンナに響き渡る。
一発では死なない象には、二発、三発と撃ちこまねばならない。平山は苦痛を感じていた。
そして群れは全滅した。最後に一匹の小象を残して。
残された小象は、母親と思われる大きな象の尻尾を、然程長くない鼻で持ち上げていた。持ち上げては落ちる。それでもまた持ち上げる。それを繰り返している。
「最後のあのチビもやっちまえよ」
アキヒデは、命じる口調でそう言った。