第30話 歪み
日曜日も平山は、昼から寝ることで体外離脱を行っていた。実際には、眠った瞬間にアキヒデに引っ張り出されるのだったが、それは平山が望むことでもあった。
「今日は何するよ。なんかしたいことはないのか?」
「今回も特に考えてはいないよ。お任せで頼む」
既に平山は、アキヒデのことを親友という認識を持ち始めている。
これまでの平山の人生において、ここまで親密な関係となった同性はいなかった。いっしょに居て楽しいし、何よりも信頼できるのだ。
「じゃあ、今日は狩に行こう」
「狩り? 何を狩るんだ?」
「まず初めは、定番のウサギ狩りからはじめるか」
欧州のどこかの国では、狩りは貴族のスポーツであると平山は記憶していた。様々な快楽を極めた貴族たちが行き着いた行楽には興味もあった。
深い森を前に、平山とアキヒデはライフル銃を構えて立っている。
「もうじき、犬達がウサギを追って現れるぞ」
既にライフルを構えているアキヒデが、興奮を抑えられない様子で言った。
彼の言葉通り、犬達に追われた十数羽のウサギが森から飛び出してきた。
アキヒデが続けざまにライフルを放つ。その澄んだ銃声の数と同じだけのウサギが跳ねた。
平山もそれを真似て、一羽のウサギに照準を合わせる。そして、引き金を絞った。
灰色のウサギは頭を反らせて地面に転がっていた。
「初めてにしては上手いじゃないか。そうか、銃は何度もぶっ放してんだな」
アキヒデは笑いながら平山を褒める。確かに町を破壊したり、銃を撃ち捲くったりしたことはこれまで何度もあった。しかし、明確に生き物を殺すために撃ったことは殆どない。あの島津に対して放った銃弾も、内心では効き目が無いことを理解したうえでの発砲であった。
「なんか、あんまり面白くねえな」
灰色のウサギの胸には、大きな穴が空いていた。内臓も飛び散っている。これまで平山は多くの生き物を、この夢の世界において殺している。しかしそれらは全て、人形のような、ぬいぐるみのような、つまりは全て作り物のような存在だった。殺しても、血や内臓は殆ど目に入らないか、存在しなかったのだ。しかし、今平山が撃ち殺したウサギは、現実世界のものと殆ど変わらぬほどの生々しさが感じられた。
「そうか。ウサギなんかじゃ、やっぱり物足りねえよな」
アキヒデの言葉と同時に、舞台は変わっていた。アフリカの草原に、二人は立っていた。側には、オープンスタイルのジープが停まっている。
「さあ乗れよ。今後は象や犀をぶっ殺そうぜ。あいつらはタフだから、一発や二発ではしとめられんぞ。急所と狙わなきゃなあ」
アキヒデは高らかに笑っている。運転席に乗り、助手席のドアを開けて、平山を促していた。
あまり気乗りはしなかったが、平山はそのジープに乗った。どうせなら、運転席に座りたいと、平山は願っていた。




