第25話 餓狼
―― やった。ついにやった。
島津であった肉片がなくなると、平山は達成感に包まれる。どのような手段を用いても消すことができなかった存在を、ついに処分することができたのだ。
これで、平山を邪魔する存在はなくなった。この夢の世界は、名実共にようやく平山のものとなったのだ。
平山は哄笑した。地面を這いずり回り、腹を抱えて笑った。気が狂ったように笑っているうちに、彼の分身たちは消えていた。
笑い疲れた平山は、本来の目的を果たすべく立ち上がる。
―― さて、なにからしてやろうか。
平山はその後、記憶上に残る出会ったことのある女たちを犯し、腹を立てたことのある男たちを殺し、良い思い出のない建物を壊しまくった。
しかし、彼は一抹の物足りなさを感じていた。好き勝手やっているのに、どこか後ろ暗い気持ちを抱いてしまう。そして彼は気付いた。島津という存在は確かに気に入らないものだったが、彼がいたからこそ、この夢の世界の中にもメリハリができていた。ボタンを押していればクリアできてしまうゲームなど、何一つ面白くは無い。この夢の世界にも、島津という超えられない壁があったからこそ、自分は楽しめていたという部分がある。平山はそれを認めた。
―― あいつが言っていた、上位世界ってのにも、ちょっとは興味でてきたな。
そう考えながら、平山は空を見上げる。そこに、見慣れた柄のスーツ姿の男が浮いている。
「島津か? お前、やっぱり生きていたのか?」
怒りと後悔、喜びと無念さという複雑な心境から、平山は怒鳴っていた。
「オレは、島津じゃない」
スーツ姿の男は、ゆっくりと平山の目の前に降りてきた。
「オレの名はアキヒデ。お前が島津を殺しちまったから、オレが代わりのガイドとなった。よろしくな」
平山はその顔を知っていた。リーゼント風に立ち上げられた髪の毛。狼のような顔立ち。いつかの夢で見た男だった。
「お前が、島津の代わりをするのか?」
「そうだ、不満か」
「ああ、俺にはガイドなんて必要ない。お前も消えろ。じゃなきゃ、島津みたいに殺すぞ」
「俺は島津のように甘くはないぞ」
狼のような男アキヒデは、歯をむき出して笑っていた。