第24話 成就
5人の平山が暴れ周り、町の姿はほぼ消滅していた。燃えかけの、崩れかけの廃墟だけが残されている。
平山は待っていた。ただその壊された町の中心で、ひたすらに待っていた。
「やあやあ、今日も荒れているねえ。しかも、変わった遊びをしてるじゃないか」
島津が現れた。昨日地球ごと平山を殺そうとしたにも関わらず、軽い口調である。
「<創造>も自由自在になってるね。君は飲み込みが早い。しかし空想力には問題があるな。自分を5人も創り出して、何が面白いのかね。理解に苦しむな。何かを壊すにしても、自分自身でやったほうが楽しいだろうに」
平山はガイドに真正面に向かい合う。
「島津。お前は以前、俺が創り出した失敗作を恐れた。違うか?」
島津の顔色が僅かに変わったのを、平山は見逃さなかった。
「恐れる? 恐れるって、この僕がかい? 何を馬鹿なことを」
明らかに動揺していると、平山は判断する。
「お前は恐れた。俺が創ったものを恐れたんだ。なぜなら、お前自身が、俺が創りだしたものだから。俺が創りだしたものは、同じく俺が創り出したものならば、破壊することができる。なんでかなんて理論的なことは分からねえけど、俺はそう、確信した」
平山の周りに、平山の分身である5人が集まっていた。
「息子たちよ。島津をコロセ」
5人の平山は島津を囲い込む。それと同時に、島津は空へと飛んだ。しかし、島津の体は上空で叩き落され、5人の平山の中心に落ちた。なんとか無様な不時着は免れていたが、島津の顔には焦りがはっきりと見える。
「5人だけじゃなかったのか」
島津の視線の先には、更に5人の平山が上空に浮んでいた。
10人の平山の分身が、じりじりとその距離を縮めていた。
「どうした島津。いつもの余裕はどこへいった。なあ、どうしたんだよ島津さんよお?」
平山は可笑しくてたまらない。自分の予想したとおり、物事が運んでいることが、可笑しくてたまらなかった。
「君は考え違いをひとつしているぞ。僕は、君が創造した存在じゃあない。君自身なんだよ。君の一部が、この僕『島津』という形となって、君の前に現れているに過ぎないんだ。その僕を消し去ると、君にとっていいことなんてひとつもないんだぞ」
「いつになく多弁じゃないか島津さんよぉ。もうどうでもいいんだよ。俺はただ、お前が気に入らねえだけだ」
特に口に出して指示することは必要なかった。平山が念じるだけで、10人の息子たちは一斉に攻撃を開始する。
武器もなく、兵器もなく、魔術的な力もなかった。ただ平山たちは、ひとりの島津を殴り、蹴る。5人が攻撃し、残りの5人は逃亡を阻止した。島津は顔の形が分からなくなるほど殴られ続け、次第に頭の形すらも判断できなくなってゆく。
「大変な、ことに、ナルゾ」
口とも喉とも見えない穴から、最後の言葉が囁かれた。平山は、攻撃することを止めることはなかった。
終に、島津は肉片へと姿を変えた。30センチ四方の四角い肉片。最後に平山は10人の息子へと命じる。
「喰ってしまえ」
三日間餌をもらってなかった犬のように、10人の島津は我先にと肉片に食らいつく。数分も経たぬ間に、肉片は姿を消していた。