第22話 寝汗
平山は現実世界へと目覚める。時刻は午前2時。
びっしょりと全身に汗をかいている。
腕には、巨大な太陽に焦がされた感覚が残っていた。
しかし、痛みそのものは殆ど感じていない。
恐怖はあったが、それは遊園地のアトラクションで得られるスリルと同じ種類のものであった。
夢で殺されるわけはない。
ただその日は、もう疲れきっていた。もう体外離脱は諦め、平山はどうやったらあの島津を亡き者にできるかを考えながら、普通の眠りについた。
普通の眠りにつき、普通の夢を見た。
夢を夢だと認識する明晰夢でもない。ただ普通の夢だった。
平山はその夢の中で、ひとりの男と会っていた。
若い男だった。リーゼント風に固めたが特徴的で、大きく鋭い目を持っている。どこか、狼を彷彿とさせる風貌だった。男は平山に語りかける。
「どんな派手な攻撃も無駄だ」
―― 無駄?
「そう、無駄だ。あいつはおまえとは同じフィールドに立っていない。お前がリングの中で殴りあうボクサーだとすると、あいつは会場に見に来ている観客だ。お前がどんなハードパンチャーでも、あいつにはそのパンチがとどかねえのさ」
―― じゃあ、どうしたらあいつに勝てるんだ?
「そんなのは簡単だ。周りの客に、そいつを殴らせればいいのさ」
―― 周りの客? 意味が分からないよ。
「あいつは結局、お前が創り出した存在なんだよ。お前の一部だとも言って良い。だから、……あとはわかるよな」
―― 俺の、一部。俺が創り出した、一部……。
平山は目覚めた。カーテンの隙間から光が漏れている。
また、寝汗をかいていた。