第21話 太陽
光が消えると、空を覆っていた黒雲も暴風も同時に霧散した。
空中には、ただ黒い塊が浮いている。人の形をした塊だ。
平山は期待しながら、その黒い塊を見つめる。
島津はこの世界同様、自分自身の産物だ。自分が産んだものを、自分自身が破壊できないわけがない。そう信じていた。
ポロポロと、黒い物体から燃えカスが落ちてゆく。
そして、全く無傷の島津が現れた。そのスーツには、焦げ痕ひとつついていない。
平山は絶望した。
「何度言っても理解しない君には、少し灸をすえたほうがいいのかもね」
そう言うと、島津は平山よりも高い位置まで飛んだ。
「アレが見えるかい?」
島津が指差す先には、煌々と輝く太陽が見える。
そのとき、平山は全身に圧し掛かる強烈な重力を感じた。何とか浮力は保っているが、それ以上動くことができない。
重力は更に重くなる。じりじりと下降し、海面すれすれまで平山は落ちた。
島津が指差す太陽は、巨大化している。普段の十倍ほどの大きさになり、その分光も強くなっていた。
太陽は益々大きくなる。
―― 成長している?
違った。地球が、太陽に近づいているのだった。
太陽は既に天球の半分を占めるほどにまで大きくなった。
目を開けていられない。
大きさに伴い、気温も急速に上昇している。平山は、皮膚が焼け焦げる臭いすら嗅いだ。
地上は灼熱の地獄と化している。海面が沸騰し、猛烈な湯気をあげていた。
平山は自分の周辺に結界を張り、なんとか身を守ろうと試みたが、全く効果はなかった。
海は終に干上がった。ひび割れた大地が広がる。
空一杯に太陽があった。僅かに開く平山の目に、プロミネンスが飛び狂う姿が映る。
そして、地球そのものが太陽に飲まれた。