第20話 風雷
平山は船が沈む前に空へと飛び立った。島津も続いて飛ぶ。
二人は空中で睨み合う形となった。眼下では巨大な客船が海の藻屑と化している。
平山は素早く移動を始めた。蝿のように、島津の周りを弧を描いて飛んだ。残像すら目に止まらぬスピードだ。
島津は顔色ひとつ変えることなく、ただ空中に浮いている。
その無防備な背中を目掛け、平山は飛ぶ。ドロップキックを食らわすつもりだった。
どうせすり抜けるか、あっさりとかわされるのだろうと、平山は覚悟していたが、その蹴りは見事に命中する。
音速の速さで島津の体は海面へと叩きつけられた。
―― 今日は倒せるのか。
半信半疑で海面を見つめていると、ずぶ濡れとなった島津がゆっくりと浮上してきた。
「ちょっとは当たってやったほうが、君も気を悪くするんじゃないかと思ってさ」
島津の顔は依然平然としてた。全くダメージは与えていないようだ。
からかわれていることに気づいた平山は、怒りと殺意を高めていた。
平山は召喚するために、両手を大きく開いた。それまで快晴であった空に、黒い雲が出現する。あっというまに空は雨雲に覆われ、日の光は遮られた。海も時化り、高い波が立っている。
強い風が吹き荒れ、それが二つの竜巻を作り出す。海面から雲まで続く、巨大な竜巻だ。
竜巻は平山の指示どおり、島津へと向かってゆく。左右から、挟みこむ形だった。その二匹の巨大な竜に、島津の体は飲み込まれる。木の葉の如く上に舞い上げられ、次の瞬間には急速に下降している島津の体がうっすらと見えた。
平山は更に掌を広げ、暗黒の空に向かい念じる。
視界一杯に広がる雨雲が、一斉に唸り始めた。そして空一面が激しく輝く。何千もの雷光が閃き、それが全て矢の如く竜巻に囚われた島津のもとへ突き刺さった。
世界は光に包まれる弾けた。