第18話 上位世界
その晩、平山は暴れまわった。
無限に弾の出るRPGを2本担ぎ東京の街を焦土と化した後、体長5メートルの巨人となって米軍とニューヨークで戦い、戦国時代に飛び武田軍として長篠の戦いで1人織田軍へと切り込み信長の首を獲り、最後は日露戦争に介入しバルチック艦隊を素手で次から次へと放り投げて遊んだ。
流石に息を切らした平山は、クイーンエリザベス号を貸切にし、船上プールの側でジュースを飲んで休んでいた。
「今日は一段と荒れてるねえ。なにか嫌なことでもあったのかい?」
案の定島津が現れた。
「毎日嫌なことだらけだ。お前の存在も含めてな」
「そんなに嫌うなって。僕だって言ってみりゃ、君の一部なんだよ」
この世界は全て平山が作り出したものなのだから、島津の言葉は正しいものだった。
「なあ、用事がないんだったら、さっさと消えろよ。お前見てると何故か苛々すんだって」
「そう邪険にすんなよ。もっと面白いこと教えてあげようと思ってたのに」
その言葉でようやく平山は興味を持った。
「もっと、面白いこと?」
「そうだよ。今みたいに好き勝手暴れるのも面白いだろうけど、それは直に飽きがくるよ。だって君に敵う相手なんていないんだから。この僕を除いてね」
「で、面白いことってなんだよ」
「より上位の世界さ」
島津は空を指差して言った。
「上位の世界?」
「そう。今の世界は夢の世界の中でも最下層。ピラミッドの最底辺と言えるんだ。上位に行けば、別の喜びが待っているよ」
「具体的に、どんな楽しいことがあんだよ」
「そうだな、例えるならば、魂の開放とでも言えるかな。上位に行けば行くほど、性欲や破壊欲求なんてものはなくなっていく。穏やかな、本当に楽しいことができるんだよ」
途端、平山は島津の話に興味を失った。
「そんなら別にいらねえや。今の状況で俺満足してるし」
平山はハエでも追い払うかのように、島津に向かい手を振った。
「勘違いしてるよ君は。行ってみないと、そこがどれだけ素晴らしい世界か分からないじゃないか。僕はガイドとして、君を上位へと導く役割を持ってるんだ。一度でいいから行こうじゃないか」
珍しく、島津は食い下がっていた。