第14話 浴槽の女たち
広い湯船で、平山はぷかぷかと浮いている。
温くも無く、熱過ぎることも無く、ただただ心地よい湯加減だ。
しかし、リラックスのし過ぎは禁物だった。あまりの心地よさに身を委ねると、頭が寝てしまう。せっかくこの夢の世界に来れたのだから、限りある時間を有効に使わねばもったいない。
「お背中ながしましょう」
充満する湯気の中から、美しい裸の女たちが現れた。
4人の女たちは、何れもテレビや雑誌で見かけたことのあるタレントだった。あまりタレントなどに興味を持たない平山でも、名前を知っている者ばかりだった。
平山は胸が大きいことが売りとなっているグラビアアイドルに膝枕をさせ、残りの3人には全身のマッサージをさせた。女達は嫌な顔ひとつせず、平山の命令に従順に従う。
どの女からやってやろうか、と平山が卑猥な企みをしているときだった。またあの男が現れる。
「今日もお楽しみだね」
島津がいつものスーツ姿で現れた。その場の雰囲気に合わせた格好などをする気はないようだ。
「まだ<召喚>や<創造>の方法については、教えてなかったよね。それなのに、こんな美女たちに囲まれるなって、君はついてるなあ」
腕をマッサージしていたショートカットのCMタレントを払いのけ、平山は島津への視界を確保して叫ぶ。
「面倒くさいこと言ってないで、さっさと全てのやり方を教えたらいいじゃねえか。俺はもう、お前とは会いたくないんだよ」
「僕と会わなくなりたいってのは無理だ。なにしろ僕はガイドだからね。見知らぬ国に行くには、ガイドが必要だろ。それが『人』の形をしていなくとも。そう、外国へ行くときの辞書のようなものだってね」
「じゃあ、また後で出て来いよ。今は忙しいんだ」
「そうみたいだね。頃合を見計らって、また現れるさ」
島津は再び湯気のように消えた。
あの男の顔は、一分一秒たりとも見ていたくはなかった。何故か、平山を苛立たせ、不快にさせる。いつも怒っている平山であるが、島津の存在は普段以上の怒りを伴った。
そんな苛立ちを消し去るため、平山は4人の女たちへと次々に襲い掛かるのだった。