第13話 深夜の電話
程よく酔っていた平山は、アパートへ帰るとネクタイを解いただけで布団へと転がり眠り込んだ。
酔った日には体外離脱は出来難い。今晩はもう諦めていた。いや、諦めようという意識すらなく入眠していた。
真っ暗な世界で、平山は眠り続けた。
音が聞こえる。うるさかった。平山は無視する。
また音が聞こえる。
平山はなんとか目を開けた。
床に転がっている彼の携帯電話が鳴っていた。
唸りながら、平山は電話に出た。
「おお平山か。真夜中に悪いな」
電話は先ほど別れた御木からだった。
「なんすか?」
擦れた声で平山は応答する。デジタル時計を見ると、AM03:16の表示が光っている。
「いやさ、できたんだよ体外離脱。さっき俺できたんだって。すげえなこりゃ」
電話の向こうで、御木は興奮していた。
「普通に寝てたらさ、金縛りにあったんだよ。そんでお前に言われたとおり転がったらさ、体から抜け出ちまったんだよ。向こう行ってたのは短い時間だったけどさ、ホントリアルだったわ」
「そうすか。良かったすね」
「すまんな。嬉しくてさ、真っ先にお前に知らせたくて。おもろいこと教えてくれてサンキューな」
電話は一方的に切れた。
意識を完全に覚醒させる前に、平山は再び布団に寝転がる。
二度寝も離脱のチャンスだった。薄れ行く意識のなかで、平山は僅かに期待していた。
やがて、体が震えはじめる。振動は次第に大きなものになってきた。金縛りの前兆だ。
平山は意識の中で転がった。