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  作者: 堀 雄之介
12/50

第12話 告白

「俺、体外離脱ができるんですよ」

 平山は直球で言葉を投げていた。御木ならば、彼の言葉を受け止めてくれると信じていたからだ。

「たいがい、なんだって?」

「体外離脱す。体から抜け出るんですよ」

 メザシの頭をしゃぶりつつ、御木はこれ以上ないというほど困惑した顔をしている。


「なにそれ?」


「それじゃあ、幽体離脱て言えば分かりますか?」


「はいはい、幽体離脱ね。あの、臨死体験したひとがなるってやつだろ。三途の川が見えて、死んだおばあちゃんがまだこっち来るなとかいうやつか。それで、お前死にかけたわけ?」


「違いますよ。幽体離脱っていったら誤解されると思って、体外離脱だってはじめ言ったんです。死にかけなくても、体から出れるんですよ」


 ケチャップで真っ赤に染まったフライドポテトを口に運びつつ、平山は続ける。


「言っときますけど、体外離脱っていっても、魂が肉体から抜け出るってことじゃあないですよ。あくまで頭の中でおきる現象なんです。どう説明したらいいかな。そうだ、御木さん明晰夢って見たことありません?」


「メイセキム?」


「そうです、夢を見ているときに、それが夢の中の出来事だって把握して見る夢のことです」


「ああ、それなら何度か見たことあるで。伊藤美咲とやったことあるし。案の定、起きたとき夢精してたわ」


 御木は笑いながらメザシをビールで流し込む。


「そんで、そのメイセキムがどうつながるのさ」


「体外離脱は、その明晰夢を意図的に見れる手段のひとつなんです。いや違うな、明晰夢から一歩進んだ、覚醒度合いの高い夢を見る手段っていったらいいかな」


「なんかお前、変な宗教でもはじめたんか?」


「宗教とかじゃないですよ。なんでも人間の10人に1人は、人生で一回は体外離脱を経験するそうですよ。御木さん明晰夢はみたことあるでしょ。そのとき、なんでも自由にできたでしょ? だって夢なんですもの。俺はその明晰夢を、自由に見ることができるんです」


 新しいメザシに食いつきながら、酔った頭で御木はいまの話を咀嚼していた。


「それって、なんだかよくわからんけど、すごそうだな」


「そうですよ。すごいことなんです」


 その後1時間ほど、平山は体外離脱の方法について熱弁した。隣の席に座っていたカップルが、不審気な顔をして二人の話を伺っていたが、平山は気づくこともなく説明していた。


「へえ、俺もできんのかな、その体外離脱ってやつ」


「大切なのはモチベーションと準備です。誰でもできる可能性はありますよ」


 結局その場は、平山の体外離脱講習会となっていた。


「じゃあ俺も挑戦してみるわ。また聞きたいことあったら電話すんな。あと、相談事ならいつでも聞くから、お前も電話してこいよ」


 御木は最後まで、平山を馬鹿にすることはなかった。飲み代を全て払ってから、笑顔で手を振って駅へと去っていった。


 久々に現実世界で充実した時間を過ごした平山は、今日だけはゆっくりとした足取りで家路につくのだった。


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