第12話 告白
「俺、体外離脱ができるんですよ」
平山は直球で言葉を投げていた。御木ならば、彼の言葉を受け止めてくれると信じていたからだ。
「たいがい、なんだって?」
「体外離脱す。体から抜け出るんですよ」
メザシの頭をしゃぶりつつ、御木はこれ以上ないというほど困惑した顔をしている。
「なにそれ?」
「それじゃあ、幽体離脱て言えば分かりますか?」
「はいはい、幽体離脱ね。あの、臨死体験したひとがなるってやつだろ。三途の川が見えて、死んだおばあちゃんがまだこっち来るなとかいうやつか。それで、お前死にかけたわけ?」
「違いますよ。幽体離脱っていったら誤解されると思って、体外離脱だってはじめ言ったんです。死にかけなくても、体から出れるんですよ」
ケチャップで真っ赤に染まったフライドポテトを口に運びつつ、平山は続ける。
「言っときますけど、体外離脱っていっても、魂が肉体から抜け出るってことじゃあないですよ。あくまで頭の中でおきる現象なんです。どう説明したらいいかな。そうだ、御木さん明晰夢って見たことありません?」
「メイセキム?」
「そうです、夢を見ているときに、それが夢の中の出来事だって把握して見る夢のことです」
「ああ、それなら何度か見たことあるで。伊藤美咲とやったことあるし。案の定、起きたとき夢精してたわ」
御木は笑いながらメザシをビールで流し込む。
「そんで、そのメイセキムがどうつながるのさ」
「体外離脱は、その明晰夢を意図的に見れる手段のひとつなんです。いや違うな、明晰夢から一歩進んだ、覚醒度合いの高い夢を見る手段っていったらいいかな」
「なんかお前、変な宗教でもはじめたんか?」
「宗教とかじゃないですよ。なんでも人間の10人に1人は、人生で一回は体外離脱を経験するそうですよ。御木さん明晰夢はみたことあるでしょ。そのとき、なんでも自由にできたでしょ? だって夢なんですもの。俺はその明晰夢を、自由に見ることができるんです」
新しいメザシに食いつきながら、酔った頭で御木はいまの話を咀嚼していた。
「それって、なんだかよくわからんけど、すごそうだな」
「そうですよ。すごいことなんです」
その後1時間ほど、平山は体外離脱の方法について熱弁した。隣の席に座っていたカップルが、不審気な顔をして二人の話を伺っていたが、平山は気づくこともなく説明していた。
「へえ、俺もできんのかな、その体外離脱ってやつ」
「大切なのはモチベーションと準備です。誰でもできる可能性はありますよ」
結局その場は、平山の体外離脱講習会となっていた。
「じゃあ俺も挑戦してみるわ。また聞きたいことあったら電話すんな。あと、相談事ならいつでも聞くから、お前も電話してこいよ」
御木は最後まで、平山を馬鹿にすることはなかった。飲み代を全て払ってから、笑顔で手を振って駅へと去っていった。
久々に現実世界で充実した時間を過ごした平山は、今日だけはゆっくりとした足取りで家路につくのだった。