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自分が自分であることの証明ってどうすれば出来るんですか?

僕はある日、交通事故で記憶を失った。

目が覚めたら知らない人がいて、病院だということは分かったけれど、それもやっぱり知らない場所で。

父だという男の人と母だという女の人。

そして親友だという男の子と友達だという女の子3人と医者であろう男と看護師であろう女の人。

そして次の疑問に移る。

僕は...一体誰なのだろう。

これが僕の記憶のスタートである。





藍原蓮(あいはられん)は高校1年生。

こう名乗って入るけれど、実際この名前に実感はない。

僕は高校に入る前の春休みに記憶を無くし、以前の記憶がまるで残っていないからだ。

だけど、確かにそれ以前の僕は藍原蓮だった訳で、でも今の僕はそれとは違う誰か。

考えれば考えるほど自分が分からなくなるので今は考えるのをやめている。


「よっ、蓮!」


今話しかけてきたのは僕の親友だったらしい桂木透かつらぎとおる君。幼稚園からの縁らしい。お調子者で昔から人気者だったと家にあった日記に書いてあった。


「おはよう、透君」


「おいおい、君付けはいいって言っただろー?」


「あはは、まだ慣れなくてさ...」


まぁ慣れたらでいいけどなーと言ってくれる透君。

優しい友達だ。


「透ーーー!!!」


「おい!あんまり外で名前を大声で呼ぶなって言っただろ!?」


「ごめーん。透見つけたら我慢出来なくなっちゃってー。

あ、藍原君おはよー。」


「おはよう。高木さん。」


透君の彼女である高木華恋たかぎかれんさん。まぁ見ての通り透君にゾッコンのようだ。幸せそうで何より。


「蓮ーおはよー。」「おはようございます。藍原君。」


次に話しかけてきたのは鈴科唯すずしなゆいさん。透君と同じく幼稚園からの仲らしい。元気で活発な子だそうだ。

その隣にいるのは二宮麗華にのみやれいかさん。

中学から遊び始めたらしい。お嬢様みたいで大人しくて気も回る。そう日記に書いてあった。それと、

俺の...好きな人だと。


だけど僕には分からなかった。正直、好きという感情もよく分からない。

ただ言えるのは、俺と僕は違うという事だ。

だけど紛れもなく僕の体は藍原蓮、即ち日記の俺なわけで。

だからこそ僕はこの名前に実感が持てないのかも知れない。


「おはよう。鈴科さん。二宮さん。」


僕はよくこの5人で遊んでいたと書いてあった。

日記には鈴科さんの事を唯と書いてあったり透君に言われた通り透と書いてあったりもしたけど、そう呼ぶのに気が引けるのはやはり自分という実感がわかないからだろうか?


「蓮ー。今日さ、帰りにゲーセンでも寄ってこうぜ。華恋も塾でいないからさ。」


「いいよ。行こっか。」


「あ、私も行きたーい!」「私も行ってもよろしいですか?」


「もちろんもちろん!蓮もいいよなー?」


「大丈夫だよ。」


「よし!決まりね!」


こうして仲良く喋っている様に見えても僕だけは弾かれている。そんな気がしてならないのだ。もちろんみんなにそんな気は無いのはわかっている。だけど、みんなが僕を藍原蓮と認識する度に、僕は、自分が誰だかわからなくなる。だってこの言葉は全て、藍原蓮に向けられた言葉で...僕に向けられた言葉ではないのだから。



「さぁ、何して遊ぶー?」


「んー、何しようか。」


と、みんなが話している中、僕は初めて来たゲームセンターに興味津々だった。

もちろんゲームセンターという場所は知っていたが実際に来てみるのは初めてだ。


みんなで1通り色々遊んだ後、僕は1人座って休憩をしていた。

入院生活が長かったのもあり、体力があまり無いらしい。

座りながら、ただ呆然と3人を見ていた。

見ているとその輪に自分が入れているのか不安になってくる。


「どうしたの?ボーッとして。」


「え、あ、いやその...」


急に鈴科さんがこっちに来て話しかけられた。ボーッとしていた僕は不意をつかれて返事にどもってしまった。


「というか、2人は?」


「太鼓叩いてるよー。それでどうしたの?悩みがあるなら言ってみなさいって!」


是非とも相談したいところだ。けど、こんなこと相談されても逆に困ってしまうだろう。よし、ちゃんと大丈夫って言おう。


「僕ってちゃんと輪に入れてるのかな...って。」


と、思ったら悩みすぎていたからなのかすんなりと言葉が出てきてしまった。

話すつもりなんてなかったのに。


「何言ってんのー?そんなの当然じゃん!」


さも当たり前のように微笑みながら言ってくれる。でも違うんだ。


「受け入れられてるのは藍原蓮だからだよ。僕は記憶を失って...みんなが思ってる藍原蓮じゃないんだよ。」


僕は俯きながらとんでもないことを話してしまった。こんなめんどくさいことを言ってたら僕とは関わらなくなっちゃうかな...。

僕がそんなことを考えていると

うーん。と考えながら鈴科さんは僕の隣に座った。


「それってそこまで重要かな?」


「え...?」


そこから飛び出た答えは僕の想像としているものとはまるで違った。


「だって、記憶を失っても蓮は蓮でしょ?

そりゃ実感はないかもだけど、それでも私達にとっちゃ蓮は蓮なんだよ。例え記憶を失っていても失う前の蓮を私はちゃんと覚えてるし、記憶を失ってからの蓮も私はちゃんと見てきたよ?

ちょっとした仕草とか変わってなくて、あぁ蓮なんだなって。

君は藍原蓮。実感できなかったとしてもみんなに受け入れられてる。仮にみんなが無理だったとしても私は絶対に受け入れるから。安心していいよ?」


優しい笑顔でそう言ってくれた彼女の笑顔は、きっと僕の記憶にずっと残り続けるだろう。何か僕の感情が揺れ動いた気がした。

この感情はなんなんだろう...。

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