七話 「アーチャー」
さて、かくかくしかじかあってジャンと合流出来た俺たちはある問題を前にしていた。
「えーっと…ギルド迷子でいいのかな?」
「だーかーらーっ!迷子じゃないッスよぉ!」
見た目は普通の狩人、
恐らく職業も『アーチャー』辺りなんだろうな。
俺たちは今この少女に困らされていた。
「うーん、じゃあなんなんだよ!」
「だーから!ギルド探しなんですってば!」
「お前最初『私のギルド知りませんか~?』っていってたじゃねえか!」
こうして先ほどからジャンと討論になっている、
どうやら迷子のようなんだが…
あれは数分前のことだった…
俺たちはラクスラズルで落ち合ったついでに、
そこらへんをウロウロと散歩していた。
すると
「おーい!そ・こ・の・おにいさーん!」
「おっ!いい女の子じゃないか!なんのようだ!?」
話しかけられて第一声が「いい女の子」かよ…
さすがだな。
「えっとねぇ…私のギルドわかる~?」
「なんて名前だ?」
「わかんないっス!」
「は?」
通常、ギルドを作成するときにはまず名前を決めなくてはならない、
故に名前が不明というのはおかしいのだ。
「もしかしてお前、ギルマスじゃなくてただのメンバーか?」
「いいや、ギルマスっスよ~」
「じゃあそのくらいわかんだろ!」
「わかんないッス~」
「だあああああもう!」
…とこんな感じで巻き込まれてしまったのだ。
「あ、言い間違えた!」
「あ?」
「これからギルドにするんだった!」
「あぁ!?まだ作っていなかったのか!?じゃあわかるわけねえだろ!」
「そーうじゃー、なーくて!」
そうじゃない?
「強そうなギルドを倒して乗っ取るんすよ!それでギルマス!」
「は?」
乗っ取る…?
「おいおい、もしかしてお前PK好きか?」
「まぁ、そうっスね~一度も負けたことないっス」
PK「プレイヤーキル」・「プレイヤーキラー」
意味はそのまま、他のプレイヤーを倒して経験値やアイテムを奪おうって魂胆のことだ、
まあ、最近のゲームじゃああまり儲からないから絶滅したと思っていたが…
「そんで?」
「お手頃なギルドあったら教えてくださいよ~」
「嫌だ」
「え~」
そりゃあ、他のギルドを売ったときたら恨まれるだろうし、
MMOだ、誰が聞いているかわかったもんじゃない。
「じゃあ、賭けPKでどうっすか?」
「つまり?」
「そこのサムライのお兄さんと私でPKッス」
「うーん、どうだセト?」
ハァ…さっき戦ったばかりなのに…
「わかった、受けよう」
「やったー!」
「ただし、俺が勝ったらもうPKなんてやめろ」
「私が勝ったら獲物くださいッス~」
「了解。」
そして数歩距離を取り、
ジャンが真ん中に立つ。審判だ
「そんじゃ、位置について…よーい、ドンッ!」
勢いよく手が上がるとともに、
腰のカタナを引き抜く!
「ハァァアアアッ!!」
瞬間、頭上に無数の弓が飛んでくる、
そして全て刺さる。
「やった!」
ハァ…わかっちゃいないなぁ~
「え?」
「何にもわかっちゃいない。」
体には矢が一本も刺さっていないセトが姿を現す、
そして消える。
「…っ!?どこに!?」
真後ろ、正面、様々な場所に姿を現す。
「へ、へぇ…チートな技持ってんじゃん…!」
少女はそう呟きながら背中の筒から矢を一気に十本ほど取り出して構えると、
弓が光りだし矢が放たれた!
「『フュージョンアロー』!!」
すると「炎」「氷」「雷」、様々な属性を持った矢が勢いよく飛んでくる、
これをかわすことは通常不可能!
「『フラッシュスタンス』」
しかし、セトには関係ない。
スキルがどうであれ"光速"に追いつけられなければ無意味、
つまりダメージを与えたければ最低でも光速でなければならない。
「くそっ!くそっ!」
「あーだめだめ、レベル75程度のアーチャースキルじゃあ俺は倒せないよ」
ひたすら撃ち続けること約5分、
どうやらMPが尽きたようだ。
「へー、5分も撃ち続けられるだけMPあるんだ。すごいねぇ~(笑)」
「ムカつくッスねぇ…!」
するとアイテムパックを探り出した。
「おっと!」
「これでも喰らうッス!」
「『スウィフトソード』」
アーチャーがアイテムを取り出す瞬間、
それよりも早く相手の手を切り落とす。
「っひぃ!」
その後、叫びが聞こえる。
恐らく、ゲームなので痛みからではなく恐怖からだろう。
「ほらよ」
自分の所持アイテムから、
再生効果のあるアイテムを彼女に向かって転がす。
「これは…『レッドポーション』」
『レッドポーション』
再生効果を得られるのは勿論のこと、
回復・状態異常の完治効果もあるレア回復アイテムだ。
「何と交換ッスか…?」
「なに、礼はいらねぇよ」
彼女はすがるように床にあるそれを取ると、
一気に飲み干す。
するとみるみる内に腕が完治していく。
(おえぇ…何度見てもあの完治するグロさが無理なんだよなぁ…)
「ふぅ…」
手を数回、握ったり開いたり繰り返して
完治したことを確認している。
「とりあえずお礼を言うッス。」
「あぁ、俺も本当は切り落とすつもりはなかったんだけどな。アイテムを使う時はよく考えろ」
「…」
そう言い放ってジャン達のほうへと戻る。
「なぁセト、一体何を使おうとしたんだ?」
「いや、俺も遊びすぎたのは悪いんだが…ほら『アッドミスト』ってアイテムがあったろ?あれの強化版みたいなのでよ、『アルファウェーブ』ってアイテムがあるんだよ」
「あぁ、あれか」
『アルファウェーブ』
その効果範囲は大きく、
範囲内のプレイヤー・モンスター全てにダメージを分散するという消費アイテムだ。
「ほら、パーティメンバーにも影響するからあまり人気ないだろ?」
「あぁ、じゃああのアーチャーはソロだから使ったわけか」
「ま、俺にダメージを与えるためってのもあったんだろうがな」
すると、
先ほどの少女が立ち上がって向かって来る。
「なんだ?まだやるのか?」
「いや、逆ッス。貴方たちのギルドに入ろうと思ったんス」
『ハァ!?』
いやいや!ぶっ飛びすぎだろ、
考え方も同様。いきなり会って負けたプレイヤーのギルドに入るって…
「私、このままじゃ結局は負けっぱなしの気がするッス」
「まぁ…確かに」
「なんで、入れてほしいッス」
だからどうしてそうなる…
「まぁ!いいじゃねぇか!ホラ、なんていったっけ?『昨日の敵は明日の友』っだっけ?」
「何か使うタイミングが微妙に違う気がする…」
「リノアちゃん…的確に突っ込むのね…」
などとジャン達の漫才に付き合ってる場合ではない。
「えーと、そもそも俺たちはギルドじゃないんだよ」
「好都合ッス!」
エェ…(;´Д`)
「だって、ギルドじゃないなら戦う危険もないですし。乗っ取るギルド見つけたら抜けやすいですもん」
なるほど。
「わかった、認めよう」
「やったー!ッス」
こうして変なやつが増えたのだが…
まぁ、リノアの話し相手用の女子も増えたしいいか。
「んで名前は?」
「『Beat』だよ!ヨロシクッス!」
こうして変なのが増えたのだった。