六話 「テレポート」
運命を変える話、
それは俺の運命をも変えることとなったのかも知れない。
内容は…
「なぁ、リノア。あの話って…」
俺はベッドに横になりながらリノアに訪ねた、
リノアは何も答えない。
その話というのが
―――数時間前
「実は私、昔からこの世界にいた記憶があるんです…」
「え…?それってどういう」
リノアは懐から一つのアイテムを取り出す。
「これ、私がこの世界に来た時に一番最初に持っていたもので…」
彼女の手には青く光る石があった、
アイテム名は『精霊石』と表示されている。
「見たことがないアイテムだ…イベントかな?」
「いえ、記憶には"誰かから受け取った"ということが残っています…」
"誰かから受け取った"か…
一体誰が…?
「その時に名前を呼ぶ声がしたんです」
「誰の?」
「それは…」
「ま。今考えてもしょうがない、今はとにかくレベリングだ。」
―――と
話はここまでだ、
だが今はどうしようも無いことだったのだ。そのときは
今できることをやるのが俺の役目でもあるからな、
リノアのレベル上げを全うするだけだ。
「あ!そうそう、プレゼントがあるって言ったよな」
「?」
「ほら、レベル30になったらって話」
「はい。」
俺は端末を操作して、
アイテムパック内から『テレポートクリスタル』を2つ取り出した。
「…これは?」
『テレポートクリスタル』
消費系アイテムだが、
一度行った場所に瞬間移動できるので便利。
「ちなみに、テレポートする人に触れていれば、その人もテレポート可能だ。ただし、二人ともテレポートクリスタルを持っているのが条件だがな。」
「…」
「ほれ、ちょっと持ってろ」
俺はテレポートクリスタルを一つリノアに手渡すと、
自分のテレポートクリスタルに向かって声を放つ。
「転送、『ラクスラズル』!」
身体が光に包まれる、
リノアは目を輝かせていた。
「よっと。」
あたりは宿屋の入り口から、
一気に神秘的な場所へと変わった。
「ここは俺の一番好きな場所なんだ」
「……」
声が聞こえているのかいないのか、
口を開けたまま止まっている。
「おーい」
「!!」
「やっと気づいたか」
「いえ、あの木…」
「ん?」
リノアの指をさした方向には、
このラクスラズルのポイントともいえる大きな世界樹が生えていた。
「あの木がどうかしたのか?」
「あの木、覚えがある」
しかしラクスラズルはレベル30以上しか来られない場所、
記憶があるというのはおかしい。
「気のせいじゃなくて?」
「私が見たときはもっと…こう、邪悪だった…」
世界樹はこの世界では神聖なる力の象徴、
それも邪悪とはずいぶんとおかしいのだ。
「よくわからないなぁ」
「…」
と、俺とリノアが話していると近くのテレポートゲートから、
黒衣をまとったキャラクターが出てくる。
(最近は黒いのが流行っているのかな?)
のんきにそんなことを考えていると、
その黒いキャラがこちらに向かって来た。
そして俺の前に立つ、
リノアを後ろにまわし、話をかける。
「何のようだ?」
するとそのキャラは頭を覆っている布を脱いだ、
そこには見覚えのある顔があった。
「お前は…?」
「やだなぁ~忘れちゃったのかい?」
(覚えていない、どこかであったフレンドか?)
そう思いながらメニューを開いて、
フレンドリストを確認する。
「あれ?」
「僕はそこにはいないよ」
フレンドにもいないときたら、
本格的に誰かわからない…
「えっと…失礼ですがあなたは…?」
「うーん、そうだなぁ」
そのキャラは考え始める、
見た目は銀髪の青年だ。
職業は見たところ俺と真逆の『ブレイバー』といったところだろうか、
とにかく危険な香りがする。
「あ!思いついた!」
「???」
すると青年は背中の剣を引き抜き、
そのままこちらに向ける。
「こうしたら…わかってもらえるかな!」
向けた剣を勢いよく振るってきた!
「くっ!『フラッシュスタンス』!!」
急いでスキルを発動して回避する、
しかし相手の剣が少しかすってしまったようでHPゲージが減っている。
「うん、さすがだね。」
「…その剣、『ナイトメアソード』か…!」
「そうだよ!思い出してくれた?」
『ナイトメアソード』
神話級のレア武器であり、
高難易度のクエストの低確率報酬である。
勿論、攻撃力においてもトップクラスで、
付与効果もあるとのこと。
「いや…まさかな…」
「うーん、まだ信じられないのかぁ…じゃあこれならどうかな?」
突如、
青年の姿が消える。
「『フラッシュスタンス』!!」
フラッシュスタンスを使用してやっと追いつけた、
彼もフラッシュスタンスを使用していたのだ。
相手が剣をつき出してくると同時に、
下からソレを払いのける。
「やっぱりか…!!」
「そうだよ、僕の名前は…」
"seto"だよ
「くっ…!!」
同時にフラッシュスタンスを解除する、
どうやら相手も戦闘目的では無いようだ。
「結局、何のようだ」
「いや、少々会いたくなりましてね」
青年は剣を収めたあと、
踵を返してテレポートゲートへと歩いていく。
「あ、そうそう」
「?」
「リノアさんを大切にしてくださいね、あの子は"コア"なんですから」
そう告げると、
青年はテレポートゲートの中へと入っていった。
「誰?」
どうやら光速で行動していたのでリノアには聞こえていなかったらしく、
個人的には少しホッとした。
「いや、なに。過去の遺物だよ」
「???」
今度は上から声が聞こえてきた。
「よーーーーっこいしょ!!見てたぜーーーー!!」
「うわっ!?」
ジャンだ。
「なんだ、もうログインしたのか」
「なんだって…もう一日経ってるんだから当然だろ、ま。リノアちゃんもずっとログインしてたみたいだけどな~」
「いや、リノアは違うぞ」
「へ?」
それから、俺はジャンに全て話した。
「まぁ、リノアのことはわかった…だがお前のさっきまで戦ってた奴って…」
「あぁ、恐らくな。」
「???」
リノアはまだ知らなくていいことだろう、
これは俺"自身"の問題だ。
ジャンはともかく、
リノアだけは絶対に巻き込みたくない…
"絶対に"だ