四話 「スキル」
『ミッドナイト・バーミルド』
強さが桁違いなのは言うまでもなく、
攻撃方法も十分に厄介なのである。
基本的なバーミルドはただの青い竜といっても過言ではないような容姿をしているが、
その一段階上の『トライポッド・バーミルド』からは頭が三つになる。
つまりはミッドナイト・バーミルドも次いで同じ数の頭を持つ。
「うおおおおお!!」
勇ましくもジャンが左側から叫びながら切り込む、
ミッドナイト・バーミルドはその場から動いて戦うことはほとんどない…というよりも、亀のような体を持っているがゆえにあまり動けないのだ。
しかし、自然界の摂理からか。それとも元よりの設定なのか。
ミッドナイト・バーミルドの三つの頭は近距離、遠距離のどちらにも対応している。
相手が遠ければ炎や冷気を吐けば良いし、
相手が近ければその首で薙ぎ払えばよい。
ジャンが剣を振り上げて勢いよく地面に突き刺す!
「くらえ!『ウォンテッド ソード』!!」
剣の突き刺さった場所から地面にひびが入って行き、
次第にミッドナイト・バーミルドのほうへとひびが走って行く。
『ウォンテッド ソード』リキャストタイム:1分
地面に剣を突き刺すことで反動を起こし、
数ターンの間相手の行動を封じる。
『リキャストタイム』とは、
戦闘中に発動した技が、再び使用可能になるまでの待機時間のことを指す。
基本的にその待機時間が終わるまでは再度使用することはできない、
ただし待機時間の長さはスキルによって異なる。
今回ジャンが使用した『ウォンテッド ソード』のリキャストタイムは1分、
つまりもう一度『ウォンテッド ソード』を使用するには1分待たなければならないというわけだ。
「今だセト!」
「おう!『リバイブ スラッシュ』!!」
セトはウォンテッドソードによりできた隙を使って、
ミッドナイト・バーミルドの右首に斬りつけた!
「グォォォオオオオオオン‼」
叫びをあげるミッドナイト・バーミルド、
しかし叫びをあげていたのは3つあるうちの右の首だけである。
3つの首はそれぞれ技もHPも異なる、
だからダメージも比例しないのだ。
「やっぱりあまりダメージは受けないか…」
「そのようだ…な?」
一瞬、言葉が途切れる。
一体なにがあったのかとジャンの見つめているほうを見ると、
どうやら相手のHPゲージに注目していたようだ。
「どうした?」
「いや、見ろよあれ…」
ジャンに言われてもう一度HPゲージを見直す、
するとどうだろうか。先ほど斬りつけた右の首がみるみる弱っていく、
あと数回攻撃したら切り落とせるであろうほどに。
「あれは……もしかして!」
急いで後ろを振り向く、
すると真後ろでリノアが呪文を発動しているではないか。
「『ポイズン キャスト』か…」
『ポイズン キャスト』リキャストタイム:2分
相手がダメージを受けた際、
そのダメージの何割かを一定時間与え続ける。
「あの子、基本的な連携はできるようだな」
「あぁ、そうみたいだ」
しかし、ミッドナイト・バーミルドの本当に恐ろしい部分は今までのようなところではないのだ。
「…そろそろか」
「リノア!できる限り防御力を上げるアイテムを使って、守りの体制に入って!」
リノアは静かにコクンとうなずくと、
持っていた初心者用の防御力増加アイテムを使用して速やかに守りの体制に入った。
セトが急いだのには"ワケ"があった。
「来たぞ!!」
ジャンの掛け声とともにミッドナイト・バーミルドが一気に攻撃を放つ、
その攻撃はいつまでたっても収まらず、
ひたすらセトたちのHPを削っていく。
「どう…して?」
リノアが苦し紛れに珍しく口を開ける、
それもそのはず。
現段階のミッドナイト・バーミルドには"リキャストタイム"がないのだから。
厳密に言えば作って"いない"と言うのが正しいだろうか、
ミッドナイト・バーミルドはHPが一定の割合まで減少すると特殊な技を繰り出してくるのだ。
その技というのが、
3つある首を順繰りにスキル発動の器として使用するという戦法である。
一つ目の首が炎を吐いたら次は2つ目の首で炎、
その次は3つ目で炎を吐き、一つ目で冷気。
とこのようにリキャストが終わったものからドンドン出してくるという、
歴史上の人物「織田信長」の長篠の戦で行った鉄砲隊の作戦と似たような戦術だ。
「さてと、この状況どうするよ?」
「お前はそのままリノアを守ってろ、俺が作戦を実行しよう」
「はいよ」
そうしてジャンにリノアを守らせると、セトはミッドナイト・バーミルドに向かっていった。
「本当に…大丈夫なんですか?」
「あぁ、あいつの職業は「サムライ」だからな」
「?」
職業『サムライ』
その歴史が如く、刀を中心として戦う職業、
技のリキャストタイムが早く、自己的に回復できる技も多い。
「さっき『リバイブ スラッシュ』ってのを使っただろ?あれも回復スキルなんだぜ」
『リバイブ スラッシュ』リキャストタイム:10秒
このスキルによって与えたダメージの約3割分を一定時間回復し続ける。
「…」
「それともう一つ、サムライには『カウンター』という"能力"もある。この"能力"ってのはスキルに含まれない…まぁ、簡単に言えば常に発動している特殊効果みたいなもんだ。」
『カウンター』
サムライのみが使える能力であり、
ガードをした際に相手が近ければ無条件で攻撃を返すことができる。
さらに攻撃がヒットした場合にその割合分の回復をする。
「自給自足…」
「まぁ、そういうことだな」
二人が会話をしている間にもセトはミッドナイト・バーミルドのすぐ目の前まで近づいていた、
この時、セトの脳裏にはミッドナイト・バーミルドの攻撃手順が全て暗記されていた。
「『フラッシュ スタンス』」
その瞬間、セトの姿が消える。
「え??」
「発動したか…!」
セトが発動して間もなく、ミッドナイト・バーミルドの右頭が落ちる。
それとともに数秒後、ミッドナイト・バーミルドの左頭も落ちた、
リノア達にはセトが何をしたかは見えていない…が、ジャンには何を発動したかが理解できている。
『フラッシュ スタンス』リキャスト:20秒
光速で移動・攻撃を繰り出すことが可能であり、
ダメージもそれに比例する。
ただし、HPが使用中は減滅し続ける、
途中解除可能で最大使用時間は3分である。
ミッドナイト・バーミルドの攻撃が止まるとともにセトの姿も現れる、
HPゲージを見てみるとセトの最大HP21000に対して
7000/21000へと減少していた。
恐らくセトもこれ以上の使用は危険と悟ったのだろう。
「さてと、ここで俺の出番かな!」
ジャンはその巨大な剣を抜くと、剣を天に向けて掲げた。
「『スカイ インパクト』!!」
スキルを発動した瞬間、天井を突き抜けた天からの光が大剣に落ち、
その光をまとったままジャンは剣を振るう!
『スカイ インパクト』リキャストタイム:5分
剣に天からのエネルギーを集めて、
そのエネルギーの塊をそのまま相手に飛ばす。
「喰らいやがれぇぇええええ!!」
ジャンが大剣を振り抜くと、
大剣のまとっていた光のみがミッドナイト・バーミルドに向かって飛んでいき、
そのまま首を貫いた。
ミッドナイト・バーミルドの最後の首が地面に落ちると、
触れた部分から崩れるエフェクトとともに宝箱が出現した。
「終わった…のか?」
「あぁ!終わったぜ!」
「…」
喜ぶこと以前に、疲労が激しかった。
故に、本当はバカ騒ぎするであろうタイミングでも床に座り込むことしかできない、
しかし、満足感だけは期待を裏切らなかった。
「ほら、とってこいよ」
「でも…何もしていない…」
セトがリノアに宝箱はリノアのものだと言わんばかりに言葉をかけたが、
リノアはほとんど傍観者状態だったがため、罪悪感を感じるのだろう。
「俺たちはお前のクエストを手伝った、それの何が気に入らないんだ?」
「見てるだけだった…」
そう言うとリノアは顔を下に向ける。
「見てるだけでも、十分勉強になったはずだ。連携・タイミング、スキル・能力。君はこの戦いの中で結構な数を学んだはずだ」
「…」
「次は君がそれを生かす番だ」
「…」
するとリノアは無言で宝箱を開けた。
中には武器が一つ入っていた。
『ルナティック・スフィア』装備:魔法使い
効果…
「ルナティック・スフィア…初めて聞く武器だな?」
「まぁ、ちょうど良かったじゃねぇか!職業も魔法使いだしさ!」
「…うん」
その時のリノアの顔はよく覚えている、
なぜなら初めて笑っていたからだ。