三話 「クエスト」
さて、クエストを始めたのはいいが…
「なぁ?本当にもう一個持ってたりしないのか?」
「ないものはないって」
俺はクエストのダンジョンに行くまでの交通手段として「フォン」を使おうと思ったのだが、この鳥を呼び出すには「ラミアの竪琴」というアイテムが必要だ。
だがそのアイテムは割とレアなアイテムで、一定期間しか配布されなかったのである。
ゆえに、リノアの分は無い……のだが。
「仕方ない、最後の手段だ…」
「…?」
通常、フォンは一人乗りなのだが俺はリノアを膝の上にのせて二人乗りした。
やはりこの世界で現実的なことができる俺は、アイテムルールも無視か。
少し引っかかることもあるが、それはまた後で考えるとしよう。
「よし、ちゃんと掴まれよ!」
そうしてフォンの尻を軽く蹴ると、勢いよく走りだした。
このペースなら今日中には着くだろう。
今回向かうダンジョンはリリールから東に少し行ったところにある塔だ、
これといった強いモンスターは出ないのだが初心者には少し辛いだろう場所である。
「よいしょっと」
思ったより早く着きそうだが、少し休憩をはさむことにした。
少女も意外と息切れをしているから、一旦昼食をとる。
「そういえばさ、リノアさんはどうしてこのクエストをやろうと思ったんだ?」
「貴方は何故?」
質問しているのはこっちなんだが、
まぁいい。初心者には優しくしないとな…
「俺達はリハビリみたいなものかな」
「私は少しでも早く強くなりたいからです」
ほう。
確かに今回のクエストは「走破系」だからな、経験値稼ぎには持って来いか。
アイテムがあまり落ちないのもあるが、黙っていてもモンスターが湧くという点がおいしいところだ。
「おーい、そろそろ行くぞー」
「おう。行くぞリノアさん」
するとリノアが一言小声で言う。
「…リノアでいい」
「…わかった。」
その後、リノアは少しも喋らなかった。
しばらくして塔についた。
「ふぅ、やっとか」
俺はリノアを降ろすとそのままトビラに向かった、
リノアはジャンと一緒に行動している。
「さぁて、一狩り行きま…」
途中で口を止める。
そしてそのまま腰のカタナを引き抜く。
「おいジャン…」
「あぁ、わかってる」
ジャンも大剣を構え、リノアも杖を持つ。
身構えると同時に塔の裏から黒い布を身にまとった集団が現れる、
そのうち一人が布を勢いよく脱いで叫んだ。
「お礼をしに来てやったぞぉ!!」
ん?
あぁ、どこかで見た顔だと思ったらさっき殺されたばかりの男じゃないか。
近くで復活したのか?リスポーンのお早いことで
男は一番前にいる黒服に「こいつですよリーダー。」と耳打ちしていた、
恐らくあの一番前の奴がリーダーだろう。
「お前か、うちの部下を殺してくれたのは」
リーダーと思われる男が布を剥いでこちらに向かって来る。
「へいへい、私がその変態ドS男をやりました~…って」
「ん?」
俺は男に向かって思い切り声を上げてしまった。
「あー!アナライさん!?」
「そういう君は、セトか!?」
「なんだ!?知り合いか!?」
そう、このアナライという男は俺が一時期取引をしていた男であり、
元武器屋でもある。
かくして俺は仲がいいのだ。
「久しぶりじゃないか!一ヶ月もログインしないんだもんなぁ~」
この男アナライは背丈はジャンとあまり変わらないが、顔は外国人っぽい作りをしている。
職業はナイトの槍使いだ。
「まさかこんなところで会うとは。感激です」
俺が握手をしていると、
ジャンも驚いた顔をして口を開けている。
「り、リーダー!殺らなくていいんですか!?」
「何を失礼なことを言っているんだ?大体、俺たちが戦ったところで勝ち目はないよ。」
「で、ですが…この人数なら」
「くどい!」
男は後ろへと下がっていった。
「それで?どうしてまたこんなクエストに?」
「少々理由がありまして…」
「ほう?」
俺は、離れた場所でアナライさんにだけ今までのことを話した。
「なるほどな、それでか」
「信じてくださるのですか?」
「なぁに、俺とお前の仲じゃないか!」
俺はその時、こういうのが本当のフレンドなんだなぁ…と感じた。
アナライさんとは別れて、塔の中へと入っていった俺たち。
塔はやはりそれほどという強さのモンスターは出てこなかった…
…はずだった。
最上階、『オリオンの間』でのことだ。
ここのボス『グランテッド・バーミルド』という青い竜のような見た目のモンスターがいるのだが、なぜか今回は違っていた。
モンスターというのにも段階があり、グランテッド・バーミルドの一つ上が『トライポッド・バーミルド』なのだが、
今回は何故かそのさらに上の『ミッドナイト・バーミルド』が出現した。
「おいおい…どういうことだよ」
「…」
リノアはどこか暗い顔をしてうつむいていた。
恐らく、何かあるのだろう
しかし、今は話をしている余裕はない。このBOSSは俺たちでもキツイんだからな。
「ジャン、作戦Xで行くぞ…」
「了解。」
そうして俺とジャンはミッドナイト・バーミルドの両側面に回りこむようにして走り出した!