二話 「アイテム」
"リリール"この町へ来るのはそう時間はかからなかった。
一応、確かめてみたのだが。アイテムはゲーム時の頃のままのようだ、故に「フォン」というダチョウのような鳥を呼び出す道具もそのまま。
この「フォン」という鳥は他のゲーム同様、乗って移動することができる。
速さは"徒歩の一回り早い"くらいにしか変わらないが、それでも早ければ早いほうがいい、なぜなら俺は他のキャラクターに比べて体力というものがあるのだから。
「それで?クエストを受注したのはいいが、高レベルメンバー二人はさすがに恥ずかしいぞ」
「だよなぁ~、世界を見ろとは言っものの。これじゃあどうしたものか…」
やはり初心者用のクエストに高レベルのメンバーが二人というのは恥ずかしい。
できればもう一人くらいはほしいのだが…
「…ん?」
「どうした?」
「いや、あれ」
俺は一人のキャラに指をさす、
そのキャラは沢山の他プレイヤーが行ったり来たりする道の中、ポツンと立っている。
そのキャラの頭の上には「誰か、一緒にクエスト行ってくれませんか?」という文字が表示されていた。
「おやまぁ、なんと健気な」
「うーん、まるで『マッチ売りの少女』だな」
そのキャラメイクは性別は女の子。金髪のショートな髪型に服装は恐らく魔法使いであろう姿をしていた、身長設定はおそらく僕の胸あたりの背丈か。
「ちょっと君、いいかな?」
その少女に近くを歩いていた男たちが話しかけた。
「君、初心者だよね?」
「俺たちが手伝ってあげようかぁ?」
でた、よくいる。初心者をクエスト後に言いくるめてギルド勧誘する輩、手っ取り早く人数を増やしてギルドランキングに乗ろうって魂胆か。
そう言うと、先ほどまで無言だった少女が口を開く。
「結構です」
『はぁっ!?』
少女は明らかに自分よりもLVが上であろう男たちの誘いを顔も見ずに断った。
「おいテメェ!俺たちが手伝ってやるって言ってんだよ!」
「そうだぜ、手伝い募集している側が断る道理なんてねぇだろ?差別か?おい」
あーあ、始まっちゃったよ。断ったら難癖つけ始めるクソプレイヤー。
こうなったら俺とジャンで…
「これは"差別"ではありません。"区別"です」
少女は少しの表情も変えることなく、声のトーンもそのままで男たちに言い放った。
「おいおい、いくらゲームだからって…少しは怖がるだろ」
隣にいたジャンも驚いていた。
するとやはり男たちの逆鱗に触れたようで、少女をすぐ後ろの路地裏へと連れ込んでいった。
「セト。」
「あぁ、行くぞ。」
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「うぐっ…!」
路地裏のゴミ袋の山に少女が蹴り飛ばされて背中から着地する。
「お嬢ちゃん、わかってるか?このゲームはクオリティが高くてなぁ。やろうと思えばあんなことやこんなことも出来ちゃうんだぜぇ?」
男は少女にそう告げると、少女の腹部にナイフを突きさす。
「うああっ!!」
少女のHPゲージが少し減る。
「安心しな、このナイフはあまり攻撃力が高くないんだよ。でもなぁ、お嬢ちゃんの装備の耐久値はどんどん減っていくぜぇ」
「そうそう。お前のHPは俺たちが回復してやるが、装備の耐久値までは回復できないからなぁ?w」
少女は必死になってナイフを抜こうとした。が、一向にナイフが抜ける気配はない。
それどころかドンドン少女のHPを削るばかりである、HPが減るたびに男たちは少女に回復魔法をかける。
「さぁて、そろそろお嬢ちゃんの綺麗な身体を拝ませて貰おうかねぇ…ヒヒヒ」
男が少女の装備に更にダメージを与えるべく持っていた剣を突き立てようとしたその時。
「アニキ…」
「あ?どうした?」
後ろにいたもう一人の男が倒れこんできた。
少女に剣を向けていた男もドミノ倒しのように押し倒される。
「うわぁ!」
男は自分にのしかかる死体が消滅すると、急いで起き上がる。
「畜生!なんだっていうんだ!」
立ち上がろうとすると、男の前に剣の先が軽く触れる。
「はい、そこまで~」
ジャンが大剣を男に向けて突きつけていたのだ。
男は身軽な動きで後ろに飛ぶと少女に向かって人質を取ろうと手を伸ばす。
が、少女はもうそこにはいない。
「セト、ちゃんと誘拐したか?」
「物騒な言い方するなよ」
するとジャンの後ろにいるセトのマントからはさっきの少女が出てきた。
『スケルトン・マント』低レベルの骸骨族がドロップするノーマルレアアイテムだ。
効果は一定時間のあいだ、指定したキャラをマント内に透明化して隠すことができる、ただし使い捨てのアイテムである。
女の子が出てき終わるとマントはガラスのように崩れた。
「ま、そこまで貴重じゃないしいいか」
セトはそう言うと予備のスケルトン・マントを装備しなおす。
「き、貴様らぁ…!俺たちが『オルゼの勲章』とわかっての行為か!」
「"オルゼの勲章"…あぁ、そんなギルドもあったっけ?滅茶苦茶ガラの悪いギルドだったんだなw」
ジャンは笑いながら軽く挑発する。
そりゃそうだ、俺たちの昔いたギルドはそんなものの非じゃなかったからだ。
「つ、強がり言いやがってぇ!!」
男が叫びながらジャンに突進してくる、
するとジャンは足をかけて男を転ばしたのちに持っている大剣で軽く一刺しする。
「うがぁぁあああ!!」
男は大ダメージを食らってもがく。
そこにセトが近寄っていき、しゃがみこんだ
「さてと、この女の子に謝罪してくれるかなぁ?賠償金はこの子の望むG(金)で、な?」
ジャンが大剣を抜くと男はセトを睨みつけて言い放つ。
「誰がテメェなんかの言うことを…」
『ザシュッ!』
その鉄と骨が擦れるような聞き心地の悪い効果音とともに、男の腹部にナイフがささる。
「えーと、確かこの辺りだったかなぁ?」
「テメェ!それは俺の…!」
セトは男が先ほど少女の腹部に刺していたナイフを
少女が刺された場所と同じ場所へと差し込むべく、何度も男の腹部に刺しなおす。
「ま、この辺でいいか」
そう言うと、決めた場所に勢いよくナイフを突き刺す。
「うああああ!!」
血のエフェクトとともに男の悲鳴が狭い路地にこだまする。
『アッド・ミスト』
その霧の届く範囲内ならば回復、ダメージなどの幅広い効果に対してその効果を発揮する。
回復ならば回復量を、ダメージならばダメージ量を増やす。
「つまり。お前はこのアッド・ミストの追加ダメージによって現在、致命傷を負っている。これじゃあどうやっても勝ち目ないよねぇ?ま、賠償金はあんたが死んだ後のドロップでもいいけど」
そうセトがからかうように男に言うと、
男は睨みつけて笑い出す。
「い、今に見てろよ…!フフフ…このままじゃ終わらないからな…!この後、俺のギルドが…!!」
会話中に男のHPが切れたようで、そのまま男はアイテムと同じようなエフェクトとともに消滅した。
「フラグ回収乙でした~」
セトは男がいた場所にやる気のない合掌をする。
「さてと、行くか」
その場から立ち去ろうとした瞬間、セトの装備しているマントが引っ張られる。
「ん?」
マントの先には少女の手があった。
「いやいや、お礼ならいいz…」
「あなたたちなら信じられる。」
「へ?」
少女が手を一向にマントから離そうとしないので、とりあえずは話を聞いてみることにした。
ジャンも気になっていたようで、知らんふりしながら壁に寄りかかっているが聞き耳を立てている。
「ええと、つまりは君もこのクエストに挑むと?」
少女は首を縦に振る。
ステータスをこっそり見たが、LVは7で職業は『魔法使い(マジシャン)』の完全初心者だった。
サブ垢でプレイしているのかと疑ったが、そうでもないみたいだ。
「なぁセトよぉ、この子が一緒だったら初心者の手伝いってことで恥ずかしくないんじゃないか?」
「それもそうだな」
俺は少女も納得しているようなので少女にフレンド申請を送った後にパーティーを組んだ。
が、今ひとつ気になるのがなぜ募集はするのにソロプレイなのか、だ。
「そんなことどうでもいいだろ?」と言ってジャンは軽く受け流していたが…
「そういえば、お嬢ちゃんの名前は?」
俺はさっきステータスを見たから知っているが、それは秘密だ。
少女が静かに口を開いて言う。
「Rinoa-リノア-。」