十五話 「精霊の半身」
世界樹、
その根元に俺とカルマはテレポートした。
「カルマを連れてきた。わけを話してもらおうか」
リンクは静かに頷くとカルマに向けて手のひらを差し出した。
カルマはその手を数秒間、躊躇したもののゆっくりと握った。
「えっ?」
突如カルマの身体から黒いツタのようなものが流れ出す、
そしてそれはsetoへと絡みついた。
「何ィ!?」
「これが彼女の正体です」
そのまま黒いツタにsetoは拘束されてしまった。
「seto様…これは一体…?」
「カルマ、落ち着け!俺なら大丈夫だ!」
「彼女はデリトの半身です」
デリトの半身だと?
馬鹿な、
カルマは俺と一緒に過ごしていた。それがデリトだった?あり得ない。
「いえ、性格にはデリトの"半身となった"。と言ったほうが正確でしょうか、もともとは彼女もただのプレイヤーです」
「説明しろ」
「はい。実は私とデリトが戦ったあと、どちらも精霊としての力が尽きそうになりました。そこで私が取った行動は"自らの半身を作成すること"でした。しかしデリトにはそれができません、なので彼女は無理やり自らの半身をプレイヤーに植え付けたのです。」
そうか…理解したぞ。
俺が初めてカルマに出会った時、
カルマにはほとんど記憶がなかった。
キャラなりきりのプレイヤーかとも考えたが、どうもそんな感じがしなかったから本当の記憶喪失者にするような接し方をしてこれまでかかわってきたが。
「それって記憶も消えるのか?」
「えぇ、恐らくは」
「やっぱりか…」
つまり俺がカルマを拾った時にはカルマはすでにデリトの因子を植え付けられていた、
というわけだ。
「デリトは自分のエネルギー回復の為にカルマさんに因子を植え付けました、そしてseto様貴方もです。」
「なんだと?」
「先ほどの反応はカルマ様のデリト因子がseto様のデリト因子と共鳴した証拠です。」
「だが、俺には記憶がはっきりと残っているぞ?」
「それはセト様が居るからでしょう」
セトが居るから…
つまり俺とセトの記憶は共有されているってことか?
「もしそうだとしたら、俺の記憶が消えた時点でセトの記憶も消えるんじゃないのか?」
「いいえ、セト様はずっとこの世界樹と…私とともに居ましたのでデリトの因子には犯されません。」
「なるほどな」
俺は納得すると、
怯えているカルマの元へと歩み寄り腰を下ろす。
「安心しろカルマ、お前には俺がついている。」
「seto様…」
安堵の笑みをカルマが浮かべると、
setoを拘束していたツタが消え去った。
「セト、カルマと一緒に席をはずしてくれないか?」
「わかった」
セトには離れていてもsetoの声が聞こえる、
恐らくはそれを見越しての言動だろう。
「カルマ…だっけか?シュライト聖堂でのことは水に流して、どうだ?俺と散歩でも」
「あまり気が乗りませんが…」
「まぁ、そう言うなって」
女神の声も、
直接俺と話している分にはカルマには聞こえたりしないだろう。
聞こえるのは俺とセトにだけだ。
「そんじゃ行くぞ~」
「はい…」
しぶしぶついていくカルマの後ろ姿がセトとともに消えるのを確認すると、
俺は話を続けた。
「それで、デリトを倒した場合。カルマは…」
「消える…でしょうね」
「…」
消える…か
◆ ―エリュシオン・宿屋― ◆
リノアはベッドに腰をかけて静かにうつむいていた。
「リノアさんも元気だすッスよ~…て雰囲気じゃないッスよね、すんません…」
「いいの、ありがとう…」
しばしの無言時間が続く、
ビートは思い空気の中で何か話を切りだそうとするが、何も言えないでそのまま口を閉じる。
「おーい、リノア。起きてるか?」
突然、部屋のドアがジャンによって叩かれた。
「はい…」
「入るぞ~」
「ジャン先輩、女子の部屋によくどうどうと入ってこれますね~」
「そりゃあオープンスケベの鏡だからな!」
といってボケをかましたところで、
セトが居ないんじゃリノアの気も晴れない…か。
「あー…えーっとなリノア。ちょっと頼みがあってよ」
「はい…」
「一緒にラクスラズルまで来てくれないか?」
「構いませんが…」
「サンキュー」
どうも気が乗らなさそうだったが、
ラクスラズルには来てもらわなくては困る。
「そんじゃー明日な」
「はい…」
そういうとジャンは部屋を出た。
そして通話を始めた。
「これでいいのか?セト。」
「あぁ、すまない。ありがとうな」
「いいのか?生きてるって言わなくて」
「あぁ、完全に生き返ってるってわけじゃないからな」
「そうか」
納得したように微笑を浮かべてジャンは通話を切った。
「そうか…生きてたんだな…」
◆ ―世界樹― ◆
「それじゃ、俺は行くからな」
「あぁ、seto。任せたぞ」
「案ずるな」
そういって、
カルマとともにテレポートクリスタルを使って消えていった。
「なぁリンク。確かお前も自分の半身を持っているんだよな?」
「えぇ、持ってますよ」
「そのキャラの名前って…」
「はい…確かめたいのですか?」
「…」
「名前は…」
ErrorCode:―Rinoa―