十四話 「リキャスト」
剣と刀、
二つが光の速さで擦れあい、火花が散る。
それでもその火花に惑わされて相手の切っ先を見失うことは無い、
神経が100%研ぎ澄まされているからだ。
「ヒヒヒッ!!壊れろ、壊れろォッ!!」
「そう簡単に壊れたら、神級のレア武器じゃなくなるだろうが!!」
ひたすら押し合いが続く、
相手の剣の軌道を読み、かわし、斬りこむ。
「さて、そろそろ溜まってきたんで……終わらせるぞ!!」
「っ!?」
壊世の刃がナイトメアソードから離れた瞬間、
真っ先に地面に突き刺さった。
「ま…まさか!!」
「その"まさか"だよ!!」
setoは突き刺した壊世を勢いよく引き抜くと、
そのままデリトに向かって振り下ろした!
「うぐぅぅぅああぁぁぁああああっっ!!」
「どうだ…莫大なデータの量は!」
デリトがナイトメアソードを地面に落としてその場にうずくまる、
頭を抱えて転げまわる。
「処理しきれない…処理しきれないィィィイイイ!!」
「seto様は何をしたって言うの…?」
「データ量による攻撃だ、この世界の地面…つまりワールドのマップデータを凝縮して飛ばした。奴はそのデータを処理しきれていない、そりゃあ「エンカウント」から「イベントエフェクト」までマップデータに詰め込まれているんだから、そんなもの固めて飛ばされたとあればひとたまりもないだろうよ」
そう、
setoが地面に剣を突き刺したのはこの世界のマップデータの一部を破壊して、その破片を固めた一つのデータにしていたためである。
「だが、弱点が無いって訳じゃない。これはリキャストタイムがちょっと例外的なんだ」
「例外的?」
「あぁ、こいつのリキャストの条件は時間ではなくダメージ。それもプレイヤーとアイテムのどちらでも可、一定数ダメージを与えればリキャスト完了ってわけだ」
setoはデリトの振るっていたナイトメアソードとぶつかり合うことによって、ナイトメアソードの耐久地そのものにダメージを与えていたのだ。
「しかも、コイツを装備した瞬間からリキャストスタートだから…戦闘直後にあの技を使うことも出来ない。意外と弱点は多いんだよ。」
「なるほどな、だから長々と戦っていたわけだな」
ラルゴが納得したようにうなずく、
カルマも納得したようで表情も変わる。
「さてと、アイツを始末しなきゃいけないな」
―お待ちください―
「何?」
『デリトにとどめを刺すのはまだ早いのです』
「その声は…リンクか」
あたりを見回すが倒れているデリトとラルゴ、カルマ以外には誰も居ない、
世界樹のある世界から直接話しているらしい。
「なぜ止める」
『デリトを今消してしまったらこの世界も消えてしまいます』
「じゃあどうしろと…!!」
『それは…』
「リンクゥ…」
『!!』
先ほどまで這いつくばっていたはずのデリトがいつの間にか俺の背中にしがみついている、
しかも消して引きはがせない。
「…っく!このっ!」
「リンクゥ…なぁリンク、聞こえているんだろぉ?」
『デリト…』
どうやらデリトにはリンクの声が聞こえているみたいだ、
ラルゴは耳を澄ませようとしているが表情からして聞こえていないようだ。
「なぁリンク…今ドコにいる?なぁ…なぁ!!」
『それは…』
「私は、今もお前を邪魔だと思っている…それに」
「お前を犯したくてたまらないんだぜ?」
『…っ』
「いつも輝いて、穢れを知らないかのように振る舞い。木も神聖な光に輝いている…!!そんなお前を私は許せない!穢したい…犯したい…そんな感情ばかりが芽吹くんだ…」
「テメェ、耳元で気持ちの悪いことをほざいてるんじゃねぇぞ!!」
必死にはがそうとするが、
やはり引きはがせない。
「そうだリンク!お前、この男を使おうとしていたよな?じゃあ私もそうしようじゃないか」
『ま、待ちなさいデリト!』
「何をする気だ!」
そう叫んでsetoが振り返ろうとした時、
首筋に異様な熱さが走る!
「うっ!?」
よく見ると、
setoの首元にはデリトの八重歯が突き立っていた。
『やめなさいデリト!』
「やーだよ!リンクもやったことじゃん?なら同じ手を使ったっていいだろ?」
そう言うと更に深く突き立てる、
首筋からは血が流れる。
「コノヤロウ…今すぐその口をつぶしてやろうか…!!」
「やってみればぁ?」
「喰らえ…!」
叫びながら自らの首元に拳を飛ばすseto、
その時デリトの瞳が紅く染まる。
「なにぃ!?」
「魔力を放出したな、計算通りだ」
直後、
setoの拳は止まり、setoの身体には黒いツタが絡みつく。
「なんだ…これは!」
「てめぇが魔力放出をしたから、それを感染させただけだよ。つまりてめぇは今、むき出しの状態、私の思うがままにてめぇのデータにウイルスも送れるってわけだ」
「何を言って…」
「試してみるか?」
そういってデリトは勢いよくsetoの身体に手刀を突き刺す、
そして体内で手刀にしていた手を広げる。
「ぐふぅっ!!」
「へぇ~人間の臓器って、こんなに温かいんだぁ~」
setoの内臓を遊ぶようにかき回す、
そのたびに口内から血が漏れ出す。
「あったあった、ここにデータを染み込ませよっと」
setoの心臓を潰さないように軽く握ると、
そのままデリトは自分の爪で突き刺した。
「うがぁぁぁああっ!!」
「これで完了~」
そして背中から手を引き抜くと、
出血する前に回復魔法をかける。
「一応、上級魔法だからすぐに回復するだろうな~」
「何をしたんだ…」
「それは後でのお楽しみだな」
回復魔法をかけ終わるとデリトは消えていった、
恐らく帰ったのだろう。
「痛みが…消えてる」
先ほどまでの傷も消え去り、
腕などもしっかりと動く。
「一体何をされたのやら…ん?」
「ハァー…ハァー…」
身体の動作を確認していると、
ふと何かの息切れするような声に気づく。
「seto!!カルマが!!」
「カルマ!どうした!」
そこには絶望した顔で耳をふさぎ、
地面に座り込んでいるカルマが居た。
息切れた声はカルマのものだった。
「カルマ!」
「聞こえ…たの」
「聞こえた?」
「聞こえたの……"女の人"の声が…」
「まさか…!?」
カルマにも聞こえたというのか、
リンクの声が…!?
『seto様、至急そのカルマという女性をコチラへ連れてきてください』
「いいのか?俺はさっき何かされた身だぞ?」
『それについてもお話ししたい点がありますので…』
「わかった、今そっちに行く」
俺はカルマに手を貸して立ち上がらせ、
そのままワープした。
あとのことはラルゴに任せてある。
「一体、カルマに何の関係が…」