九話 「突入」
さてと、
どうやって侵入したものか。
はっきり言って大きさや警備兵の数からして、昔やってたRPGを思い出すほどだ。それもあってか、やっぱり夜に侵入することに。
「ゲームじゃあこういう時には裏から行くよな?」
「まぁ、お前が死んだときのこともわからないんだから慎重に行くべきだな」
そういうと、堂々と門から突っ込んだ。
「おいいいいいいいい!!俺の身の安全は!?」
「安心しろ、俺はナイトだから」
『ナイト』
攻撃力は最高クラスと言っていいほどの職業であり、
仲間を守ることにも徹した職業。
故に、ほかの職業よりもHPが多い。
「ん?」
ひたすら中庭を走っていると、一つ気になった。
警備兵が全く持って襲ってこない、
普通なら襲ってくると思ったのだが…
「セト、止まれ…」
ジャンが手を出して引き留める、
罠かもしれないというのはとっくにわかっていたが、そうじゃないことをジャンの瞳が語っていた。
「テメェか、"シュベルク"ってのは」
「フフ、ようこそお二人さん」
聖堂の二階にあるバルコニーから二人の男が見下ろしていた、
片方は神父のような恰好をしており体つきもシッカリしている。おそらくこいつがシュベルクだろう。
もう片方はフードつきの法衣を身にまとっている、おおかた側近といったところか。
「この町の人から受けた"ボランティアクエスト"でな、お前らの悪事を裁きに来た」
「まぁまぁ、とりあえず中へ。そのために兵たちを動かさなかったのですから」
男は落ち着いた口調で中へと戻っていく、
俺たちもゲーム時代に聖堂へと足を運んだことはあったが、そのままとは限らない。
罠の確率だって十分にある、俺はジャンにアイコンタクトを送っておいた。
「いつ来ても広いなぁ~」
「確かにそのままだ…」
真っ白く、それでいて鏡のように反射した床には金色のゴテゴテした装飾が施されている。
まさにゲームの聖堂といったところか
「今夜はよくぞおいでくださいました」
「俺たちが来ることを知っていたような口ぶりじゃねぇか」
「えぇ、知っていましたとも」
「なに?」
聖堂の無駄に長い階段をおりながらシュベルクが語る。
「あなた方は昼間に兵士達に会いましたね?」
「あぁ、態度の悪い奴らだったがな」
「そこですよ」
「???」
確かに、昼間に色々と不自然な兵士達に会ったが、
それが先ほどの話とどうつながるのだろうか?
「サブキャラを知っていますね?」
「あぁ…それがどうし………」
「!!」
そうか、
サブキャラか!
『サブキャラ』
サブキャラクターのことであり、
多くのMMORPGは複数体自分のキャラを作ることができる。
時には自分のキャラとサブキャラだけでパーティーを組むことも。
「サブキャラをあんたが複数台のPCで動かしていたのか…!」
「ノンノンノン!!惜しいのですが…ハズレです!」
シュベルクは階段をおりきるとイスを出現させて、
そこに座りながら話しだす。
「考えてみてください、私がゲームプレイヤーだったとしたらこのゲームの世界に干渉することは不可能。つまりは液晶画面越しには干渉出来るわけがないということですね」
「じゃあ…まさか!」
「そうです、私は"ネイティブ"です。」
ようやく理解できた、
シュベルクというのが奴の本命キャラであり、あの適当な名前を付けられた兵士たちは全てサブ。つまり、エリュシオンに向かう途中の峠の時点で俺たちは監視されてたんだ。
「どうして町を苦しめる」
「それはモチロン、このゲームで自由を手に入れたからですよ。これは神からの送りものです。」
「なりきりプレイヤーか?一貯前に神父ぶりやがって!」
「神は言っているのですよ、「この世の中を"ネイティブ"で支配せよ」とね」
何を言っているんだコイツは?
アホなのか?
「ですが…ネイティブ繁栄といっても、そう簡単に見つかるわけもなく。ネイティブは私とこの男だけだったというわけです。」
シュベルクが側近の男を指して話す。
「お話ししなさい」
すると側近の男が前に出てきてフードを脱ぐ。
「自己紹介が遅れました、私は『クロード』と申します。」
"クロード"…?
どこかで聞いたような…
「我々の研究により、わかったことがあるのです」
「それは?」
「"寿命"です」
「何?」
「お話ししましょう」
クロードがいうには、
どうやらゲーム内の俺たちにも寿命があるらしい。
そして何らかの条件でその寿命は減滅するのだとか。
「どうやって調べた」
「いえ、簡単でしたよ。滅びた村の本棚から我々以外のネイティブの日記を見つけましてね、そこに色々と書いてあったんですよ」
「俺たち以外の…ネイティブ…」
勢いよくシュベルクが立ち上がる
「一つ!問題があるのです!」
「問題?」
「現在、税によって資金は十分なのですが。それだけでは繁栄できないんですよ」
「なぜ」
「人間と同じです、ほかの生き物と繁殖しようとしてもできない。NPCやゲームキャラと交わったところで繁殖は不可能。実験済みです。」
「つまりネイティブはネイティブという生き物扱いか」
「理解が早くて助かります。そこで子孫を残さなくてはならない私たちには女性のネイティブが必要だったんですよ。」
「何が言いたい」
するとシュベルクがクロードに何か言い渡す、
その後クロードは奥へと走って行った。
「何するつもりだ」
「安心してください、あなた方以外の侵入者を捕らえただけですよ」
すると奥からクロードが鎖で腕をつながれた女を引っ張ってくる、
その女には見覚えがあった。
「…リノア!!」
そう、そこにいたのはリノアだった。
「フフフ…あなた方とすれ違った時に大層大事に連れていましたので、気になって色々とつけていたら。聞きましたよぉ~宿屋で、この娘もネイティブだそうじゃないですか。」
「テメェ…」
「今の私たちに必要なもの、これも神の思し召しです。この娘こそ私に相応しい」
そういうとシュベルクはリノアの胸元に手を入れてまさぐり始めた。
「ンヴーーーッ!!ンンーーーーーッ!!」
猿ぐつわのようなものがされており叫べないようだ。
「いいですねぇ~体つきも私好みです。」
「コノヤロウ…ブッ殺してやる!!」
セトが走り出すと、続いてジャンも走る。
勢いよくシュベルクへと向かう!
「やってしまいなさい!」
シュベルクが叫ぶとともにクロードと兵達が立ちふさがる。
弧を描くように一気に俺たちの後ろへ回りこむと、
すぐさま斬りかかってきた。
「『フラッシュ スタンス』!!」
「『ウォンテッド ソード』!!」
ジャンが兵士達の動きを止めた瞬間、
次々と兵士が倒れていく。
「くそ!シュベルクめ!逃げたか!」
気づくとシュベルクもリノアもいない。
「『マキシマム カイン』」
「あのクロードってやつ、教祖の側近なだけあって『ドルイド』か!」
『ドルイド』
魔法などが中心で魔法使いに似た職業、
違う点は攻撃呪文が少なく補助魔法が多い。
「なんだ!?」
今しがた倒した兵士たちが立ち上がってくる。
「フフ、我の『マキシマム カイン』の効果範囲は大きく。範囲内の仲間を常時回復状態にするのだ」
「ッチ!厄介だぜ…」
ジャンが攻撃しようとしたその時!
「うわっとっと!!」
聖堂の窓ガラスを破ってビートが乗り込んできた。
「遅れたッス!w」
「いや「w」じゃねぇよ!?リノアを守れって言っただろうが!」
「いやぁ~なんかリノアちゃん睡眠魔法が使えたみたいで~」
「喰らったんだな」
「喰らっちゃったッス」
なにが「喰らっちゃったッス」だよ!おかげでこっちはピンチだよ!
てかリノアもレベリングの時に成長してたんだな、なんか嬉しい…
「ま、ここは自分に任せるッスよ~ジャン先輩もついてるッスから」
「おう!任せろ!」
「じゃあ頼んだぞ!」
ジャンとビートに任せると、
セトはシュベルクが逃げたであろう階段の上へと駆け上がる!