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猫と小説家  作者: ものおもうあたし。
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猫にとって、主人とは。主人にとって、小説とは。一人と一匹にとって人生とは。主人がどこかに置いてきた青春の心を、一匹の猫が探し当てる。

 吾輩は猫である、と、ある猫が申しておったそうですが、私はあのような猫とは少し、毛色の違う猫でして。私の主人も、小説家なぞと気取ったものを名乗っておりますが、なにせ、ほとほと売れないようでして。仕方なしに私自身が、このように小説なるものを書いてみようとする次第にございます。

 つまり私は、小説家の家に居候しております猫です。

 猫と小説家と言うより、猫の小説家なのであります。

猫、と言いましても、猫のナリをしているだけにございまして、勿論、皆さまの想像する猫と同様のライフスタイルを送っておりますが、皆様の想像する猫より遥かに多くのことを創造できるのであります。四本の脚を器用に使ってパソコンで文章を打つことも然り。最近、少し、ハマってしまっているのは、主人についてパチンコに行き、無垢な顔をして主人の台を勝手に乗っ取り、偶然を装って一発当ててしまうことです。

 運の良い、猫なのです。

 腹の黒い、猫なのです。

運、と言いますと、主人に出会ったのもまた運命のような気がしております。冒頭の猫のように主人の家に住み着いたわけではありませんで、生まれたときからの記憶がしっかりしており、ある裕福な家で生まれてしまった私を、その家の主は、知り合いである主人に譲ったようなのです。ですから私は、時折、主人の家に遊びに来るその主に対して、少しばかり冷たい態度をとってしまいます。いじめられたわけでもなく、捨てられたわけでもなく、恨んでいるのではないのですけれど、何せあまりに裕福な家ですので、私の母や残った兄弟たちの暮らしをうらやましく思っているのです。仕方のないことなのです。

 そうは言いましても、私は今の暮らしを気に入っております。しつけにうるさい主人ではないですので、いくらも自由に時間を使うことができます。主人自身、怠惰ですので、今もこうして隣で鼾をかきながら気持ちよさそうに寝ております。小説家と名乗ってはおりますが、私は主人の本を一冊しか知りません。パソコンにむかって、うんうんうなって、何やら構想を練っているようなそぶりを見せはしますが、そのうち飽きてネタ探しと称して私を連れて散歩に出てしまうのです。

 主人の書いた一冊の本は、偉大な賞を頂いて、今はその印税を食いつぶすような生活で、このままではいけないと思っているようではあります。恩返しとは少し違いますが、近頃、私のご飯の値段がワンランク下がってしまったようですので、これ一大事と、私自ら、書き出したわけであります。

 書き出したは良いですが、書くほどのこともない毎日ですので、その書くほどのことのない毎日を、書く他ないです。主人のことばかり宣うと思います。とにもかくにも、主人は、面白いことをしているわけではないのですがなかなか、興味深いお人ですので、つまらないことはないでしょう。

 こと、猫からの視点でありますゆえ。

 猫の小説家からの話でありますから。

私のことをもう少し話しておきますと、私は紫がかった灰色の、ロシアンブルーと言われる血統の、緑の瞳のメスの猫です。母も父も、ロシアンブルーで、兄弟は兄が二匹に妹が一匹いたようです。今、あの豪邸には妹と両親だけが暮らしているようですので、私以外に兄たちもどこかへもらわれていってしまったのでしょう。私以外にも、私のように人間的な思考力と器用な四本の脚と少し腹の黒い心が備わっているのかどうか定かではありませんが、会ってもし私だけだったならそれはまた悲しいものです。異端児というのは人間の世界でも猫の世界でも、孤独感を感じずには生きていけないものなのです。そう思えば、主人もそういった類の人間であるのかもしれないと思われ、親近感を抱きます。種族を超えた親近感など馬鹿にされるでしょうか。そろそろ主人が目を覚ますころ合いです。今日はこの辺にしておきましょう。

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