お題小説(表裏一体)
誰かから話しかけられたとき、たくさんの人がいる場所に来たとき。ぼくの周りに人がいると、あいつは必ずぼくの心のなかで騒ぎだす。
『こいつらが褒めてくるのはぼくたちを利用するためさ、わかってるだろ?』
『あいつら何をしてるんだろうね? あんなことしても無意味なのにさ』
他人が嫌いで、悪口を言う頭しかないあいつ。
あいつは、ぼくと同じ声で、ぼくの友達を傷つけるようなことを言い連ねる。まるでぼくもそう思っているかのように、話しかけてくる。
しかもぼくの体をいつの間にか乗っ取っては、心にもない言葉の数々をトモダチに投げつけて、ぼくからトモダチを奪っていく。
物心ついたときから、ぼくの心にはそんなやつが住み着いている。
なんで神様はぼくにこんなやつを押し付けたんだろう。
そんなことを何度思ったかわからない。どうにかしてくれと神社参りをしていた時期もあった。
それでもあいつは、ぼくの中から消えてくれない。
母さんへの挨拶を済ませて部屋に戻ったぼくは勉強机に鞄を投げ捨てた。
トモダチとの距離感、視線。また、去年のクラスと同じものになってしまった。
『荒れてるなぁ、鞄壊れるよ?』
ぼくの荒れの原因であるあいつは今日もケラケラと笑っている。学校では話すことなんてできないけど、家にいる今なら何でも言える。
「なんでまたぼくの体で好き勝手言ったんだ。おまえのせいでまたぼくは一人になった」
『人のせいにするのは良くないと思うけど』
「原因はおまえしかいないだろ」
ぼくはベッドに横たわって、天井を睨み付けた。睨み付ける相手がいないから、どれだけ睨んでも全くスッキリしない。呆れたようなあいつのため息が、ぼくの苛立ちを倍増させる。
『ぼくに原因があるなら、つまりおまえにも原因があるということだ』
ぼくとおまえは一心同体なんだから。
あいつの言葉に、ぼくは壁を殴った。
ぼくにも原因がある?そんなわけない。発言したのはぼくではなくあいつだ。ぼくは何もやってない。それなのに。
ぼくは寝返りを打って舌打ちをした。
「ぼくにまで責任を押し付けるな」
『だからぼくたちは……』
「ぼくとおまえは違う!」
出ていけ。消えろ。おまえなんか。
憎しみを込めた言葉と共に涙が溢れてきた。ようやくぼくの様子に気づいたのか、あいつは口ごもる。嫌な沈黙が流れた。
母さんがぼくを呼ぶ声がする。返事をせずにいれば、その声もなくなった。いつものことかと諦めたのかもしれない。度々あいつに話したり怒鳴ったりしているのは、母さんも知っている。
ぼくは顔を枕にうずめた。真っ暗になった視界に、今日のトモダチの顔がよみがえる。せっかく作り上げた関係は、あいつにいとも簡単に崩された。
「ぼくは……おまえが嫌いだ」
精一杯の憎しみを込めて放った思いは、いつもよりずっと冷たい声で現れた。あいつは小さく「うん」と呟く。
「そんなこと、とうの昔から知ってるさ」
まぶたの奥で、ぼくと同じ顔のあいつが悲しそうに笑ったような気がした。
『あいつ』がどういう存在なのか考えましたが説明するのは面倒なので皆様にお任せします。