暴走の果てに③
回収……いや、救出したサナとともに屋敷の探索に戻った私達。
双子はどこで暴れているのだろう。
「ねえ、サナ。アンジュさんとアレンを最後に見たのはどこかしら?」
サナは考え込んでいるようだ。
「そうですね……アンジュさんだったら、たぶんですが庭の方へ向かった気がします。何人かがその後を追って行きましたし。ちなみにアンジュさんは8人ぐらいを追いかけ回していましたよ。」
ほうほう、ということはアンジュさんはなかなかの大所帯を受け持っていると。
でも、魔物狩れていたから人間なら大丈夫でしょう。
どちらかと言うとアンジュさんが変なスイッチ入っていないことを願うわ。
私達はサナの証言を頼りに庭に出てみた。
するとちょっと開けた場所で妙なモノを見た。
なかなか良い体格の男達が15人ほど正座をしている。
その体は皆どこかしら怪我をしているようだ。
あきらかに何かで殴られた傷のような…………。
そしてその正座をしている男達の前には、もちろん無傷の、ロッドを携えたアンジュさんが仁王立ちしている。
男達に何か話しているようだ。
『はい!声が小さい、もう一度やりますよ!リリーナ様は女神だ!』
『『『『リリーナ様は女神だ!!』』』』
『リリーナ様に逆らう奴には罰を!』
『『『『リリーナ様に逆らう奴には罰を!!』』』』
『リリーナ様の為なら火の中水の中!』
『『『『リリーナ様の為なら火の中水の中!!』』』』
…………なにこれ。
どこかの訓練と見紛う姿が目の前で繰り広げられている。
サナとサスケさんも呆然とその様子に見入っているようだ。
サスケさんはちょっと顔が引きつっている気もするけど。
あの中に進み行く勇気は残念ながら私には持ち合わせていない。
私はサナとサスケさんに助けを求めることにした。
「あの〜〜、ちょっと私があの場に行くのはどうかしら、ね?2人ともスッと行って、サッとアンジュさんを連れて来てくれないかしら?」
私の言葉に2人は顔を見合わせて声を揃えて言った。
「無理」「無理ですね」
ええ〜〜、そんなこと言わずにそこをなんとか。
私達が誰がアンジュさんを回収するかで揉めている間にも訓練は進んでいる。
『リリーナ様に永遠の忠誠を!』
『『『『リリーナ様に永遠の忠誠を!!』』』』
いや〜〜、もうやめて〜〜。
いいよ、もう自分で止めに行くよ。
何故か私がちょっと涙目になりながらアンジュさんの暴走を止めに行くことになった。
だってそうしないとアンジュさんの訓練がエンドレスなんだもん。
しかし、あの男の人達私のことを知らないのに忠誠って……。
一体何を目指しているの?アンジュさん。
私は意を決してアンジュさんの元へと向かった。
後ろからはサナとサスケさんが私にエールを送っている。
「リリーナ様頑張って下さい!」「出来る」
エールなんていいから何とかしてよ。
だいたい「出来る」って何?
私が頑張って近づこうとしている今もアンジュさんによる男達の教育?は続いている。
『打倒クリス王子!』
『『『『打倒クリス王子!!』』』』
クリス様を倒すって……アンジュさん。
私は何故かビクビクしながらその集団に近づいた。
そしてそっとアンジュさんを呼んでみた。
「あの〜、お取り組み中申し訳ありません。アンジュさんもうそろそろ帰りませんか?」
私の言葉にアンジュさんが勢いよく振り向いた。
私のことを認識したその顔は満面の笑みだ。
アンジュさんはそのままダッシュで私に飛びついてきた。
「リリーナお姉様!ご無事でなによりです。」
アンジュさんは私に抱きついたままそう言った。
「アンジュさんもお怪我はないようですね。良かったわ。さあ、アレンを見つけて帰りましょう。」
あえてアンジュさんの後ろに控えている集団は無視してみた。
なんか非常に視線を感じるが見たら終わりだと思う。
「そうですね!アレンをとっとと引っ捕まえて帰りましょう!」
アンジュさんは私の手を引いてその場を離れようとした。
え?無視しておいてアレだけど、後ろの集団はイイの?
私がそう思っているのがアンジュさんに伝わったのかわからないが、アンジュさんが男達に言葉をかけた。
「さっきのこと忘れないでね?もし忘れたら……もう一度アレやるからね。」
アンジュさんの言葉に男達は必死に首を縦に振っている。
もうそれは壊れたおもちゃのようだった。
「じゃあ、最後にやるわよ。せーーーーの!」
「「「「リリーナ様は女神だ!!」」」」
…………ああ、戦っていないのにダメージがハンパない。
私の精神力がガシガシ削られていく。
もう、カエル。
私はアンジュさんに引きずられながらサナとサスケさんの元に帰還した。
2人の私を見るその目は同情しか読み取れない。
同情なんていらないから早く助けてほしかった、本当に。




