暴走の果てに
吹っ飛んでいった公爵は辛うじて生きてはいるのだと思う、いや思いたい。
今まで散々いろいろな人を苦しめてきたのにあんな一撃で死なれたら困る。
むしろあんな軽い投げだったら空中でクルッと回転して、きっちり着地を決めてほしいぐらいだ。
ちなみに放り投げたご本人のお祖父様は、投げた相手のことなどもう忘れたかのようにサスケさんのお土産を夢中で読み進めている。
そして、ある程度読んだところでクリス様にそのお土産を手渡した。
「ほれ、これは私には必要ないものだ。でもこの国にとっては良いきっかけになるのではないか?」
お祖父様から渡された書類をクリス様がスゴイ速さで読み進めていく。
その目は真剣だ。
そしてパタンと書類を閉じるとサスケさんのところへ近づきその手を握った。
「ありがとう。これがあれば今まで追求できなかった諸々が全て片付く。よくこんなの見つけ出せたね。」
サスケさんはちょっと照れながらこう言った。
「双子、暴れて、暇。だから、屋敷、探索、しまくった。」
おいおい、不穏な言葉が紛れているぞ。
双子がどうしたって?
暴れているのか?むしろ今もまだ暴れているのか?
怖いけどちょっとだけ聞いてみよう。
「あの〜〜、サスケさん?双子が暴れているというのはたぶんアレン君とアンジュさんだとは思うのですが、もしかして今もまだ暴れていらっしゃるのかしら?」
サスケさんは何当たり前のこと聞いているんだ、みたいな顔で
「暴走中。」
と一言しゃべった。
誰が止めるの?
公爵の屋敷ってどこにあるの?
私?私が止めに行けばいいの?
「あ、そういえばユーリさんは大丈夫かしら?まさかまだ屋敷にいるのですか?」
「大丈夫。脱出完了。」
そっか〜〜、良かった。
一般人があのメンバーと行動を共にしたら危ないもんね。
でも……ユーリさんという守るべき者がいなくなった今、暴走はますます激しくなっているのでは?
も、もうそろそろ迎えに行こうかな。
「お祖父様。私、サナとアレン君、アンジュさんを迎えに行きたいのですが……。」
「ああ、そうだな。ストレス発散も出来たんじゃないか?最近手加減して捕まえては運ぶを繰り返していたからな。思いっきり暴れてスッキリしているだろう。」
なるほど、誘拐はストレス発散の良い機会だったのね。
…………べ、別に羨ましくないから!
私なんてテーブルしか粉砕していないなんて思ってないから!
「では、迎えに行って来ます。サスケさん案内をよろしくお願いしますね。」
サスケさんは「うん」と首を縦に振ってくれた。
よし、行くかと部屋を出ようとしたところ、半ば存在を忘れていたあのお嬢様が立ち塞がった。
「お、お父様にあんなことをして!貴方の一族なんて全員捕らえられ処罰されますからね!それに貴方なんて……貴方なんて!」
どこに隠し持っていたのかナターシャさんは良く切れそうな子刀を手に私へと突進してきた。
……それを手に私に向かって来るということがどういうことかわかっているのかな?
いや、わかっていたら来ないよね。
私は突進してきたナターシャさんを軽くかわし、その手をひねり上げた。
「い、痛い!離しなさいよ、いやーーーー!」
そして私はそのままナターシャさんを床に投げつけた。
「ナターシャさん……武器を持って相手に向かう意味をご存知ですか?武器を持って攻撃した時点で相手に同じことをされても何も文句は言えないんですよ。」
私は今まで女性に対してはどんなに嫌味を言われようが、嫌がらせをされようが仕返しなんてしてこなかった。
だって私が何かやり返したらか弱いお嬢様達なんてイチコロだもん。
だけど今回のナターシャさんは救いようがない。
今まで散々行ってきたこともそうだけど、実際に私に刃を向けてきたのだもの。
殺そうとしてきた相手に情けはかけない。
私は今まで魔物ぐらいにしか向けていなかった本気の殺気をナターシャさんへぶつけた。
「ひぃい!」
ナターシャさんは私の殺気を受けて短い悲鳴と共に気を失った。
まあ…………気を失った方が良かったかもね。
ずっとこれを受けてたら発狂するかもだし。
私は殺気をとっとと引っ込めてサスケさんに行こうと声をかけた。
サスケさんはなんか小さい声で呟いている。
『ヤバい、俺、絶対、怒らせない……』
何だろうね?
ちなみに倒れているナターシャさんとその父親は運ばれていった。
2人とも完全に意識がない。
今後あの2人をどうするかはこの国の人達が決めればいい。
それよりも双子の回収が最優先だ。
誰も私達を止める人間はいないのでサスケさんと私は城の中を猛ダッシュで駆け抜けた。
すれ違った人達がみんな目を回している。
ごめんね〜〜。
走りながらサスケさんに聞いた話しによると公爵の屋敷はここからそう離れていないらしい。
私達が猛スピードで飛ばして遠目に屋敷が見えてきたのだが……なんか煙出てますけど?




